第160話 演奏会の練習(ファイナル)

 オッサン達の乱入やスズランと真冬の妨害をなんとか乗り越え、年少組14人の練習がやっと始まりを迎えた。


 その演奏会での楽器だが、ジュリアン、カルネ、カナリアの三人はピアニカをとても気に入って、どうしてもやりたいと言うので試しに少し練習させてみると上手に出来そうなので任せることにした。話によると年長組は13才の女の子1人と男の子3人しか居ないうえに、その男の子達は器用なタイプでは無いみたいなので丁度良かったのかもしれない。


 その他は、アンナとルルがトライアングル、幼女四人組がカスタネット、カイルとコンテがマラカス、幼男三人組がタンバリンとなった。

 そして配列は前後二段で、前が幼女、幼男の7人で、後ろは踏み台を設けて座を高くして、真ん中にピアニカ隊3人、向かって左側がアンナ、ルルで右側がカイルとコンテとなった。


 そして夏希はみんなの前に1m角の指揮台を設置してその上に立っている。


「なあ、お前ら‥‥‥狭いんですけど‥‥‥」


 その指揮台の上には何故か黒服を着たスズランと真冬が指揮棒を振り回しながら立っていた。(棒が当たって痛いんですけど‥‥‥‥)


「お前らさっきまで踊ってたのに何で来たの?ウットウしいんですけど」


「なぬ?ワレも仲間に入れて欲しいのじゃ。ワレも年少組と変わらんじゃろ?」


(まあ、見た目はアンナとそう変わらないからな。どうするかな?)


「うーん、まあいいか。真面目にやれよ?」


 夏希の許可を得たスズランは「きゃほー!」と叫びながらアンナとルルの所へ向かって行く。それも影に潜ってペンギンパーカーにちゃんと着替えてからだ。


 そして予想がついていたもう1つの黒服が期待の眼差しで夏希を見ていた。


「‥‥‥‥‥‥行ってよし」


 その黒服姿の真冬は忍の術「木の葉隠れ」で姿を消して服を着替えてカイルとコンテの元に走って行った。その服や帽子はメキシカン。それも両脇に2人分の衣装を抱えていた。


(お前と言うやつは‥‥‥‥‥‥)


 そしてカイルとコンテは阿鼻叫喚だ。


「やったぜ!これ気に入ってたんだ!真冬姉ちゃん、髭ないの?あのオモろい形の髭」


「もちろんある。これが一番大事」


 カイルとコンテは人前でも構わずにパンツ1枚になって着替えていくのであった。そしてそれを見ていたスズランが動き出す。影の中からガイモ君を取り出し何やら注文を始めたスズランはとても素敵な笑顔であった。


「ちょっとだけ待つのじゃ!」


 そのスズランはそう言ってアンナとルルを連れてサフィニアの店へと走り出した。そして5分程で戻って来た3人。その姿は全身が黄色で黒の線が縞のように入り胸の前だけが丸く白い動物。そう、タイガー(虎)だ。

 アンナとルルは「がぉー!」と言いながらトライアングルを「チンチン」鳴らしている。


「トライアングルだからトラにしたのじゃ。なかなかセンスあるじゃろ?」


 そう言って自慢気に話すスズラン。


「もうどうでもいいよ‥‥‥‥」


 先行きが不安な夏希。そしてその不安はすぐに的中する事になる。それは普段着を着ている残りの10人からの熱い視線だった。


「はぁ‥‥‥‥なにか希望はありますか?」


 夏希は項垂れて残りの子供達に問い掛けるのであった。(これじゃあ練習出来ねーよ)


 20分後‥‥‥‥‥


 夏希の目の前には不思議な集団が居た。


 赤いフラメンコ衣装のカスタネット幼女4人組。頭と背中にカラフルな羽を着けた衣装のタンバリン幼男3人組。トラの着ぐるみのトライアングル3人組。貴族のお嬢様風衣装のピアニカ3人組。メキシカンなマラカス3人組。


(なんだこの纏まりの無い集団は。もう誰か助けてくれよ。なんだよあのリオのカーニバル幼男達は‥‥‥タンバリンのタンバをサンバにしたのか?真冬の入れ知恵だろ‥‥‥)


 そして死んだ目をした夏希とは裏腹に、多いに賑わう子供達であった。また、それを見ていた7人のオッサン達が大笑いして「俺達もなんか着せてくれよ」と夏希を弄る始末だ。

 その夏希は約10分の休憩を取り、店先のサフィニアに水をやり精神を癒すのであった。


「よし、それじゃあ練習を始めるぞ。まずは楽器を鳴らしてみようか。俺がこの指揮棒で指示したら音を出してみるんだぞ」


 そう言った夏希は指揮棒を店先に出してあるテーブルに指揮棒を向けた。


「ほら、そこの薄汚い7人の小人達。子供達に拍手しろよ、拍手を」


 そこには夏希に無理矢理着せられた、とんがり帽子を被る小汚ない7人のオッサン小人達が居た。そして満更でもない顔をして「頑張れよ!」と拍手している。


(こいつら喜んで着てやがる‥‥)


「はぁ、それじゃあ次行くぞ。ほれ、お前らの番だ。出来れば歌いながら鳴らしてみろ」


 その夏希が指揮棒を向けた先はスズラン、アンナ、ルルのトライアングル組だ。


「キラキラなのじゃ」「チンチン」

「光るー」「チンチン」

「おとーなーのー」「チンチン」


(なんで2回鳴らすの?それにルルちゃんはなんで「お空の星よ」まで言わないの?ホントに素で間違えてる?意図的じゃないの?)


「うん、まあトライアングルはいい音だったね。色々と言いたい事はあるけどね。それじゃあ次はお前らだ」


 その指揮棒は隣の貴族風のお嬢様軍団を指している。そしてその3人は何故か「おほほ」と言ってから演奏を始めた。その演奏は初めてにしては上手いものだった。


「お前ら凄いな!初めてなのに綺麗な音色を出してたぞ。服装はアレだが期待してるぞ!」


 夏希に誉められた3人は「当たり前ざますわ」「そうですわにゃ」「おほほほでわん」と変な言葉使いだが上機嫌だった。


 そして次に夏希は嫌々ながらその隣へと指揮棒を向けた。そう、メキシカンに身を包む3人組にだ。その3人組は両手のマラカスをリズミカルに振り軽快な音を鳴らす。そして足を交互に前に出し、踊りながら歌い始めた。


「オーレーオレー、キラキラ光るー。オレーオレー、お空の星サンバー!あぁ、恋せよアミーゴ、踊ろうセニョリーター」


 とてもノリノリな3人である。


(それもう違う歌だろ‥‥‥‥真冬よ、いつの間に仕込んだんだ‥‥‥‥)


「もうお前らはいいよ」


 そう言った夏希を前に2番まで歌いきるメキシカン達。そして激しく腰を振りながら踊るタンバリン幼男3人組。


(ぐはっ、コイツら幼いからと油断してたがカイルの仲間だ。マトモじゃなかった‥‥)


 そして左側からもサフィニアを口にした幼女4人組がサンバに合わせてカスタネットを両手に持ち鳴らし、赤いドレスの裾をなびかせながら軽快なタップダンスを披露していた。


(もう終わりにしてもいい?)


 そしてその賑わう様子を見たメキシカン当主の「真冬」が我が意を得たりとニヤリと笑い、弟子の2人にアイコンタクトをした。

 その3人組はマツ○ンサンバを大合唱しながら台を降り、村を練り歩くつもりなのか移動を開始した。そしてそれに続く腰降り幼男3人組とタップダンサー幼女4人組。


 残ったのはジュリアン達とスズラン達だ。そのジュリアン達は「様子を見てきますわ」と言って後を追い掛けて行き、スズランは「な、夏希が死んだ目をしてるのじゃ」と腹を抱えて笑っていた。


 そしてアンナとルルが夏希の前まで来ると、


「「ごしゅーしょーさま」」


「「 チーン 」」


 と、トライアングルを鳴らすのであった。


 その日の演奏会の練習は酷い内容で終わったが、それからは真面目に取り組んで、みんな上手になったとさ。


 それと7人のオッサン小人達だが、あの真冬率いるサンバ軍団の後ろを踊りながら付いて行き村を練り歩き、母ちゃんに見つかってこっぴどく怒られたのであった。

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