第155話 お昼ご飯とマイケル爺さんの家族(1)

 サフィニアがオープンして10日ほど経ったある日のこと。


 夏希は店の名前でもあるサフィニアにぞうさんジョロで水やりをしている。


「ほーらお前達、たんと水浴びして大きく元気に育つんだぞー」


 店の前には赤、紫、白などの色をした花で溢れている。(すんごく癒されるの)


 そして水やりを終えた夏希は、店の外に設置したテーブルにお茶とお菓子を並べて一息入れる。勿論、目の前にはカエルとぶたさんとペンギンが座り、お茶を飲みながら花を眺めて「素敵」「綺麗なの」「ビールが飲みたいのじゃ」と騒がしくしている。


「今日はのんびりデーだ。誰が来ても無視なのだ。まったりするのだ」


 夏希の堕落した決意は固い。


「それならバーベキューするのじゃ!」


「準備と片付けが面倒だからパス」


 夏希の堕落した決意は揺るがない。


「アンナがお昼ご飯を作ろうか?」


「バーベキューが良さそうだな!!」


 夏希の決意は呆気なく崩れ去った。


 しかし、堕落の夏希は少しでも楽をしようと考える。そして閃いた。アンナでもたぶん大丈夫なメニューを。


「今日は暑いからバーベキューではなく、違うものにしようと思います。アンナちゃん、料理をお願いしてもいいかな?」


「うん!アンナに任せて!」


 夏希に頼まれたアンナは嬉しそうにして、半袖だが袖を捲る仕草をしながら答える。


(この笑顔や仕草が可愛いんだよな)


 夏希はネットスキルで必要なものを購入し、作業用テーブルを出して、卓上ガスコンロ、まな板、子供用包丁、鍋、小椀、小皿、おろし金、大葉、ネギ、ゴマ、生姜、シーチキン、キムチ、乾燥そうめん、めんつゆを並べる。


「今日のお昼は簡単そうめんにします。それではアンナ先生、よろしくお願いします」


「はーい!」


 夏希はガスコンロに大きな鍋をセットすると、水魔法でお湯を入れる。


「アンナ先生、この鍋に乾燥そうめんをドバドバと入れてください」


「これはとても難しそうなの。でも、アンナに任せればチョチョイのチョイなの!」


(これで難しいのか‥‥‥)


 アンナは袋からそうめんを取り出し、椅子の上に上がり鍋の中を確認すると、「えいっ」と言って手に持ったそうめんを投げ入れる。お湯が飛び散るのもお構いなしに何度も。


(それはとっても危ないの。なんで投げ入れるの?そーっとやろうね。そーっと)


「お湯が飛んできて危なかったの。でも全部避けたの。アンナは銀狼の娘。素早いの!」


「やるではないか。さすが鋭い爪と牙を持つ銀狼の娘なのじゃ」


(素早さに爪と牙は関係ないよね?)


 そしてアンナの後ろで両手に乾燥そうめんを握り締め、順番を待っている真冬。


「真冬、あとは頼めるか?アンナ先生は次の試練が待ってるんだ」


「任された」


 真冬は飛び散るお湯を「そんなものか 甘いな」と避けながら返事をする。


「ではアンナ先生、このネギと大葉を食べやすく小さく細く切ってください」


「はーい!」


 夏希は不安に思いながらもアンナに任す。そして暇そうにしているスズランにも指示を出す。


「スズラン、この生姜の皮を剥いで、おろし金ですりおろしてくれ。皮はこのピーラーを使えば簡単に出来るから」


 夏希はピーラーを買い足してスズランに渡すと、少し離れた場所にアイテムボックスから6人用テーブルを取り出し、2台並べて設置する。そして『流しそうめんデラックス(流れる早さが半端ない君)』を置いた。


(ふふ、このネーミングに引かれたのだ)


 そして夏希は取扱い説明書を読む。


「なぬっ!これ、水道の水が必要なタイプなのか!これは夏希のうっかりさんだ」


 バカ丸出し発言をした夏希は自宅に走って戻り、暫くしてホースを伸ばしながら戻って来る。先端から水を撒き散らしながら。そしてセッティングして仁王立ち。


「ははは、これで準備万端だ」


 排水用のホースも、離れた場所まで伸ばして放り投げている。『流しそうめんデラックス』もポータブル電源に繋いで稼働中だ。


 そして準備を終えた3人が興味を示して集まってくる。


「わぁー、お水がグルグル回ってるの!これでなにするの?泳ぐのは無理だよね?」


 椅子の上に立って眺めるアンナとスズラン。そして走ってどこかに行く真冬。


「これは、アンナちゃんが作ったそーめんを流して、それをすくって食べるものなんだよ。遊びながら食事が出来る優れものだ」


「すごーい、食べるの楽しみなの!」


(ふふふ、俺も楽しみになってきた)


 そしていつの間にか戻ってきた真冬が投入口に何かを入れていた。


 この『流しそうめんデラックス』は、投入口が付いた大きめの箱が付いていて、そこにそうめんを入れておくと設定した間隔で排出口が開き、そうめんが流れてくる自動装置が付いているお利口さんなのだ。


 何かを入れ終わった真冬は、アンナとスズランと並んで椅子の上に立つ。


 そして待つこと僅かな時間。


 片側2メートル、全周で6メートルになる巨大な運河を流れてくるのは黄色い物体多数。


(まさか‥‥‥そんな子供っぽいことをするとは思わなかったよ真冬ちゃん)


「わあー!アヒルさんが流れてきたの!それも団体さんだよ。その後ろからカエルさんも流れてきた!でもぶたさんが居ないの~」


「そうか!こうやって遊ぶのじゃな。ワレもペンギンを流すのじゃ。真冬、ガイモ君を出すのじゃ。ペンペンを買うのじゃ」


 夏希は流れてくるアヒル軍団とカエル軍団をすくってはアイテムボックスに入れていく。


「「「あ~~~」」」


 3人は残念そうな声を出して夏希を見る。


「いや、違うからな。これはそうめんを流すものだからな。ほら、食べようぜ。ランカさーん、ルルちゃーん、お昼だよ!」


 店番をしていた2人が向かってくる。ルルちゃんは気になっていたのか走ってきた。


「それなーなの?まふゆねーねがアヒルたんもってた。でもいなーい」


 しょぼんとするルルと「もちろん出すんだろ?」と目で訴える3人。


 それからアヒル軍団とカエル軍団の行進を3回見て、やっとお昼ご飯になった。


(やっと食べれる‥‥)

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