第102話 幕間 乙女騎士団の領主お宅訪問

 政宗の店で街の領主と会った乙女騎士団。


 今は領主邸の前である。


 乙女騎士団の4人は門前で話をしている。


「ねえねえ、定番当て勝負しない?」


「「なにそれ?」」


 桜と雫は揃ってちょこんと首を傾ける。


「ラノベ定番があるかどうかよ。例えば私達が門番に「お前らが来るとは聞いてない。帰れ!」と言われるとかよ。判った?」


「「あ~、なるほど」」


 桜と雫は興味を持ったようだ。


 3人は各々考えている。領主邸の門前で。

 真冬は興味が無いようで不参加だ。


 -鼎-

 1. 門番に「そんな話しは聞いてない。帰れ!」と言われる。


 2. 玄関前の庭を通ると騎士が出てきて「実力も無いくせに勝負だ!」と言われる。


 -桜-

 1. 領主邸の玄関を入ると老齢の男性執事が出てきてその名前が「セバスチャン」


 2. メイドが全員集まって並んで挨拶してくれる。


 -雫-

 1. 廊下の壁に大きな領主本人の絵が飾ってある。 


 2. 美味しい紅茶とクッキーが出てくる。


 鼎が配下枠で桜は従者枠で雫は安全牌枠である。


 4人は門前で話をしている。


「おい、あれ聞こえたか? 俺達追い返さないといけないのか?テムズ様から話しは聞いてるのに…」


「いやいや、そんなの無理だよ」


 門番は困惑している。


 鼎が門番に期待した顔で話し掛けようとする。


「おい、き、来たぞ…」


「お、お前が対応しろよ」


 門番達は小声でなすり合いをしている。


「あの~、私達冒険者ギルド所属の乙女騎士団と申します。本日、領主のテムズ様に呼ばれて参りました。ご存知無いですよね?無いですよね?」


 鼎は目を輝かせて後半が変な挨拶をする。


「乙女騎士団の皆様ですね。話しは聞いております。手続きは不要です。そのままお入りください」


「チッ!」


 鼎は舌打ちして歩いていった。桜達は申し訳無さそうに鼎の後を付いていく。


「なあ、俺達が悪かったのかな…」


 とんだ被害にあった門番達であった。


 鼎達は領主邸に続く長い庭道を歩いていく。


 周りに居たのは花壇に水やりをしているメイドと庭木の手入れをしている男性のみであった。


 鼎は周りを見渡しても騎士が居ないので、ゆっくり歩いている。それは「牛歩戦術」であった。


「鼎ちゃん、歩くの遅いよ~。それもう止まってるのと一緒だよ。夜になっちゃうよ」


 鼎は焦っていた。


「あっ、あれが騎士よ!武器を持ってる。私達も反撃しないと危ないわ!」


「お姉ちゃん…あれ、庭師さんがハサミを持って余分な枝を切ってるだけだよ…」


「………負けそうと判って逃げたわね」


 鼎は必死だが完敗である。


 4人は玄関前に着いた。とても大きな屋敷である。


 何故か先頭が桜に変わっている。


 その桜の目は期待に満ちていた。


 玄関のドアが内側から開き、中から従者服をビシッと着こなした20代後半の男性が見えた。


「バタンッ!」


 開き掛けたドアが外側から勢いよく閉じられた。


「ドア越しで失礼します。貴方は執事さんでは無いですよね。もし執事さんでしたら、も、もう1人初老の男性執事さんがられますよね。すぐ呼んできて交代してください。今すぐに~」


 桜の目は焦りで満ちていた。


「えっ?それはどういった意味でしょうか。因みに私が執事ですが他には居ませんよ」


「チッ!」


 2人目の舌打ち行為である。


 桜率いる乙女騎士団は中入ると正面に困惑した表情を押し隠し優雅に向かえ入れてくれた。

「いらっしゃいませ。本日はテムズ伯爵様の館へお越し頂きありがとうございます。私は執事のトーマスと申します」


「チッ!」


 桜はご立腹である。


「えっ、何か聞こえたような気がし……」


「ああああ!な、なんでも無いです。気にしないでください」


 雫が慌ててフォローする。


「では応接室はこちらです」


 トーマスは4人を案内する為に歩きだす。


 だが桜は3人が歩きだすのを押し留める。そして鋭い目で周りを見渡した。


 今居る広間には何か作業しているメイドが2人居た。


「チッ!」


 舌打ちの大安売りである。


「あ、あのぅ。案内をしたいのですが…」


「トーマスさん、ごめんなさい。今行きます!」


 何故か雫が期待の目をして先頭を歩いていた。


 さすが領主邸である。長い廊下には高価そうな花瓶や置物が置いてあり壁には風景画などが飾ってある。


「トーマスさん、素敵な花瓶や風景画ですね。因みにテムズ領主様の素敵なお姿を描いたものとかはあったりしませんか。ありますよね?絶対に」


 雫は必死である。


「ははは、トーマス様はそういうのが苦手なようで飾る事はおろか描いても無いですよ」


「チッ!です」


 トーマスに聞こえない程の小声で、とても控えめな舌打ちである。


 4人は応接室に通されソファーに座る。


 雫は「今度は問題無いでしょ」と余裕の表情で座り、あるものを待っていた。


「コンコンッ」


 雫は余裕の目で見ている。


 可愛いらしいメイドが台車を押して入ってくる。


 雫は余裕の目で見ている。


 メイドが押す台車には急須きゅうす湯呑ゆのみと丸いモッチリとしたモノが見えた。


 雫の目は見えないくらい細くなっている。


「こちらをどうぞ。こちらは王都で流行っている緑茶でこちらが饅頭と言うものです。今日たまたま入手出来たんですよ。本当にお客様はご幸運の持ち主ですね。いつもは紅茶とクッキーなんですよ」


 メイドは溢れんばかりの笑顔でテーブルに置く。


「「「 ぶはっ!」」」


 雫以外の3人がこらえきれず吹き出した。


「メイドさん、すいません。緊張してて息を思いっきり吹いてしまいました」


 苦しい言い訳である。


「スッキリした味の紅茶ですね。このクッキーもモチモチして美味しいです」


 雫は意外と豪胆だった。


 メイドは困惑した表情を押し隠し優雅に退出した。


 応接室は乙女騎士団の4人だけになった。


「ぶふっ!雫、緑茶を紅茶に間違えるのはギリギリだけど許してあげる。でも饅頭をクッキーで押し通すのは無理だよー。モチモチのクッキーって…」


「ぶはははっ!お腹がよじれるー!」


「お姉ちゃん…私、恥ずかしい…」


「あー、面白かったわ。もう今日は満足ね。そろそろ帰りましょうか。長居しても悪いから」


「鼎ちゃん、それはどうかと思うな~」


 乙女騎士団はどこでも通常運転であった。

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