第123話 闇に落ちた者達(3)
転移者達と死闘を繰り広げる夏希。
天使メリルによって転移した者達を相手にしている夏希のもとに真冬が現れた。
真冬は雷撃に驚いて固まっている信吾と正樹を無視してトコトコと夏希に向かって歩いていく。
(真冬がなんでここに居るの?それにあの雷魔法危なかったよね。当たりそうだったよ。無警戒だったから直撃してたら重傷だよ?ねぇ、判ってる?真冬ちん?眠たそうな目をしてるけど起きてる?)
夏希は立ち上がり信吾と正樹を警戒する。真冬が夏希の目の前まで来ると、眠た眼の上目遣いで夏希の目をじっと見る…………………………
「雷撃 微弱」 「バチッ!」
「びひゃっ!」
「起きてる」
(なんで判るんだよ…女の子はそうなの?)
「女は神秘」
(だからなんで??)
「真冬、助かった。あの2人が組むと厄介なんだ。片方を任せていいか?出来ればあの無限治癒しながらバカスカ攻撃魔法してくる賢者くんをな」
「任された」
真冬は正樹に向かってトコトコと歩いていく。
「あっ、面倒だが絶対に殺さないでくれ。頼む」
真冬は立ち止まり夏希を見る。
「ふっ またか」
そう言って再び歩き始めた。
(ははは、まぁこれで何とかなりそうだな)
「さあ、第二ラウンドの始まりだ!」
夏希は信吾に向かって勢いよく走り出す。そして高速回転する水球を放つ。
「水球」「ビシュ!」
「ぐはっ!」
真冬を警戒していた正樹の脇腹に、夏希が放った水球がめり込み正樹を吹き飛ばす。
「さっきの石礫が痛かったからお返しだ」
信吾は一瞬だけ真冬を睨み付け顔を歪めると、夏希に向かって剣を振り回し無数の聖刃を放つ。
夏希は水刃で相殺しているが、それをすり抜けた幾つかの聖刃が夏希の足や腕に浅くない傷を刻む。
(痛ってーな。水壁出しときゃよかった。急所は避けたけど…普通の魔法とは違うんだよな。聖属性は厄介だな。もう食らわないけどな!)
夏希は痛む傷を無視して信吾に向かって剣で勝負する。夏希の剣技はラグに鍛えられた対人戦闘用だ。魔物相手に突っ込むだけの信吾とは違う。徐々に夏希の攻撃する場面が増えていく。
「キィン、キィン、ザシュッ!」
「はははは、俺は無敵だ。いくら傷を付けても無駄だ!大人しく俺に殺されろ。ははははっ!」
正樹の治癒魔法はまだ信吾を継続して癒している。
夏希は攻撃の手を休めず思考する。
(真冬えも~ん、僕、もう疲れたよ。お昼寝したいよ~。早く助けて~)
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
真冬は正樹に向かって歩く。
正樹は立ち上がり、夏希が放った水球で痛めた脇腹を、信吾に掛けている治癒魔法を一瞬だけ解除して自分に掛ける。そして回復すると真冬に向けて放つ。
「
「抜刀」「瞬歩」「殴る」
真冬は腰紐に挿している鞘から脇差しを抜き、迫る炎の槍を一刀する。
「バシュン!」
炎の槍は、ただの一刀で霧散した。
「えっ?なんで………うがっ!」
真冬は瞬歩で正樹に近付き腹を殴った。
「影縫い」
倒れた正樹は動けなくなる。
「なんで剣で俺の魔法を簡単に斬れるんだ。なんなんだお前は!うっ、動けない……」
真冬は倒れて動けない正樹を冷めた目で見る。
「お前は何をしている?人を殺すのが好きなのか?違うだろ?天使の言葉は無視しろ。頭を冷やせ」
真冬は諭すように話す。魂に語り掛けるように。
「俺は……判らない……」
正樹に再び小さな光がとも………
「反省しろ 厳罰」
「ドゴッ!バゴッ!バギッ!バチッ!」
真冬は問答無用で正樹を叩きのめし気絶させた。
「土堀」「穴埋」
真冬は気絶した正樹を掘った穴に蹴り飛ばし、顔だけ出るように調整して埋めた。
鬼のような真冬であった。
「頑張れ」
ちょっと違ったようだ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
夏希と信吾の戦いは続いている。
夏希の攻撃は信吾を捕らえているが、すぐに回復する。反対に夏希の身体には浅くない傷が増えていく。
「いい加減殺られろよ。お前」
信吾は回復はするが何度も攻撃を受けて苛立ちを隠せないようだ。纏う闇が濃くなっていく。
(これは不味いな……早く何とかしないと闇に飲み込まれてしまう)
だが、変化の無い戦いが続く。
「うがっ!」
信吾に異変が起こる。信吾の左腕に、夏希が斬り付けた傷が回復せず血が滴り落ちていた。
(真冬、よくやった!)
それからの夏希の攻撃は信吾に多数の傷を与える。
「ドカッ!」
夏希は信吾を蹴り飛ばし距離を取る。
「もう回復はしない。降参しろ。そして俺の話を聞くんだ。天使はお前に何を吹き込んだ!」
「……………………」
信吾は黙ったまま動かない。
「正樹は俺の仲間に倒されたぞ。ダンジョンも上位冒険者達が必ず攻略する。もう諦めろ」
「……………………」
「お前は天使に踊らされたんだ。ここは現実世界だ。犯した罪は消せないが、お前の人生はまだこれからだ。俺が立ち直るまで一緒に居てやる。楽しい人生を味合わせてやる。だから闇から這い上がれ!!」
信吾の肩が震え出す。
「信吾…………」
「ふっ………はははは!くそっ!まだゲームは始まったばかりなのに……仕方ないな。俺の負けだ」
夏希はその言葉に安堵した。
信吾達は天使に騙され踊らされた。まだ高校生なのに。これから楽しい人生を歩む筈だったのに。夏希は歯噛みする。そして必ず幸せに思える人生を取り戻してやると思うのであった。
「ザシュッ!」
「えっ?」
夏希は驚き固まる。目の前で信吾が剣を逆手に持ち、自分の胸を貫いていたのだ。
「ぐふっ……まだ遊びたかったがお別れだ。死んで元の世界に戻ることにする」
夏希の思考が止まる。
[夏希!何とかするのじゃ!このまま死ぬと天使が魂を壊して魔物に転生してしまうのじゃ!]
スズランの声で夏希の思考が動き出す。
「正樹!信吾に治癒魔法を掛けるんだ!」
夏希は叫びながら信吾に向かって走り出す。アイテムボックスからポーションを取り出し手に持って。
信吾は苦しみながらも後退り距離を取ろうとする。
夏希は信吾に治癒魔法が掛からない事に苛立ちながらも信吾に向かって走る。
人生は
「うがぁ……」
信吾に異変が訪れる。信吾の周りに深い闇が纏わり付き飲み込んでいく。そしてその闇が霧散すると漆黒の
[もう間に合わん。あの若者は魔物になる……]
夏希は絶望の眼差しでその漆黒の繭を見ている。
(何か手はないのか……助けられないのか……)
そして漆黒の繭は躍動を始めた。
繭から黒い光が現れる。生きる全てのものを凍えさせるような冷たい光だ。
そして繭は弾け現れた。
[夏希………最悪な事態じゃ]
[スズラン……あれは……]
[ああ、見ての通りじゃ。あれは最悪の
夏希が見上げるその先に背に黒い翼を持つ者がいる。
それは黒い闇を纏う天使であった。
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