第122話 闇に落ちた者達(2)
脅威者達が居るダンジョンに向かう夏希。
今は夜中。場所はダンジョンに向かう馬車の中。
ダンジョン攻略チームは数台の馬車で向かっている。夏希が乗る馬車は大型の箱馬車で、Aランク2名を除いた上位冒険者11名が乗っている。
「夏希、お前は会議室で私達の打ち合わせに参加してなかったよな?何かあったのか?」
「スザンヌさん、すいません。少し考え事を…」
スザンヌは疑いの目で夏希を見る。
「まあいい。ダンジョン攻略だがチームを分ける。それは進行速度の違いとダンジョン内部が枝分かれしてることを想定しての事だ」
全員が再確認する為かスザンヌに集中する。
「まずはルンバ、ビエラ、私のチームだ。ルンバは飛翔が使える。それも3人まで一緒にな。だから私達は魔物を無視して突っ走る」
「任せるでち」
「次はAランク[皆殺し]の2人だ。この2人は私の知り合いだ。近接戦闘特化でな、強いんだが足が遅い。だから強敵に足止めされた時の対応をしてもらう」
スザンヌの視線の先には、大柄な男女がデカイ戦斧を持って座っていた。
「がはは、わしはダルトンで隣がルイザだ。まあ、強敵が出たらわしらに任せておけ」
「がはは、私が妻のルイザだ。宜しくな!」
(豪快なチーム名に豪快な2人だな。歳は俺と同じぐらいかな。ルイザさん美人なのに「がはは」は…)
「最後はBランク[殲滅の牙]の5人組だ。見ての通り獣人チームだ。足が早く索敵や罠の解除も得意としている。先行して情報収集と罠の解除をする」
「リーダーのハザードだ。皆のサポート役だ」
(ラグと同じ銀狼族だな。20代後半ぐらいか?)
「あとのAランク2名はサポートのCランク冒険者の纏め役だ。私達より前に入って魔物を間引いてもらう。以上だが、ダンジョンの情報が全く無い。状況次第で変更するから臨機応変で頼む。それと私がリーダーだ」
(そうだな、ダンジョン内部の情報があれば良かったけどな。遺跡タイプなら迷宮の可能性が高そうな気がするな……と、それよりも俺の名前出てないよね?)
「スザンヌさん、俺はどうなるの?」
「夏希は、脅威者達がもし手を出してきたら水縄で足止めしてくれ。もし戦闘になったら仕方ない倒せ」
「いや、倒せと言われても……」
スザンヌは軽く微笑む。
「まあ、出来たらでいい。何も無ければダンジョンに入ってどこかのチームに合流して指示をもらえ」
話し合いも終わり皆は休憩している。さすが上位冒険者達で必要以上に気を張らず鋭気を養っている。
(状況が判らないのに考え過ぎも良くない。俺も休むとしよう)
しばらくして馬車の速度が緩やかになる。
「さあ、そろそろだ。まずはサポート組が先に進む。私達は脅威者達に見つからない位置でサポート組が情報を持って来るまで待機だ」
俺達はダンジョンの神殿が遠目で見えると、そこから少し下がって馬車を止めた。
それから20分を過ぎた頃、1人の冒険者が馬に乗って俺達を目指してやって来た。
「サポート組のモルデノです。Aランク2人とCランク40名でダンジョン攻略を開始しました。脅威者達は神殿前に居ましたが手を出して来ませんでした。
ダンジョンは連続した大部屋で一定数魔物を倒さないと次の扉が現れません。まだ3部屋攻略しただけなので情報はそれだけです」
「判った。私達もこれからダンジョンに入る準備をする。次の情報はダンジョンに入ってからで頼む」
「了解です。神殿から少し離れた所にサポート組10名を待機させています。必要であれば指示を出してください。それでは私はダンジョン攻略に戻ります」
報告に来たモルデノは馬に股がりダンジョンに向かった。俺達は集まり話をする。
「チッ、飛翔で先行は無理だな。飛翔出来るエリアになるまでは総力戦で行く。ダルトン、ルイザ、お前達の出番だ。大暴れしてくれ」
「「がはは、任せとけ!」」
俺達も馬車に乗り込みダンジョンに向かった。
神殿付近になると昼のように明るい。松明とかではなく魔法の光のようだ。そして神殿はもう目の前だ。
神殿の手前100メートルほどに馬車を止めて、俺達は降りていく。御者に地上に残っているサポート組の所に行くよう指示を出す。
さあどうなるか……
夏希の目の前には2つの存在が居る。1つは170cmぐらいで普通体型だ。見た目は普通だが常に笑っている顔は何故か異様な雰囲気がする。剣を持っているので、これが勇者だろう。
もう1つは身長は同じぐらいだが体型は細い。少し目付きが怪しいが1つ目と比べると普通だ。何か戸惑っているようにも感じる。これが賢者か。
スザンヌを先頭に神殿の入口に向かって歩き始める。最後尾は俺だ。いつでも水縄を出せるように2つの存在の挙動を監視する。
入口まであともう少し。(そのまま行けるか?)
「待て」
(やっぱ無理か……)
その制止にスザンヌが対応する。
「なんだ?手を出さないと言ったよな?」
「お前、プレイヤーか?俺は鑑定が使えるから嘘は付くなよ。お前は日本人だろ?」
勇者と名乗る存在が俺を見ている。
「スザンヌさん、俺をご指名みたいです。先に進んでください。後で追いかけます」
スザンヌは話を続けるか悩んでいる。
夏希は強制するようにスザンヌに話し掛ける。
「スザンヌさん、グズグズするな早く行くんだ」
「あ、ああ、判った。後は頼む。だが、無茶はするなよ。ニアや子供達が待ってる事を忘れるな」
スザンヌはそう言って皆を引き連れ神殿に入って行った。夏希はそれを確認すると大きな深呼吸をした。
「プレイヤーとは何の事だ?意味は判るぞ」
「名前は宮田だな。ああ、年上だから宮田さんか。宮田さんも天使からスキルを貰ってこの世界に転移したんだろ?楽しくゲームをする為に」
(この存在は何を言ってるんだ?やっぱりゲーム好きの精神病んでる系なのか?)
「俺はこの世界で幸せな生活をする為に転移してきた。ゲームだなんて一欠片も思ってないぞ。地球とは違うがここは現実の世界だ。判ってるのか?」
「ははは、宮田さんは真面目だね。天使が言ったんだよ。ここはゲームの世界で人は全てNPCだって。だからなんでもアリなんだよ」
(う~ん、カルレスはゲームなんて一言も言ってないよな?転移者で話す内容が違うのか?)
「それは違うぞ。さっきも言ったが、ここは現実の世界だ。皆が幸せになる為に助け合いながら生きている。その現実の世界をゲームと勘違いしている。天使をあまり信じるなよ。後悔する事になるぞ」
勇者の隣に居る賢者が困惑気味に話し掛けてくる。
「宮田さん、それは本当の話ですか?でも確かに天使は全てNPCだと言いましたよ。ゲームの世界だとも。信吾はもうNPCを殺しましたよ。何人も。俺もそれを見て楽しくなって…………」
賢者と名乗る存在の目に、知性と呼べる光が僅かに灯っては消えてを繰り返す。
「えっ、なんで俺は楽しくなるの?魔物を倒す事とは違うのに……でも見てると心の中から高揚していくんだ。「倒せ、殺せ」と語り掛けるんだ……何かが」
[夏希、これはおかしいぞ。天使に何か吹き込まれてるみたいじゃな。それに精神にも干渉しているようじゃ。コイツの魂が揺れ動いているのが判る]
[えっ!異常者でなくて洗脳されてるの?]
[たぶんな、こんな若造達がいくらゲームと言えど、殺しをするような感情を持つのはおかしいじゃろ?ああ、精神異常者だったら判らんがな]
[それじゃあ、コイツらは被害者な……]
「あああ、ごちゃごちゃうるさいぞ!お前ら!正樹!コイツはプレイヤーキラーだ。倒すぞ!」
信吾が剣を構え夏希に斬りかかる。
「キィン!」
夏希は素早く剣を抜き防いだ。
正樹の目に灯る僅かな光は闇に埋もれていく。
「
「水壁」
「バシュ、バシュ!」
「はははは、お前を倒してゲームを続ける。プレイヤーキラーは返り討ちだ!はははははは!」
信吾の闇が深くなっていく。笑っているその口元からは水滴のような物が滴り落ちている。
正樹は、小さな光を大きくする事が出来なかった。
信吾は、小さな光を灯す事が出来なかった。
自我を取り戻す最大の好機をその手に掴む事が出来なかった2人に次の好機はあるのだろうか。2度と浮き上がる事の出来ない深い闇に落ちる前に……
「ふひゃははは!ほらほら、お前の身体はモロいな。魔法が強くてもその前にズタズタにしてやる。正樹!そのまま俺に治癒魔法を掛け続けろ!」
信吾は、剣に聖光を纏わせ斬り付ける。その剣は振り抜くと聖刃を放ち夏希を襲う。
水縄や水刃で抵抗するが正樹が治癒魔法を掛けながら攻撃魔法も放ってくるので苦戦している。
(これはヤバいな…聖属性の攻撃はキツい。まだ聖魔法を使って来ないから耐えられるが…それに闇が深くなってるのか強さが上がってきてる。極めつけがあの賢者。なんだよあの治癒魔法。掛けっぱなしだぞ。すぐ治ってるぞ。攻撃もしてくるぞ。はぁ、しんどい…)
どうするか悩んでるとスズランから念話がくる。
[夏希、ワレも影から出てたた……]
[待て!!今はマズい!たぶん天使が見てる。いくら闇に隠れても戦えばバレるぞ!もう少し待て。今から反撃するところだ。心配するな!出てくるな!]
夏希はスズランに逆らえない口調で念話する。
(ここでスズランは駄目だ。天使に見つかったらどうなるか判らないのが恐ろしい。スズランは絶対に守る。何があってもだ!)
「くっそ!いい気になるなよ!本番はこれからだ!」
「「ビシュビシュッ!」」
夏希は信吾の剣を躱しながら信吾に向けて100の水縄を高速で放つ。そして賢者に邪魔されないよう水壁を斜線上に展開した。
「「バシバシッ!」」
信吾は剣で水縄を弾くが数の暴力には勝てず水縄に手足を拘束された。
夏希はここが勝機と剣に高速振動の水を纏わせる。
「信吾だったな。まだ今なら闇から這い上がれる。俺が助けてやる。だから目を覚ませ!足掻け!天使なんかにお前の人生を預けるな!」
夏希は剣を構え信吾に向かって走る。
「悪いが動けないように両足を斬る。必ず後で治してやるから許せ!」
夏希は走りながら腰を低く落とし、剣を横に構えて信吾の足を勢いよく斬る。
「「ボゴボゴッ!」」
「ぐはっ!」
夏希が信吾の両足を斬るまでもう少しの時に水壁を迂回した無数の石礫が夏希を襲い吹き飛ばした。
「くそっ!ここで賢者かよ…アイツを先に倒すしかないのか……でもあの突っ込みバカの勇者から目は離せないんだよな!あー、どうするよ!」
夏希はアイテムボックスからポーションを取り出し勢いよく飲む。
(マジにどうしよ……)
夏希は剣を構え頭上に100を越える水刃を浮かべ2人を牽制しながら考える。
僅かな時間が過ぎる。
正樹が炎弾を放つ体勢で夏希の隙を待ち、信吾が剣に聖光を纏わし夏希に突っ込みを掛けようとした。
「雷撃 激強」
「「えっ?」」
「バリバリバリッ!ズッガーン!!」
突如、夏希と信吾の間に激しい光が起き、その直後に轟音と衝撃波が訪れた。
「「ぐはっ!」」
夏希と信吾はその衝撃波で吹き飛ぶのであった。
夏希は痛む身体の上半身を無理やり起こし声がした方向を見て何かを探す。そして見つけた。
それは眠たそうな目をした超絶美少女だった。
「真冬?」
「まかせろ やっつける」
派手な登場に3人は固まっていた。
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