第135話 出発前の挨拶回り(1)

 ニアとスズランが仲良くなり嬉しい夏希。


 今日は街を出る前日の朝。


 夏希は装備に着替えて宿屋を出る。今日は親しくなった人達に挨拶回りをするのだ。


「まずは冒険者ギルドだな」


 夏希はスキップと鼻唄付で突き進む。


「ふんふふーん、はーるがきーたー、どーこーにーきたー、ん?何処に?もちろんー、俺だね!」


 もはや鼻唄では無い。


 そして鼻唄を7番まで歌ったところで夏希はギルド前に到着し、鼻息荒く両開きのドアを開けて中に入った。そして夏希はターゲットを探す。


 受付近くの休憩場のテーブルに3人の荒々しい冒険者が3人で朝からエールを飲んでいた。


(見たこと無いな。よし、君達に決めた!)


 夏希はその3人組のテーブルを経由して受付を目指して歩いていく。常連の冒険者達はその「危険人物暴れるくん」の動向を観察していた。


「おい、久々にテーブル巡りを始めるみたいだ。お前ら、足をテーブルの下に押し込んどけ!」


「「サササッ」」


 常連冒険者ネットワークで新参者3人組以外は素早く足を引っ込めていく。そして視線を合わせないように横目で見ている。全員が。


「ガンッ!」


「ああ~、ごめんなさーい。ギルド初めてなもので緊張して足が引っ掛かりました~」


 夏希は新参者3人組の座るテーブルの足にわざとらしく引っ掛かる。3人組は驚いたがエールは手に持っていたので被害は無かった。


 夏希は頭をペコリと下げてニアの元へと行く。


 常連冒険者ネットワーク長が指示を出す。


「新しい技だな。お前ら次回はテーブルを持ち上げて避ける必要がある。メモしとけ」


 夏希はニアに向かって話を始める。


「あの、僕はいい歳ですが冒険者になりたくて手続きに来ました。宜しくお願いします!」


「あの…夏希さん?何を言ってるのかにゃ?」


 ニアは「コイツまた始めたか」と苦笑いだ。


「ははは、何をおっしゃる美人さん。僕の名前は新人のナッキーだよ?し・ん・じ・ん・の」


 夏希は後ろの3人を気にしながら話を続ける。受付嬢と楽しく話す雰囲気を振り撒きながら。


(そろそろか?来るか?来てね!)


「ガシッ!」夏希の肩に手が置かれた。


(初めてのいちゃもんフィーシュッ!)


「夏希、冒険者達から苦情が入ったぞ。お前はなにをしとるんじゃ?」


 そこには居たのはギルド長のザイルであった。


「ははは、ちょっと皆とコミュニケーションをしたいなぁと思って……」


 夏希は周りの冒険者達に頭を下げて皆にお詫びのエールをご馳走する。


 夏希はギルド長ザイルに話し掛ける。


「ギルド長、信吾達3人はどうですか?真面目にやってますか?昨日の夜から奉仕活動していると聞いてますが戻ったら話し掛けても大丈夫ですか?」


「アイツらは真面目に奉仕活動をしとるよ。今は冒険者ギルドの宿舎に寝泊まりしている。そこら辺の宿屋じゃあ肩身が狭いからな。冒険者仲間を襲ったんだ。そう簡単には許されない」


(それはそうだ。冒険者として最低の事をしたんだ。それでも真面目にやるしかない)


「そろそろ戻ってくる。声をかけてやれ」


 ギルド長のザイルは部屋に戻って行った。


 夏希はニアと少し話をした後、休憩場のテーブルで常連冒険者達と話をして時間を潰していた。(変なことばかりしてないからね。普通に話しするからね)


 そして信吾達がギルドに入ってきた。


 信吾達は周りの冒険者達に頭を下げながら受付に行き、奉仕活動の手続きを終らせている。


「信吾!手続きが終わったら俺の所に来い」


 夏希は信吾が頷いたのを確認すると、テーブルで話していた冒険者達に挨拶をして一番奥の空いているテーブルに座って3人を待っている。


(信吾達、少し痩せたな。奉仕活動があるから依頼を受けるのは少なくなるだろうな)


 夏希は待っている間、ネットスキルを見ていた。


「夏希さん、お久しぶりです。その節はお世話になりました。ありがとうございます」


 3人は頭を下げてから椅子に座った。


「元気にしてたか?奉仕活動は真面目にやってるみたいだな。まだ始めたばかりだ。周りの目も厳しいと思う。だがそれはお前達が悪いからだ。なにを言われても逆恨みだけは絶対にするなよ」


「はい、大丈夫です。厳しい目で見られますが暴力とかは無いですから」


(トバルの冒険者達は気のいい人が多いからな)


 夏希はアイテムボックスから、チョコケーキとコーヒーをテーブルに出して3人の前に置く。


「ほら、甘い物食べてないだろ?それとこの世界には無いコーヒーだ。飲むだろ?」


「「「コーヒーだ!」」」


 3人はカップを手に取り顔に近付け匂いを嗅いでから、味わうようにゆっくりと飲んでいた。


「とても美味しいです。コーヒーが飲めるなんて思ってなかったです。本当に美味しい……」


 3人は涙を流しながらコーヒーを飲み干しチョコケーキを食べ始める。地球の事を思い出しているのか涙で酷い顔になっている。(大丈夫だろうか……)


 夏希は周りを見ると、まだ冒険者達は大勢居る。夏希は立ち上がり冒険者達に大声で話し掛けた。


「みんな聞いてくれ。コイツらの事は知ってるな。冒険者として最低な事をした3人だ。怪我を負った冒険者達には謝罪と謝罪金を渡している。謝罪は何度も行かせている。そして今は奉仕活動を真面目にしてるんだ。

 コイツらはまだ15歳だ。まだこれからなんだ。すぐに許す必要は無い。ただ見守っていてくれないか?

 もし今後コイツらが悪さをしたら俺が全責任を持つ。だからもう一度チャンスをやってくれ。頼む」


 夏希はそう言って頭を深々と下げ、信吾達も立ち上がり頭を下げていた。


「俺達はお前達を許すとは言わない。だが見守っていてやる。だから挫けずに頑張れ」


 常連冒険者ネットワーク長が大声で言うと、周りにの冒険者達は「まあ頑張れ」と声を掛け、いつもの風景に戻っていった。


(うん、これで少しは安心して街を出れるな)


「お前ら、これが本物の冒険者達だ。今日の事は絶対に忘れるなよ。そしてあの姿の後を追うんだ」


 その後は、信吾達が寝泊まりする宿舎に行ってカップラーメンなどのレトルトからお菓子やジュース、コーヒーを山ほど置いて帰って行った。


 甘い夏希である。

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