第156話 お昼ご飯とマイケル爺さんの家族(2)

「のんびりデー」のお昼ご飯に流しそうめんを選んで準備した夏希達。


「おー、アンナが作ったそうめんが流れてきたのじゃ。これをすくって小椀に入れためんつゆで食べるんじゃな」


 スズランは夏希が準備した刃の部分が縦横共に波打っている麺用のフォークで食べる。


「うん、冷たくてスルスルッと食べれるのじゃ。そしてこのめんつゆが旨い。大葉のいい匂いとゴマの風味が合わさって最高のそうめんが完成したのじゃ!」


 その隣ではランカがルルの小椀にそうめんを入れてから食べ始める。


「あら、これはいいわね。暑い日で食欲が無くても食べれそうだわ。生姜のアクセントが気に入ったわ。ネギも美味しい」


「『ちんちんきん』がおいちー」


(危ない言葉の塊だな‥‥‥)


「ルルちゃん、それはシーチキンだね」


「ちんちちょきん?」


「「ぶふっ」」


 スズランと真冬が軽く吹き出す。


(もう訂正しない方がいいな)


 夏希は長くカットされたネギ、真っ二つの大葉、おろし生姜、ゴマを入れて食べる。


「旨いな。夏はやっぱりそうめんだ」


 6人は薬味を色々と試しながら美味しいお昼ご飯を食べた。色付きの麺を争うようにすくったり、偶に流れてくるアヒルやカエルを眺めながら。


 そしてお腹が膨れた6人は雑談を始める。サフィニアのお店は放置状態だ。


「そう言えばマイケルお爺さんの家族が里帰りして来てるんですよ。それも大家族で」


 お茶を飲んでいたランカが話す。


「そうか、マイケル爺さんはエリー婆さんと2人暮らしだったな。家族は別の所に居たんだ。なんで一緒に住まないんだ?」


「2人には娘が1人だけ居たんですが、結婚して夫の村に移住したんです。その時に2人も一緒にと誘ったらしいのですが、生まれた村を離れるのが嫌だと断ったそうです。仲が悪いとかは無いですよ」


(そうなんだ。でも寂しくないのかな?)


「それで孫が3人居るんですが、最後の1人が結婚するらしくて挨拶に来たそうです。ひ孫も5人居るんですよ。凄いですよね」


 夏希は話しながらも意識が横にそれる。


 ランカと夏希が話している側では、わんぱく4人組が『流しそうめんデラックス(流れる早さが半端ない君)』を速度マックスにして、カエル、ペンギン、ぶたさん、アヒルを使ってレースをしていた。


「アヒルたん、がんばえー」


「カエル バタフライ!」


「あー、ペンペン頑張るのじゃ!このままでは負けるのじゃ。もう飛んでしまえ!」


「飛ばねぇぶたは、ただのぶただよ!」


(いつの間に買ったんだよ。スズラン、ペンギンは飛ばないからな。それとアンナちゃんはなんで知ってるの?)


 夏希はランカとの話しに意識を戻した。


「その大家族全員が村に来てるんだ。それは凄いね。でも寝るところあるの?」


「村のお風呂場に休憩場所がありますよね。あそこに住人から布団を借りて寝泊まりしてるんです。それでたしか今日、サフィニアに遊びに来るって言ってましたよ」


 そして噂をすればなんとやらで、向こうから団体さんが近づいて来るのが見えた。


 マイケルが夏希達を見つけ、曲がった腰を伸ばして手を振ってくる。


 夏希達も手を振って出迎えた。


「夏希、家族を連れて遊びに来たじょ」


 小さなひ孫達は親が握る手を振りほどき、スズラン達の所へ駆け出して、椅子に登ってレースを眺める。可愛い動物達が流れてくるのを見て喜んでいた。


「マイケル爺さんとご家族の方、ようこそサフィニアへ。暑い中、歩いてきて疲れたでしょう。こちらに座って休んでから、お店を見てください」


 夏希はそう言って新たにテーブルを2つ出し、飲み物とお菓子を並べる。


「夏希ちゃん、ありがとうね。ここには珍しいものがあるから孫達やひ孫達にも見せてあげたかったの」


 そしてエリーに似た40過ぎくらいの女性が挨拶をしてきた。


「初めまして、娘のメルサです。父母がいつもお世話になってるようで、ありがとうございます。久し振りに会ったのですが、前よりも元気な姿なのでビックリしました」


 朗らかな性格が滲み出るような笑顔で話し頭を下げるメルサ。そして隣に居る男性も頭を下げてきた。たぶん旦那さんであろう。


 大人達は一度、子供達の様子を見に行ってから用意したテーブルの椅子に座り、自己紹介をしてから飲み物とお菓子に手を付けた。


「また面白い遊びをしておるの。あとでワシもひ孫達と遊ぶとするかじょ」


「マイケル爺さん、あれはオモチャじゃなくて、ご飯を食べるものなんだよ。お、そうだ。皆さんも食べてみませんか?」


 実はアンナと真冬が張り切って、そうめんも薬味もまだ大量に残っていたのだ。


「夏希ちゃん、この大人数だけど大丈夫?無理する必要はないからね」


「ははは、実は大量に余ってるんだ。遠慮は不要だよ。エリー婆さん」


 マイケル爺さん大家族は、それならと場所を『流しそうめんデラックス』があるテーブルに移動して座った。


 夏希は食器を手渡して、薬味と食べ方の説明をする。そして投入口で怪しげな笑みをしている3匹の動物達に声を掛ける。


「そこの3匹、そうめんを流してくれ。そうめんだぞ?判ってるよな?頼むぞホント」


 3匹は息を合わせてニヤリと笑い答える。


「「「判ってる、判ってる」」」


(もう嫌な予感しかしないんだけど‥‥)


 そして流れてくるそうめん。


「おー、これは美味しいな。このめんつゆが独特の香りと味で素晴らしい。薬味も色々あって楽しめるのもいいな」


 メルサの旦那さんがベタ誉めすると、皆も競うように食べ始める。そしてその美味しさと物珍しさに頬も緩み会話が弾んでいく。

 子供達も「これうめー!」「赤色が流れて来てる!それ僕の!」「黄色いのは私の!」「そこの緑色は俺のだぞ!」と大盛況だ。


(ん?黄色?緑色?たしか赤色だけ‥‥‥)


 夏希は焦って流れる運河を見た。目に入ってきたのは大航海に出ているアヒルとカエル。そして何故か木の板に乗るぶたさんと水中を転がる重石を付けたペンギン。


 夏希は呆れた目で3匹を見ると、


「「「フラグでしょ? フラグ」」」


 とウインクしながら口パクで答えた。


(はぁ、もうどうでもいいや)


 そして楽しく食事会を終え店を案内すると、奥様方が物凄い勢いで化粧品やお風呂セットをかき集めていく。(怖いんですけど‥‥)


 そしてサフィカードを販売して、そのカードで購入してもらった。その時に夏希は奥様方にお願いした。


「あの、ここの商品は村人限定で販売しているものなので、他に話を広めないでくださいね。来てもらっても売りませんから。マイケル爺さんとエリー婆さんに頼まれたから、今回だけ特別に販売したんですからね?」


 奥様方は買えた嬉しいさ半分、今後は買えない悲しさ半分の顔をして約束してくれた。


「夏希、あの会員証のカードか姿絵のカードは駄目なのじょ?あれがあれば毎日孫やひ孫の顔が見れるのじょ」


 マイケルが遠慮気味に聞いてくる。そしてエリーがマイケルを杖で突く。


「夏希ちゃんは、村人限定の化粧品やお風呂セットを売ってくれたんだよ。これ以上、迷惑かけてどうするんだい。バカ爺が」


 夏希はそのやり取りを微笑ましく見ていた。そしていつの間にか消えていた真冬が現れたのを確認して声を掛ける。


「真冬、出来たか?」


「バッチリ 素敵に出来た」


 真冬はマイケルと娘のメルサに一冊ずつA4サイズのアルバムを手渡した。


「カードは作れませんが代わりにこれを差し上げます。1冊ずつで中は同じものです」


 マイケルは震える手でそのアルバムを開き、その隣でエリーが覗き込む。そして2人は涙を流しながら笑顔でページをめくっていく。


 ひ孫達が横並びして動物レースをキラキラした目で見て、手を上げ声を出して応援している写真。楽しそうに食事をしている家族達。ひ孫に囲まれて笑っているマイケルとエリー。その写真の数は50枚ほどだ。


 メルサの夫や孫達、ひ孫達もメルサとマイケルの手に持つアルバムに群がって、泣きながら見ている者も居れば嬉しそうに笑いながらみている者も居た。


 そしてその品評会が終わるとマイケルとエリーは立ち上がり、夏希の前に来て涙をながしたまま頭を深く下げた。


「夏希ちゃん、こんな素敵なプレゼントをありがとう。私は今日ほど嬉しかった日は娘のメルサが生まれた日以外は無いよ」


「夏希、ワシはこのアルバムがあれば、あと百年は生きられる。本当にありがとう」


 そう言って2人は夏希に軽いハグをした。


(幸せそうな顔を見れて俺も嬉しいよ)


 そのあとは外に出て、大家族の集合写真、ひ孫達、孫達、娘との写真を撮り、追加して渡しお別れした。


 そして夏希達も色々な組み合わせで写真を撮り、一冊のアルバムに収めた。


 そのアルバムの一枚目は、スズラン、真冬、アンナを前に並べ、夏希が後ろの真ん中に立ち、幸せそうな笑顔をした写真であった。

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