第101話 幕間 乙女騎士団の領主お宅訪問(2)
領主の呼び出しを受けた乙女騎士団。
今は冒険者ギルドを出て政宗の店に居る。
「政宗さん、どうしても行かないと駄目?」
「相手は領主だからな。別に悪い事した訳じゃないんだから行ってこい。綺麗な服着てな」
(まぁ、行くまでもないけどな…4人は驚くかな)
政宗は料理を作りながら話している。
「お姉ちゃん、私も嫌だけどシルビアさんがあれだけ怒ってたから行った方がいいよ」
「そうだね。話しは桜さんに任せればいいし」
「えっ、私?駄目だよ。緊張しちゃうよ。リーダーは鼎ちゃんなんだから頑張ってよ~」
「いっそのこと真冬にやらせてみる? 面白そうだよ。弾まない領主との会談。ぶふっ!想像しただけでお腹が痛いわ」
「あむあむ おかわり」
真冬は無視である。
鼎達は色々脱線しながらも話し合いをしていた。
「はぁ、やっぱり面倒なのよね。放置するわよ」
「おい、それは困るぞ。お前らコッチはずっと待ってるんだぞ。いい加減来いよ」
「えっ、誰よ?あなた」
鼎達の会話に突然割り込んで来たのは20代後半に見える人族の男であった。
「俺か?俺はこの街の領主テムズ・アンデルだ」
「「「 えーーー!」」」
「あむあむ 水欲しい」
真冬以外はビックリだ。
「こ、これは大変失礼致しました。私は乙女騎士団リーダーの鼎と申します。隣から桜、真冬、雫です。宜しくお願い致します」
4人は立ち上がって姿勢を正して頭を下げた。
「こちらこそ宜しくな。俺は見ての通りそこら辺に居るおっさんと変わらん。だから気軽に話せ。俺もその方が話しやすいからな」
テムズは背は高めで髪は短めの金髪、青い目をしたちょい悪オヤジ的な雰囲気を持つ26才の男であった。
「お前らが来ないから俺が来てやったんだ。オヤジさん、エールと何か食べるもの頼む」
テムズがカウンターに座っている鼎の隣に座ると、政宗の妻アヤネがテールと煮物が入った小鉢を置く。
「領主様は何故ここに私達が居るのを判ったんですか?それとこの口調で大丈夫でしょうか」
「ああ、もっと崩しても気にならん。何故判ったのかは3日前から毎日ここに来てたからだ。オヤジさんにお前らがよく食べに来ると聞いてな。ここの飯も旨いし休憩も兼ねてるけどな」
テムズは煮物を美味しそうに食べ、エールを飲む。
「お前ら、テムズさんは見ての通り話の判る方だ。礼儀を持って訪問して来るんだな」
「えっ、もう会ったからいいんじない?」
「お姉ちゃん…」
「鼎と呼ぶぞ。鼎、それは駄目だな。もし他の貴族から呼び出しを受けたら必ず訪問するんだ。無理ならその理由を明確にして言付けをする事。今回の様な対応ではもっと面倒な事になるぞ」
鼎はテムズの言葉に反省していた。
「今後気を付けるようにします。助言ありがとうございました」
「ははは、次から気を付けることだ。それでいつ来るんだ?明日は午後からなら時間取れるぞ」
4人は小声で相談している。
「えー、いきなり明日は嫌だな」
「私は面倒な事は早く済ませたいかな~」
「ぐびぐび ぷはー」
「お姉ちゃん、桜さん、嫌とか面倒とか… 領主様に聞こえちゃうよ。私も行くの嫌だけど…」
4人の気持ちは後ろ向きである。
「いや、もう丸聞こえだからな… お前らは清々しいほどに嫌がるな」
「そ、そんなに嫌な訳では… ただちょっと行っても面白い事無いしなぁって思ってるぐらいで…」
「それ、言ってる事はあまり変わらんからな」
テムズは呆れた様に鼎を見ていた。
「はぁ、それじゃあ来る気になるようにするか」
4人はほんの少しだけ興味を持った。
「お前達、異世界から来ただろ?」
4人は物凄く驚いた。料理をしていた政宗も驚いた。
だが、鼎は心を落ち着け冷静に対処した。
「ななな、なんですか。そそ、そそそれは?」
…違ったようだ。
「鼎…お前は動揺しすぎだ。ああ、異世界人だからと言って捕まえたり奴隷にしたりとかは無いからな」
テムズは4人の驚き慌てる様子をツマミとして、美味しそうにエールを飲んでいた。
「どどど、どうして、わ、わ判ったんですかかか?」
鼎はまだ混乱していた。
「異世界から来たのはお前達だけじゃ無いぞ」
4人は固まっている。政宗は凍っていた。
「続きは俺の家に来てからだ。明日の午後に来い」
テムズは残りのエールを飲むと店を出て行った。
そのテムズの顔は、イタズラが成功した時のちょい悪オヤジな笑みをしていた。
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