第124話 闇に落ちた者達(4)

 信吾を助ける事が出来なかった夏希。


 漆黒の繭から産まれたのは黒い翼を持つ者。


 その姿に信吾の面影は無い。あるとすれば性別と体型が人と変わらないところだ。容姿は天使らしく美男子だ。ただ、全てが不気味に感じる。


 闇を纏う天使が夏希に視線を合わせる。


「宮田さん、俺をあれだけ痛め付けたんだ。殺られる覚悟は出来てるよな?」


(あれー?なんで声が信吾なの?と言うか、転生したんだよね?記憶消える筈だよね?)


 夏希は混乱していた。


[夏希、あれは信吾じゃ。本来なら天使は地球の魂を破壊して異世界の魂で魔物に転生させるのじゃが、あれは違う。異世界の魂を昇華させ天使モドキに変貌したのじゃ]


(これは難しい…よく判らん。作戦会議が必要だ)


「信吾、殺られる覚悟だと?出来てない!」


 夏希どうした?


「………………」


「俺はお前が変身?変貌?するのを待ってやったんだぞ。だからお前も少し待て。打ち合わせする」


「………………ま、まあいいか。俺はこの身体の使い心地を確かめる。30分だ。それ以上は無い」


 信吾天使モドキは翼を広げ空の彼方へ消えていく。


「そのまま消えちまえ!」


 夏希は聞こえたらヤバいと思い、物凄い小さい声で消えていった方向と真逆に向かって叫んだ。


[夏希……ワレは偶にお前が判らなくなる]


「よし、真冬、正樹を掘り出して集合!時間が無いから急いでね!さあ、掘って、走って!」


「…………」


 真冬は正樹を掘り出すと、片足を持ち引きずりながら夏希の元にトコトコと歩いて行く。


 夏希と真冬は同じ思考回路であった。


[スズラン、ペンギンに変身だ。そして俺達を漆黒の闇で包め。スズランが全員に説明するんだ]


[判ったのじゃ]


 夏希達は闇に包まれる。


「灯火」


 闇が消え光が灯る。そこには、夏希、真冬、正樹…


「ペンギン!」「瞬歩 激早」「ハグ」


 真冬は、1オクターブ高い声を出しながら瞬間移動でペンギンに手足を絡め頬擦りをしている。


 真冬のキャラはもう判らない。


「………ワレは、どうすればいいのじゃ?」


「ペンギン、説明を頼む」


 夏希は、気絶している正樹を起こしながらペンギンに話し掛ける。真冬の行動を無視しながら。


「では、説明を始めるのじゃ。話は複雑じゃ。それに話せない事もある。だから簡潔に話すぞ」


 ペンギンは、真冬に抱き付かれたまま話し始めた。


「天使は地球の魂とは別に異世界用の魂でこの世界に転移させる。その者がこの世界で死んだ時に地球の魂で元の世界に元の時間と年齢で戻れる。ここまでは各自天使から聞いてる話じゃな」


 全員が頷く。


「だがそれは違う。その者が異世界で天使に好まれる行動をして死んだ場合のみ地球に戻れるのじゃ。

 そうでなければ死んだ時に地球の魂は天使に破壊され、この世界で記憶を失い希少上位種の魔物になって転生する。悪行が無ければ妖精じゃな」


 正樹は知らなかったことだ。驚いている。


「信吾は知らなかった。だから自決して地球に戻ろうとした。本来なら信吾が死んだ時点で、天使が地球に戻すか、地球の魂を破壊して魔物に転生させるか、のどちらかなのじゃが今回はどちらでも無いのじゃ」


 夏希の頭はフル回転だ。


「天使は禁忌を犯した。異世界の魂を昇華させ、疑似天使として変貌させたのじゃ。ここから話す事はお前達に話せる事だけだ。だから判り難い」


 ペンギンは姿勢を正す。真冬を付けたまま。


「天使とは神を称賛し称える存在。そして神と人との間を取り持つ役目をする。使。そして天使は無数の役割を神から与えられている。

 お前達に関わっている天使はたぶん「死をつかさどる天使」の末端だ。人間の生死を看守する事が役目だ。また上位の天使は堕落した天使を戒める事もする。

 だから人の生死には関われるが魂の昇華は管轄外になる。それを今回アホの天使がやったのじゃ」


 夏希の頭はオーバーヒート寸前だ。


「昇華した魂は、過去の記憶を持ったまま転生する。そして天使の小間使いとなる。だから天使モドキなのじゃ。それも今回は闇落ちがプラスされておる。だから正確には堕天使モドキじゃな」


 ペンギンは喋り疲れたのか第二の口の息が荒い。

 ん?ああ、暑いのね。真冬付いてるしね。


「何となく判った。事にする。それでその堕天使モドキ信吾は強いのか?」


「そうじゃな……まだ転生したばかりだから夏希10人分ぐらいかの?それも徐々に強くなって夏希100人分ぐらいになるかもしれん。天使の技は使えんから安心するのじゃ。それと完全に闇落ちしたから聖属性も使えん。良かったな、夏希」


「全然良くないんですけど…」


 夏希は急に真面目な顔になる。


「ペンギン、今の話からすると信吾の地球の魂はまだ天使に破壊されてないんだよな?」


「夏希……勝てる見込みは無いんだぞ。闇落ちもしている。それでどうやって信吾を助けると言うんだ?その前にお前は殺されるぞ」


 ペンギンは、「逃げろ」と言いたい。でもその方法が判らない。歯噛みする。


 夏希は、「離れて何処かへ逃げろ」と言いたい。でも離れない事が判る。歯噛みする。


 夏希は、信吾に「助ける」と言った。だから助ける。


「正樹、俺が堕天使と戦うから俺に治癒魔法を掛け続けてくれ。真冬、正樹は俺の生命線だ。全力で守ってくれ。出来れば援護も頼む」


 夏希はこの一言に想いを込める。


「スズラン、影の中から俺を見守ってくれ」


「………………………判ったのじゃ」


 切なく悲しい時間が過ぎる。


「ペンギン、漆黒の闇を解除だ」


 夏希は全員を見渡し深呼吸をする。


「これが最後の戦いだ。行くぞ!」

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