第143話 獣人村で宴(新築祝い&お帰りなさい)2nd

 獣人村で新築祝いの宴をしてもらう夏希。


 夏希達3人とロバ1頭は、村人達にスズラン達の紹介と酒や食べ物を配って回った。


 身長が155センチほどの真冬は彼女に間違えられた事に対して、140センチほどのスズランは妹や娘に間違われ落ち込んでいた。


「ぐぬぬ、ワレは美女で淑女なのじゃ。こうなれば本来の姿を見せるしかないのじゃ」


「ん?その姿は本物じゃないの?」


「アホか!ワレはもう大人じゃ!この姿は夏希と出会った時に「のじゃロリ」がどうとか言ったから、ワレの子供時代の姿にしただけじゃ」


(そう言えばそんな事があったな)


「ははは、でも村人達に見られてるから駄目だよ。俺は今の姿のスズランでも可愛いからいいと思うよ。大人のスズランも見てみたいけど」


 スズランは照れていた。


「ま、まあ、見せてやらんことも無いのじゃ。夏希がどうしてもと言うのならな」


(おお!これがツンデレってやつか?」


「ああ、楽しみにしとくよ」


 スズランは上機嫌で残りの挨拶回りをしたのであった。因みに真冬は幼女、幼男の子供達をずっと見ていた。手をワキワキさせながら。


 挨拶回りが終わり、ラグ達の所に戻った夏希達はスズランと真冬の事やトバルでの生活がどうだったかを話し、ラグ達は夏希が居なかった間の村の様子を話して盛り上がっていた。


「そうか、魔法も師事してもらえる師匠が出来たんだな。Aランクともいい勝負をしたのなら、俺はもう夏希には勝てないな。下手な勝負をしたら俺は夏希に殺されてしまうな!わはははは!」


「ラグ、大丈夫だ。お前は死んでも直ぐに生き返るから。それも色々なモノにな!」


「ぶほっ!」


「な、夏希……今はやめるのじゃ。ワレはもうラグ殿の顔が見れなくなったのじゃ」


「なぁ、夏希。俺、笑われてないか?」


 ラグは不思議そうにスズランと真冬を見ている。


「大丈夫だ。ただ、アンナちゃんと「わらしべ」には気を付けるんだな。あとシルバーにもな!」


「「ぶふーー!」」


 スズランと真冬は盛大に吹き出すのであった。


 その後、幾つか夏希オリジナル物語をみんなに披露すると、周りの村人達も含めて大爆笑の渦をもぎ取った夏希は大満足であった。(ネネさんには「何故、嫌われものの役ばかりなんだ?」と殴られたけどね)


 その後も楽しく宴は続き、少し離れた場所に置かれた松明の灯りが皆を照らし、空に綺麗な星が見える時間帯となった。


 村人達は、夏希が配ったビールやツマミを「旨い!」と言いながら盛り上がり、子供達はお腹いっぱいになったようで、皆で集まって遊んでいた。


「夏希達はこれからどうするんだ?また私達と狩りをするか?それとも畑でもしてみるか?」


「ネネさん、当分の間は森の奥に入って魔物を倒します。それでネットスキルで換金して家具とか揃えようと思います。お店の準備もしないといけないですし。ああ、ネネさん、家の事ですがありがとうございます。音頭取ってくれたんですよね」


 ネネは照れ隠しにビールを一息で飲む。


「お前は自分の事を過小評価し過ぎている。お前がこの村に来て助かった人は大勢いる。村人達はお前を頼りにしてるぞ。ああ、ネットスキルだったか?あれの事では無いぞ。お前は常に周りを気にして困ったことがあれば話を聞いたり手伝ったりしていたな。

 それが村人達に好かれている理由だ。お前はもうこの村では纏め役のメンバーとしての地位を持っているんだぞ。知らなかっただろ?」


 ネネは嬉しそうにビールを一息で飲んだ。


「えっ!纏め役ってなんですか?と言うか、この村で村長を見たこと無いんですが村長の仕事でしょ?」


 ラグが話しに割り込んでくる。


「ああ、この村には村長は居ないんだ。その代わり、纏め役と言う役職があってな、今は俺とネネ、あと3人居るんだ。その中に夏希が追加で入る事になった。まあ、この村はあまり外との交流は無い。だから難しく考えないで村の相談役と思えばいいんだ」


 夏希は最初は困惑していたが、村の為になるならばと纏め役を引き受けることにした。


「ワレも手伝うから頑張るのじゃ」


「ああ、頼むよスズラン。ラグ、ネネさん、出来る限りの事はするよ。宜しく頼む」


 ラグとネネがビールを夏希の前に掲げると、夏希も同じ様に手に持つビールを掲げ飲み干した。


(頑張って今以上に笑い溢れる村にしたいな)


 そう思っていた夏希に複数の声が掛かる。


「夏希兄ちゃん、お菓子ありがとな!」


「「ありがとー」」


 遊んでいた子供達が夏希の周りに集まって来た。


「おお!お前らか。お菓子だけどごめんな、量が少なくて。早めに店を開くからな」


「はは、大丈夫だよ。帰って来たばかりなんだから、ゆっくりすればいいよ。お菓子は欲しいけどね!」


 夏希はカイルの頭を乱暴に撫でる。


(なにか子供達にしてやりたいな……お!そうだ。ルンバ師匠が花火を上げて子供達だけでなく大人達も喜んでたな。あれをやれば俺の人気も急上昇間違いなしだな!お前ら、スッゴいの見せてやるぜ!)


「おい、お前ら。これから夏希兄ちゃんが凄いモノを見せてやる。そこに並んで空を見てろよ」


 夏希は夜空に盛大に上がる花火をイメージする。たくさんの花びらが舞う花火を。そして両手を空に向かって上げ大量に込めた魔力を解き放つ。


「舞い散れ水花火!」


「ヒューーン…… ズッガーーン!」


 途轍もない轟音が村に響き渡る。音だけが……


 そして十数秒後。


「「「ザザザザーー!」」」


 綺麗な星空から無数の水滴が落ちてくる。


「「うわっ!冷めてっ!」」


「なんで晴れてんのに雨が降るんだよ!」


 宴をしている中央広場は大混乱だ。夏希は村人達に謝り子供達は呆れていた。


「夏希はアホ  私がする」


 真冬はそう言うと手に雷が纏わり始める。


「待て真冬!今周りは水浸しだぞ!みんな感電死するぞ!ビリビリしちゃうぞ!」


 夏希は真冬の行動に焦って慌てて止める。


「お前らはアホか?ワレが手本を見せるのじゃ」


 スズランが両手に複数の光の玉を産み出すと、その色取り取りの玉はゆっくりと浮かび上がり、スズランの頭上で華やかな舞を見せる。


「「わぁ、凄い綺麗!」」


「「いろんな色の光の玉が踊ってる!」」


 子供達や大人達もその光の舞いに夢中になっていた。


 そしてその光の玉は空高く舞い上がった。


「「シューー! ババーーン!」」


 あまり大きくは無いが、空にたくさんの綺麗な花が咲き、そして綺麗な花びらとなって散っていく。


 それはとても素敵な光景だった。


 村人達はみな幸せそうに、その花を眺めている。これからも楽しい出来事が起こりそうだと感じながら。


「ふぅ、今のワレではあれが限界じゃ」


 スズランは夏希の闇を押さえ込んでいるので、魔力が少なくなっている。だが、魔力操作はさすが元天使である。ルンバ以上に精密な魔法であった。


「「スズラン姉ちゃんスゲー!!」」


 子供達はみんなスズランの周りに集まり大喝采だ。


(ぐぬぬぬ、俺の華やかな舞台が……)


 大人気ない夏希である。


 その頃真冬はスズランの傍に寄り添って、モフモフ達をナデナデしたりモフモフしていた。


 夏希の新築祝い&お帰りなさいの宴は、その後も賑やかに楽しく夜遅くまで続いたのであった。




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