第121話 幕間 闇に誘われる者達(3)

 天使メリルによって異世界に転移した3人。


 ここはトバルから馬車で2時間の広大な野原。


 突如、眩しく輝きだした光に小さな動物達が驚き離れていく。そしてその光が落ち着くと3つの存在が現れる。魂を2つ持った存在が。


 信吾、正樹、友成の3人は、嬉しそうな表情でキョロキョロと辺りを見回している。


「メリルさんが言った通り何も無いな…」


「信吾、うさぎみたいなのが遠くでこっち見てるよ~。角は生えてるのかなぁ?」


「まずは拠点が必要だ。友成、メリルさんがダンジョンを作って鍛えろって言ってただろ。ここにダンジョンを作れるか?出来れば俺達が住めるスペースも欲しい。あっ、トイレとお風呂も欲しい」


 友成はステータスを確認して考え込む。


「スキルの使い方は付与された時に何となく判ったからステータス確認したんだけど、ちゃんとダンジョン設定画面があったよ。流石はスキル3つ分だね。ダンジョン関係は何でも出来そうだよ」


「それなら、遺跡タイプにしようぜ。なんかカッコいいだろ?友成、素敵なお家にしてね!」


 信吾が興奮しながら話している。


「はは…まあ頑張ってみるよ」


 友成は遠くを見つめて全く動かない。ステータスを開いてダンジョン設定しているようだ。


「「「えっ!」」」


 10分後、何の前触れもなく周りの景色が一変した。


 それは石畳が辺り一面に敷き詰められた中に、体育館ほどの大きさの神殿らしきものがポツンと1つだけ建っている光景であった。


「友成……やる時は言えよ。それにしても雰囲気のある光景だな。胸が踊ると言うか「冒険だ!」て感じだな。友成、ナイスな設定だ」


 正樹が誉めると友成は「へへへ」と照れ笑いする。


「あの神殿がダンジョンか、早く行こうぜ。休憩スペースあるんだろ?興奮し過ぎて喉が渇いた」


 信吾は返事も聞かずに神殿に向かって走り出し、正樹と友成は慌てて後を追い掛けていく。


 神殿の中は白い華美な柱が規律正しく何本も並んでおり、長い廊下のその奥にラスボスが居るのでは?と思わせる程の大きく立派な両開きの扉があるだけだった。


 3人は神殿に入ってすぐの光景に立ちすくんでいた。


「これは痺れるな。カッコ良すぎる」


「友成、休憩スペースは何処だ?」


 正樹は常に冷静である。


「ここにあるよ~」


 友成が指差した場所は入ってすぐの柱で、今まで無かった筈の所に普通のドアが現れていた。友成はそのドアを開けて中に入り、2人も後を付いていく。


「これ、友成の家だよね……」


「そう、落ち着くでしょ?」


「「…………………」」


「まあいいか」


 3人は見慣れたダイニングキッチンに行き、冷蔵庫からジュースを出して椅子に座って飲む。


「正樹、これからどうする?」


「まずはスキルの確認だ。それとレベルを上げる。2人とも疲れは無いだろ?少し休憩したらダンジョンに行くぞ。友成、ダンジョンはどんな感じだ?」


「ダンジョンは10階層で定番の魔物を配置してるよ。3階層まではサッカー場ぐらいの大広間が何部屋もあって部屋毎に違う魔物が絶え間なく出てくるんだ。勿論、一定数を倒さないと次の扉は現れないよ。


 4、5階層は迷宮のイメージだね。罠もたくさんある。6~8階層は森林、草原、砂漠のオープンエリアで9階層は今まで倒してきた魔物が全て出てくるモンスターハウスだよ。10階層はマスタールーム。僕の部屋だね。


 だから9階層をクリア出来たら挑戦者達の勝ちになるね。1階層毎に掛かる時間は、戦闘や罠の解除時間を除いたら40分ぐらいかな。大きく広く見えるように設定してるけどホントはそこまで広くないんだよ。


 クリア時間の予測は結構強い挑戦者達なら2日かな。中級レベルなら人数揃えてもクリア出来ないだろうね。因みにセーフエリアは一切無いよ。僕はあれが嫌いだからね。楽しみだね~」


「「鬼畜仕様だな…」」


「当面は1階層で鍛えるぞ。安全第一だ。友成、魔物からの攻撃威力を下げたり無効に出来ないか?」


「魔物を発生させた後はコントロール不能だね。ここの設定はゲームではあったのにね」


「仕方ないな。よし、行くぞ」


◇◇ 転移2日目 ダンジョン3階層 ◇◇


灼熱息吹フレアブレス!」


 正樹が放った魔法で広範囲に灼熱の炎が現れる。それを受けた魔物達は全て燃え盛り灰に変わった。


炎弾フレイムバレット


 逃げ延びた魔物達に炎の弾が襲い掛かる。


「はははは!俺は無敵だな!」


 正樹は圧倒的な力に魅了されていた。


 そこに入口から誰かが入ってくる。それは左手の肘から先が無く、全身血まみれの信吾であった。


「正樹、治癒魔法だ。お前も俺に付いて来い。いちいち友成に言って、ここの入口まで転移するのが面倒だ。友成はマスタールームから出てこねぇし。出て来ても役にたたねぇからな!」


 転移初日にスキル確認の為、3人でダンジョンに訪れたのだが信吾と正樹が放った魔法の威力は圧倒的なものだった。特に信吾の聖魔法だ。普通ならば治癒、解呪、結界、補助魔法を使えるはずの聖魔法だが、何故か信吾の聖魔法は攻撃特化型であった。


 信吾はその魔法の威力に歓喜し魔物達を倒していく。圧倒的に。そして物足りなく感じるようになり、友成に頼んで剣の入った宝箱を出してもらいその剣を持つと笑いながら魔物の群れに飛び込んだ。


 大量の魔物の屍の中に、自らの血と魔物の返り血を浴びて血だらけでの身体になっている信吾が居た。


 肩で息をしているその姿は抑えきれない興奮を耐えている様に見える。その信吾は歪んだ笑みをしていた。


「信吾………」


 負傷した身体を正樹が治すと信吾は再びダンジョンの下層へと向かった。


◇◇◇ 転移2日目夜 夕食後 ◇◇◇


「友成、もう下層に降りるのは飽きた。1階層の部屋にモンスターハウスを設定して強い魔物を出せ」 


「う、うん。判った……」


「それと装備が貧弱だ。お前、マスタールームに引きこもってないで早くレベル上げろよ。それで新しい装備を宝箱で出せよ。判ったか?」


「はい……」


 信吾はそう言うと部屋から出ていった。


「正樹…信吾の事だけど……何かおかしくない?言葉使いも変わったし狂暴になったと言うか。マスタールームから見てるんだけど大きな声で笑いながら魔物を倒してるんだよ。怪我をしても気にせずに…」


 友成はテーブルに顔を伏せ、震えていた。


「俺も信吾が怖いと思う時があるな…残虐な怪物に見える時もある。でもな、魔物が居る世界だ。強くなくては生きていけない。それにな、魔物を魔法で焼き付くしたり、串刺しにすると心の部分が熱くなるんだ。そして心の声が聞こえてくるんだ。「もっと殺せ」とな」


友成は正樹の言葉に驚き、伏せていた顔を上げる。


そこには信吾までとはいかないが、歪んだ笑みをした正樹が居た。


◇◇◇ 転移3日目 朝食後 ◇◇◇


信吾は嫌らしい笑みをして2人に話す。


「昨日寝ながら面白いこと考えたんだ」


正樹は興味を持ったようで視線を信吾に向ける。友成は嫌な予感がするのか震え始めた。


「俺は強い剣と鎧が欲しい。だが、友成はレベルを上げず引きこもりだ。だからもう1つの方法で友成のレベルを上げる。もう判るよな?ダンジョンに挑戦者を招き入れてレベルを上げるんだ」


友成は唖然とする。


「信吾、それって挑戦者を殺すってことだよ…僕はそんなことは出来ないよ……」


「はぁ?ここは地球ではないんだ。それもゲームの世界で相手はNPCだぞ。メリルも言ってただろ?何をしても問題無いとな!」


信吾は興奮し始め、怒ったように友成に話す。


「お前はマスタールームに引っ込んでろ!そしてレベルが上がるのを待ってればいい。NPCがどうなろうと絶対に設定を変えたりするなよ。判ったら行け!」


友成はなにも言わず逃げるように部屋を出た。


「正樹、俺達も面白そうな奴が居たら勝負するぞ。お前は大丈夫だよな?」


「あ、ああ、相手はNPCだ。問題無い」


「そうだぞ正樹、これはゲームなんだ。NPCは言わば俺達のオモチャみたいなもんだ。さあ、いつ来るかな。そのオモチャ達は」


そこには信吾と正樹に暗示を掛けているような異様な雰囲気が漂っていた。


そしてその狂喜な願いはすぐに叶うことになる。


「信吾…たぶん冒険者だと思う人達が6人こっちに向かって来てる」


友成からダンジョン経由で連絡が入った。


「ふははは!まさかこんな早く来るとはな。流石ゲームだ。ストーリーの展開が早い。正樹!俺に新しい剣を与えてくれる大切なだ、お出迎えに行くぞ」


信吾の魂は黒く染まり始めていた。


そしてこの物語は悲劇的な終盤を迎える事になる。

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