第142話 獣人村で宴(新築祝い&お帰りなさい)

 獣人村からの好意で我が家を手に入れた夏希。


 夕方になり、夏希達はアンナに連れられて村の中央広場へと向かった。


 中央広場には既に村人が大勢集まって宴会を始めている。広場には各々が持ち寄った敷物を敷き、得意料理を持ち込んで数家族でテーブルを囲んで楽しく食べて飲んで賑やかにしている。


「ははは、この光景は懐かしいな。堅苦しい挨拶も無しで楽しむこの宴は俺のお気に入りだ。スズラン、真冬、これが俺の故郷。そして楽しい仲間達だ」


 夏希は自慢の村を2人に紹介出来て、とても嬉しそうにしている。


「お!主役の登場だぞ!待ってたぞ。もう飲んでるけどな!はははは」


「「お帰り夏希!乾杯!」」


「「夏希兄ちゃんだ!」」


 夏希を見つけた村人達が次々と声を掛けてくる。それは仲間に対する笑顔であった。


(やっぱりこの村は最高だな)


「みんな!素敵な家をありがとう!これで俺も獣人村の一員だ。これからも宜しくな!」


 夏希は皆に感謝を込めてお礼を言った。そして村人達は手に持ったコップを高く上げる事で歓迎の意を表したのであった。


「夏希、気の良い連中じゃな。ワレもこの村が好きになったのじゃ」


 夏希の嬉しそうな姿を見て話すスズラン。


「けも耳しっぽの子供達 ここが私の故郷」


「真冬……お前は政宗派だったのね」


「あのハゲとは違う」


 真冬は手を「ワキワキ」させながら話す。


「おーい夏希!こっちだ。早く来いよ!」


 声がする方を見るとラグが両手を振っていた。


「スズラン、もうすぐ飛ぶぞ。蛾になってな」


「ぶふっ!今はやめるのじゃ。周りの村人達に変な目で見られてしまうのじゃ」


「でもラグから10メートルほど後ろを見てみろよ。何故かシルバーがラグを見て足踏みしてるんだぞ。庭で放置してたからここに来たんだな」


「「ぶほっ!」」


 これには真冬もスズランと一緒に吹き出した。(真冬はオリジナル物語をトバルで聞いてるからね)


 夏希達はラグの元に向かって歩いていく。その間にもたくさんの村人達から「お帰り!」と声が掛かる。あと、スズランと真冬の事も「彼女か?」「隠し子か?」「べっぴんさんだな!」と声が掛かる。


(紹介してなかったな。後で酒を注いで回るか)


 ラグが座るテーブルには、いつものメンバーが揃っている。ラグ夫婦、ネネ夫婦、ランカ夫婦だ。今日は子供達も一緒に座って食べていた。


 夏希は空いている場所に座り、その両隣にスズランと真冬が座った。それを見たアンナが寄ってきて、胡座をかいた空間にちょこんと座る。


「夏希、まずは乾杯だ。ビールを出してくれ。ずっとお預けだったんだ。頼む!」


(そうだ、酒類は置いて行かなかったんだ)


「ラグ、お前という奴は……夏希が無事に帰って来たんだぞ。最初の一言がそれか?」


「母ちゃんも「化粧水が残り少ない。夏希はいつ帰って来るんだ!」ってよく言ってるじゃん」


 息子カイルの言葉にネネはカイルを睨む。


「うげっ、俺はこの後、木に吊るされるのか……」


「ははは、まあ楽しく飲もうぜ」


 夏希はビールやワインなど、ツマミと合わせてアイテムボックスから取り出してテーブルに並べる。


「なあスズラン、アイテムボックスに大量に貯めている酒類を村人に配ってもいいか?」


「ふふ、勿論大丈夫じゃ。これからワレもお世話になるのじゃ。ツマミや箸巻きとか食べ物もあるじゃろ?あれも全部出せばいいのじゃ」


「みんな、今座ったばかりだけど村人達に酒やツマミを配ってくるよ。スズランと真冬の紹介も兼ねてな。アンナちゃん、ここにお菓子出しとくから村の子供達に取りに来るように言ってくれる?」


「判ったー。あのね夏希お兄ちゃん。みんなね、ずっとお菓子が無くて寂しそうにしてたの」


(ネットスキルのMAXと使用限度金額が少なかったから、あまり準備出来なかったんだよな)


「それは可哀想なことしたな。今日の分は俺の奢りだから野菜は要らないって言っといて」


 アンナは夏希の言葉に困った顔をする。


「夏希お兄ちゃん、それは無理だよ。だってみんな「お菓子を売って貰うんだ!」って、お家から持てるだけ持って来てるんだよ?カイルなんか何回も取りに戻ってたよ。ほら、そこにあるでしょ?」


 夏希はカイルが座っている後ろをよく見ると、てんこ盛りの野菜達がある。そして周りを見渡すと同じ様な光景が目に入った。(何気に子供達が期待の目をして俺を見てるんだけど……)


 周りに居る子供達は、美味しいご飯を食べているにも関わらず、飢えた野獣の目をして夏希を見ていた。

(いや、ホントに怖いんだけど……)


 夏希は震える手でアイテムボックスから、あるだけのお菓子を撒き散らしながら出して行く。(あんまりストックが無いよ………家具を買ったから今日はもう買えないし……ぼく噛まれちゃう?死んじゃう?)


「アンナちゃん、今はこれだけしか無いから上手く分けてね。早めにお菓子屋をオープンさせるからと言っといてね。あと、襲わないでねとも言っといて」


「ふふ、夏希お兄ちゃん大丈夫だよ。みんな親から買い過ぎは駄目って言われてるから」


「夏希、早く行くのじゃ。挨拶が終わらんと落ち着いてビールが飲めんのじゃ」


 夏希はスズランに急かされ2人を連れて挨拶周りに行く。何故かその後ろにシルバーが「ヒョホー、ヒョホー」と鳴きながら付いて行くのであった。

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