第97話 孤児院で屋台

 孤児院で子供達と屋台の準備をした夏希。


 今日は屋台本番だ。


 夏希はまだ日が昇っていない街を孤児院に向かって歩いている。屋台本体は昨日の夜に商業ギルドに取りに行って今はアイテムボックスの中だ。(楽でいいね)


 孤児院に着くとアイテムボックスから屋台を取り出して孤児院前に動かないように設置する。長手の炭入れに炭と木片を入れて生活魔法の種火で木片に火をつける。あとは鉄板を置くだけだ。

 屋台の隣に長テーブルを設置して、その上にブロックサイズの発泡スチロールを両面テープで張り付ける。これはフルーツ飴を立てるものだ。

 あとは子供達と書いた看板とメニューを判りやすい様に屋台の前に置いておく。


[ 幸せを呼ぶ子供達の屋台 ]


[甘いよ! フルーツ飴 銅貨1枚]


[小さな宝石 フルーツ飴(小) 小銅貨5枚]


[旨いよ! 箸巻き 銅貨5枚] 


 以上のメニューだ。


 フルーツ飴(小)はスラムが近いので、この値段ならもしかして買いに来るかなと思い、イチゴ1粒だけのものを100串準備していた。


 お釣の小銭と入れる物もある。売る為の作戦も考えてある。これで準備完了だ。


 夏希は孤児院に入って行く。


「「夏希お兄ちゃん、おはよう」」


「うおっ、おはよう。皆早いね」


 まだ日が昇ってないのに皆起きて庭で遊んでいた。(年少組も起きてるぞ)


「夏希さん、おはようございます。ふふふ、子供達は待ちきれなかった様でこの状態です。朝御飯も既に済んでますよ」


「チェンリ院長、おはようございます。そうみたいですね。屋台の準備は出来てますので皆で外に出ましょうか。皆外に行くぞ!」


「 私頑張って売るの! 」


「「 売るの! 」」


「 野郎共、行くぞ!」


「「 おー! 」」


 今日もそのノリなのね。


 この後、大人達はサポート役だ。


 子供達は年長組がお金の管理と箸巻きを焼いて仕上げをする係だ。年少組は接客をする。


 屋台の炭火はいい感じだ。アイテムボックスから鉄板を出してその上に乗せる。ソースとマヨネーズを出して屋台のテーブルに置く。青のりや鰹節などは無しだ。

 子供達を並ばせアイテムボックスからフルーツ飴を手渡しして発泡スチロールに刺していく。箸巻きも出して炭火が殆ど無い部分の鉄板の上に乗せて行く。


 あとは、お客さんを待つばかりだ。朝のこの時間は仕事に出掛ける人で人通りはある筈だ。周りにも屋台の準備をしている人達が居る。


 子供達もワクワクしながらお客さんが来るのを待っている。(おい、そこの男の子達。走り回るな!)


 だが待つだけでは駄目だ。


 攻めるのだ!


「 行け!作戦1号達よ!」


「マリアナ、この箸巻きって初めて食べたけど凄い美味しいよ!生地はフンワリして中の具はたくさんあるの。

 それとこのソースが凄いの!2種類も掛かってて1つが甘辛くてもう1つはまろやかで酸味か効いてて2つが合わさると幸せな味になるの!

 これが銅貨5枚で食べられるのよ。信じられない。買わないと損だわ」


「ニア、こっちのフルーツ飴も美味しいよ!果物に飴が掛かってるの。飴はカリッとして甘くて齧ると中の果物が甘酸っぱくて2度美味しいの!

 それにキラキラして綺麗でしょ。宝石みたいで食べるのが勿体無いわ。

 これが銅貨1枚で食べられるのよ。信じられない。買わないと損だわ」


 通行人達が大勢立ち止まり2人の会話を聞いている。そして隣と話し始める。


「あれって孤児院のニアちゃんとマリアナちゃんだよな。何で自分とこの屋台で食べてるんだ?」


「もしかして自作自演ってやつか?」


「静かに!面白そうだから次は何を言うか待っててみようぜ。何を言うか楽しみだな」


 通行人達は商品を買うこともなくニアとマリアナを見ている。それはとても興味深そうに…


 ニアとマリアナは固まっている。そして僅かに肩が震えている。更に2人の顔は真っ赤に染まっている。


 静かな時間が過ぎていく。


「 作戦一号達、撤退だ!」


 2人は屋台の裏に逃げるように小走りして隠れた。


(くそっ!作戦は失敗だ…)


 通行人達は見世物が終わったと思い、屋台の商品を普通に買い始めたのだった。


(これは私の作戦ミスだった……)


「おっ、これはいい匂いがして旨そうだな。嬢ちゃんよ2本焼いてくれ」


「このフルーツ飴可愛い!全種類ちょうだい!仕事場に持って行って自慢するわ」


「この箸巻きだけど、すげぇ旨いぞ!」


 大盛況だ。


 子供達も忙しく売っている。


 箸巻きを焼いている子供達も「やったぜ!」と言いながら笑顔で追加を焼いている。


 子供達15人が楽しそうに目を耀かせながら働いている。


(屋台やって良かったな)


 朝の通勤ラッシュ?が終わり人通りが少なくなり、その間に昼御飯を食べることにする。

 昼御飯は交代で孤児院に戻って食べるようにしていたが、子供達は皆屋台から離れるのを嫌がった。

 仕方なく孤児院から机を追加で持ち出して屋台の後ろに置きそこで食べさせた。

 食べる間も「まだまだ売るぞ」とか言いながら嬉しそうに食べていた。(誰もお昼寝しないんだよ…)


 昼の時間帯も買い物の奥様達が夜ご飯の替わりと箸巻きを買い、子供達にとフルーツ飴を買って行く。

 そしてスラムの子供達も少ないお金を握りしめて買いに来ていた。飴色に輝く1粒のイチゴを見てとても嬉しそうにしていた。(タダであげたい…)


 売り上げは上々だ。


 だがここで待ちの姿勢は駄目だ。


 もう時間は夕方だ。腹を空かせた仕事帰りの人や食いしん坊の冒険者達が訪れる時間帯だ。


 ゴールデンタイム突入だ!


 立ち止まるな!攻めるんだ!


「 行け!作戦2号達よ!」


「いらったいませー」


「おじたん、これわたちがつくたの」


 幼女達がアザと可愛い仕草とアザと可愛い声を投げ掛ける。


「こ、これ貰おうかな」


「か、かわゆい。ここの全部くれ!」


 男冒険者野郎共をフィッーシュ!!


「 攻め時だ!行け!作戦3号達よ!」


「こえ、ぼくがつくたのー」


「おねえたん、ぼくのたべて…」


 幼男達がアザと可愛い仕草とアザと可愛い声を投げ掛ける。


「あ、あたしこれ買うわ」


「はふぅ、食べていいの?いいの?」


 女冒険者共をフィッーシュ!!


 作戦は大成功だ。


 そしてゴールデンタイムは終わる。


 屋台を全員で片付けて皆で庭に集まる。そこに机を出して今日の売り上げを子供達で数えさせる。子供達は頑張って屋台をした成果をその手で確かめている。とてもいい笑顔で。


 これもいい思い出になっただろう。


 将来、商売や屋台をする子供もいるだろう。


 それを思うだけで夏希はとても幸せだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る