第133話 夏希がニアにスズランとルンバ(2)

 自身の実力をある程度だが把握した夏希。


 獣人村に戻る準備を始めた夏希はニアに秘密を話そうと宿屋に呼びスズランを紹介した。


 ニアがスズランを見た第一声が幼女恋人疑惑であった事に「えっ?突っ込むとこソコなの?」と、夏希とスズランは唖然とするのであった。


「ニア、紹介するね。彼女はスズラ……」


「か、彼女……」


 ニアは彼女と言う言葉に過剰反応する。


「あ、いや、違うか……」


「違うのか?ワレは?」


 スズランが追い討ちを掛ける。ただ、その表情は「面白い事になりそうだ」と語っている。


「スズラン、お前まで……話が進まないから2人は突っ込み禁止だからな」


 夏希は特にスズランを睨んで黙らせる。


「ぶふっ、判ったのじゃ。早く終わらせて晩酌を始めるのじゃ」


 夏希はニアの方を向き話し始めた。


「コイツは見た目は幼女だが、もう1000年以上この世界で生きている。今は訳あって俺の影で生活している。ここの部分は詳しく話せないがスズランは悪いヤツでは無い。そして彼女でも無い。スズランは俺の大切な家族なんだ。一応……」


 夏希は最後辺りで声が小さくなる。


「ワレがスズランじゃ。宜しくなのじゃ。夏希とは縁があって一緒に生活してるのじゃ」


「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします。その、もしかしてペンギンさん?ですよね」


 スズランはニコニコしながら頷く。


「スズランの事はひとまず紹介だけて終わりだ。後で晩酌するからその時に話せばいい。それでこれから俺のことを話す。まず、俺は異世界人だ」


 夏希はニアの反応を見るが冷静に見える。


「ニアが知ってる真冬も同じ異世界人で、俺を含めて11人が一緒にこの世界にやって来た。ある者にスキルを与えられてな。そして真冬達10人は隣のバルバドス王国で俺だけがこの国に送られたんだ。


 俺は最初に訪れた獣人村で生活していたんだが、自分の実力を確かめる為にトバルの街に来た。そしてルンバ師匠に魔法の師事をしてもらい、他の冒険者との模擬戦である程度の実力を把握する事が出来た。だから2,3日中にこの街を出る。スズランと一緒にな」


 ニアはスズランを見る。そして夏希を見た。


「夏希さんは周りの人とどこか違う人だなと思っていました。異世界人の事はギルドで働いているので情報は知っています。だから納得出来ました」


 ニアの表情は納得した割には優れない。夏希はニアが続けて話そうとしたがそれを止め、話し始めた。


「あともう少しだけ説明させてくれ。俺は当初、実力を確認したら獣人村に戻り生活すると決めていた。だが今は違う。この街で信頼出来る仲間が出来た。そしてニアと出逢った事が決め手となった」


 夏希はニアの手を取り両手で優しく包む。


「俺はニアの事が好きなんだと思う。だから獣人村に戻っても、ニアの居るこの街に戻ってくる。だからなにも心配せずに待っていて欲しい」


「えっ?思うってなんですか?好きとは違うんですか?なんか中途半端なんですけど?もしかしてスズランさんの方が好きなんですか?私はオマケですか?」


 ニアは夏希の両手を最大握力で握り返し、中腰になって夏希に捲し立てるのであった。


(えっ?ここはニアが感動してホワホワな雰囲気になる場面じゃないの?俺なんか間違えた?)


 夏希はニアから拘束された紫色に変色してヒョロヒョロになった両手を取り戻し、脅えたビブラート全開の物凄く小っさい声で話し始める。


「あ、あの……ニアさんご機嫌が麗しく無いようですが、私がなにか粗相をしました?でしょうか?」


「ぶはっ!夏希、ワレは影に沈む。だからちゃんと気持ちを伝え直すのじゃ。ぐふふ、ニアも面白いキャラだったのじゃな。これからも楽しくなりそうじゃ」


 スズランは笑いながら影に沈んでいった。


 ニアは夏希をじっと見ている。ずっと。そして両手を握りしめ祈るように胸の前で止める。


「夏希さん、私はあなたが好きです。誰よりも」


 ニアはその言葉に全ての想いを込めた。


 夏希はその真剣なニアに一瞬困った顔をしたが、姿勢を正してニアを見つめる。


「俺はニアの事が好きだ。ニアの笑顔と優しさが俺の心を癒してくれる。ニアの全てを守りたい。離したくない。俺はニアの全てがいとおしい」


 ニアはその言葉に涙を流した。


「とても嬉しいです。私はあなたに逢えて良かった」


 二人は照れながらお互いを見つめ合っていた。

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