第132話 夏希がニアとスズランでルンバ(1)

 ネットスキルの新機能に喜ぶ夏希。


 夏希は今冒険者ギルドに向かっている。スズランは影の中だ。晩酌はするが、あまり外に出る気が無いみたいだ。(まあ、今はそれでもいい)


 あれからニアと話をしていない。今日はスズランを紹介する為にギルドに行くのだ。


 ギルドに入ると周りから視線を感じるが今日は無視だ。(一応足元は気にするけどね)


 時間は込み合う時間を避けているので受付には人が少ない。ニアは空いてるようだ。こちらに気付いたようで笑顔で待っている。


「ニア、おはよう。今は大丈夫だよね?少しだけ話が出来るかな?」


「夏希さん、おはようにゃ。大丈夫ですにゃ。騒動があった後、ギルドに来ないから何かあったのかと心配してたのにゃ」


 ニアは色々と知りたそうなニュアンスで話してくる。笑顔が少し作った感じに見える。


「スザンヌさん達はもう王都に向かってるんだよね。無事にたどりら着いたいいね。それで話なんだけど、ここでは話し難いんだ。だから今日仕事が終わったら宿屋の部屋で話が出来ないかな?」


 ニアは少しだけ驚いた表情をした。


「判りましたにゃ。一度孤児院に戻って用事を済ませてから宿屋に行くにゃ」


「じゃあ宿屋で待ってるから」


 夏希はニアに手を振ってギルドを後にした。その足でルンバの店に向かう。


「ルンバ師匠、居ますか?」


 カウンターの椅子に座っているルンバ。


「目の前に居るでちよ?夏希はこの美しいエルフが見えないのでちか?寝てるんでちか?」


「俺には違うものに見えるな。ドワーフとか」


 ルンバはカウンターでウイスキーを飲んでいた。キュウリをボリボリと噛りながら。


「失礼でちね。それでなんの用でちか?」


「実はそろそろ獣人村に戻ろうと思いまして。ルンバ師匠にはお世話になったので挨拶に来ました」


「ぶふぉー!そ、それは本当でちか?今からでちか?それは困るでち。早まるで無いでち」


(緑色のウイスキーを霧吹きするなよ…)


「んー、あと2,3日後ですかね?どうせ「ウイスキーが!」って言うんでしょ?また戻ってきますから大丈夫ですよ。何本か置いときますし」


「それもあるけど違うでち。じっくりと話がしたかったのでちよ。その影の中のペンギンのことでち」


 夏希はルンバの言葉に固まった。


「な、なんで?いや、なんのことかな?」


 ルンバは真面目な顔をして話し掛ける。


「私は1000年を超えて生きているハイエルフ。そのペンギンのことも少しだけだが知っている。だから聞きたい。私は知らないことを知りたい。それが1000年以上生きる者の欲望だからだ」


 夏希はいつもと違うルンバを見て判断に悩む。


「私には記憶操作は効かないよ。例え天使の仕業だとしてもね。伊達に長生きはしていない。そこのペンギンのように対策はしている」


 夏希は冷めた目でルンバを見る。


「ルンバ師匠。それは駄目だ。興味本位で聞かれて話す内容ではない。それでも聞きたいですか?」


 夏希とルンバは見つめ合う。


「はぁ、仕方ないでちね。話せる時が来たらお願いするでち。興味本位だけで悪意は全く無いでちから心配することは無いでち。ごめんでち」


 ルンバは夏希と影に向かって頭を下げた。


「いえ、ルンバ師匠の事は信用してますから。じゃあ、出発前にはもう一度顔を出します」


 夏希はそう言って店を出ようとした。


「大丈夫でちよ。私も一緒に行くでちから」


 夏希は振り返りルンバに言った。


「それも却下だな」


 夏希は返事を待たず、ルンバの店を後にした。


 夏希はニアの仕事が終わる時間まで街を散策してから宿屋に戻り、夕食とお風呂を済ませ部屋で待った。


「ドタドタドタ、バンッ!」


「夏希兄ちゃん、ニア姉ちゃんが来たぞ。部屋に通したからもうすぐ来る。変なことするなよ」


 アスザックは話すとニヤっと笑い出ていった。


「アイツは……」


 少し遅れてニアが部屋に来た。今日はいつものズボンスタイルではなく黄色いワンピースを着ていた。夏希に貰った髪飾りを付けて。


「ニア、似合ってるよ。その服と髪飾り。さあ、部屋に入ってそこのクッションに座って」


 夏希は事前にベッドなど部屋の備品を全てアイテムボックスに入れ、ネットスキルで買ったシックなラグマットを敷き、その上にオシャレな丸テーブルとクッションを準備していた。(俺は頑張った)


 ニアは誉められて喜び部屋を見て驚いた。


「夏希さん、お邪魔します。素敵な部屋ですね。でも寝るとこ無いですにゃ?」


 夏希はテーブルにお菓子と紅茶を準備している。


「ああ、ニアが来るから部屋の物は全部アイテムボックスに入れて模様替えしたんだ」


 ニアは勧められたクッションに座り、ラグマットとクッションの手触りを楽しんでいる。


「床にマットを敷いて座るのもいいですね。それにこのマットとクッションの手触りが気持ちいいですにゃ。眠たくなりそうですにゃ」


「そうだろ?俺のイチオシだ。まあ、一息入れようか。このお菓子と紅茶も俺のイチオシだ」


 テーブルの真ん中には一口サイズのプチケーキを大きな皿に盛り付けて置いている。小皿に取って食べるのだ。紅茶はあっさりとしたダージリンティーだ。


「ふふ、実はさっきから気になってたにゃ。どれも可愛くて美味しそうです。いただきますにゃ」


 ニアはプチケーキを美味しそうに食べている。だが、ソワソワしているのが判る。


(そろそろ話を始めるかな)


「ニア、俺には秘密がある。信じられないような事をこれから話す。でも全部本当ことだから信じて欲しい。話し始めても大丈夫?」


 ニアは姿勢を正して夏希を見て頷いた。


「じゃあ、スズラン。影から出てきてくれ」


 夏希の影から可愛らしい幼女か静かに浮かび上がってくる。そして夏希の横に座った。


 ニアは影から出てきた幼女を見て固まっている。そして何かを理解しようと懸命に頭を働かせる。


 夏希とスズランはニアの反応を待っている。


 ニアは目を閉じる。それは少しの間。ニアはゆっくりと目を開き、2人をじっと見つめてから口を開く。


「夏希さん、幼女の恋人はどうなのかなと……」


 波乱の幕開けであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る