第153話 夏希屋オープン準備(2)
ワイヤレス蛍光灯で遊んでいた動物パーカー三姉妹は頑張って棚入れをしている。
夏希はそれを見ながら4人が食事が出来るほどの木製の丸テーブルをカウンター前に設置して、その椅子に座って作業していた。
(あの蛍光灯、子供達が来たら同じことして遊びそうだな。厭な予感がする‥‥‥)
「よし、準備が出来た。おーい、そこのぶたとカエルとペンギン、こっちへ来てくれ」
「「「はーい」」」
(真冬、なんか幼女化してきてないか?)
3人は「シュタタタ」と走って来て、空いている3つの椅子に座る。そして夏希が広げている色々な物を興味深く眺めていた。
夏希が広げているものは、ポータブル電源に繋いだノートパソコンとプリンタとラミネーターだ。そして新たにスマホを取り出した。
「まずはアンナちゃんにするかな。さあ、ぶたさん、あそこ壁に立って可愛いポーズをしてくれるかな?」
夏希が指示した場所には、緑色一色の壁紙が貼ってあった。
「これはなんなの?」
アンナは不思議そうに絵を眺めている。そして落ち着くとスチール製のラックに向かって歩いて行き、取り付けてある蛍光灯を取り外し手に持って光らせる。そして足を大きく前後に開いて中腰になり、両手で右肩上部に構えた。
(その蛍光灯剣が気に入ったのね)
夏希はその姿をスマホで撮影するとパソコンにデータを送り、加工ソフトで背景の合成と文字を追加入力する。
(剣を構えてる写真だから、夜空に輝く星の下とかでいいかな?)
そして仕上がった写真をプリンタで印刷し、ラミネーターでラミネートする。
「ほい、これで完成。これは夏希屋会員証だ。カッコいいだろ?アンナちゃんは、会員番号1になるからね」
アンナが受け取ったカードはカードゲームと同サイズのもので、全面に夜空に輝く星の中でアンナが光る剣を構えている姿が映し出されている。そして下の方に「会員番号1 アンナ」と表示されていた。
「これすごーーい!アンナが強いの!カッコいいの!素敵なの!」
大興奮のアンナである。
「おお、アンナが凛々しく見えるのじゃ。それでこの会員証は何に使えるのじゃ?」
夏希は自慢気に話す。
「何にも無いぞ?ただ、作ってみたかっただけだ。はははは!」
「はぁ、夏希の事だからそんな気がしたのじゃ。まぁ、子供達は喜ぶじゃろうな」
スズランは呆れ顔で夏希を見ていた。そして何気に壁の方を見てみると、真冬が蛍光灯剣を2つ構えてポーズを決めていた。
「‥‥‥‥‥‥夏希、出番じゃ」
夏希は苦笑いしながらスマホで撮影し、溢れんばかりのヒヨコ軍団が背景のラミネートカードを手渡した。
「ピヨピヨがいっぱい 素敵」
真冬とアンナはお互いのカードを見せあいこして喜んでいる。(ふふふ、これは大ブームになる予感がするのだ)
そしてアンナと真冬の楽しげな会話が終わり、何気に壁の方を見てしまう。
そこには、まるで孔雀の羽のように蛍光灯剣を床に扇形に並べ、その中心に寝転がって「上から撮るのじゃ、上から」と夏希に指示を出しているスズランの姿があった。
「「…………」」
それから2時間ほど経過し、今は夏希が飲み物を出して休憩中である。
「3人とも手伝ってくれてありがとう。商品も全て並べ終わったし、蛍光灯も取り付け出来た。あとは俺が準備するだけだから、今日はこれで終了だな」
孔雀の羽が生えたペンギン姿のラミネートカードを見て、ニヤニヤしていたスズランが話し掛ける。
「夏希はあと何をするのじゃ?」
「よくぞ聞いてくれた。光る孔雀ペンギンよ。実は皆が準備してる間に、こんなものを作ってました」
夏希が取り出したのは、会員証と同じサイズで、裏面全体と表面は1cm幅に銅と銀色に縁取りされたラミネートカードだった。
そしてその表面には、デフォルメされた色々な動物と数字が描かれている。
「これは、お金の代わりをするカードだ。縁が銅色で1と書いてあるのが小銅貨で1ディール。10は銅貨で10ディールだ。銀色は銀貨で100ディールだな」
(ここで初めてアスディール帝国の貨幣の呼び名が出たのだ。因みに1ディールは10円だ。覚えておいてね)
「ほほお、それでどう使うのじゃ?」
「子供達は家の野菜を持ってきて、お菓子とかに交換してるだろ?その野菜が親の手伝いとかで駄賃として貰ったものならいいんだ。でも勝手に持ち出してる子供もいるはずだ」
3人は「なるほど」と頷く。
「だからこのカードを親に売って、子供が手伝いや良いことをした時に渡してもらうんだ。それで子供達はこのカードで買い物をする。
そうすれば、親も喜ぶし子供達の教育にもなる。いい案だと思わないか?」
「それなら制約に引っ掛からずに売ることが出来るな。良く考えたのじゃ。だったら全てそうすればいいのではないか?」
スズランは夏希の中途半端なやり方に疑問を持った。
「それなんだが、この獣人村は自給自足が基本だから貨幣はあまり流通していない。だから子供の小遣い程度ならいいが、高額になってくると買えない人違が出てくるんだ。
だから現状では、野菜との交換も継続するつもりだ。まずは試験運用して問題点を出しながら改善していこうと思う」
夏希は3人がどうすればいいか話し合っている姿を見て、嬉しく感じていた。
「この件は幹部会で一度話し合いをしてくるから、それまでは保留だな。あとは店番なんだよな。俺達は狩りとか行くだろ?それにしたい事もまだある。誰かいい人居ないかなぁ」
そこでアンナが「はい!」と手を上げた。
「はい、アンナくん」と夏希が指差す。
「ランカおばちゃんがいいと思います。ルルちゃんが居るので働けないと言ってました。だから、ルルちゃんと一緒に店番したらいいと思います。どうですか?夏希先生」
「はい、大正解です。お利口さんです」
夏希はアンナの頭をナデナデすると、アンナは「えへへ」と照れ笑いだ。
「よし、あとで聞きに言ってみるよ。アンナちゃん、ナイスアイデアだったよ」
(これで夏希屋オープンの目処がたったな)
その日の夜は「オープンの目処がたったよ」記念として、ラグ家を招いて盛大な夕食を食べた夏希達であった。
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