第88話 孤児院に行く夏希

 師匠との模擬戦で自分の弱さを通観した夏希。


 夏希は宿屋の食堂で朝食を食べている。


 今日のメニューはオムレツだ。ワンプレートにオムレツとサラダが盛り付けてあり、見た目も鮮やかで美味しかった。


 夏希は食べた後の食器を引き下げに来たアスザックに声を掛けた。


「なあ、アスザック。薬草採取依頼をよく受けてるけど金が欲しいんだよな。今度屋台をやろうと思ってるんだけど手伝わないか?冒険者仲間は3人居るんだよな、仲間と一緒でいいぞ」


「お、夏希兄ちゃんホントか?いつやるんだ?あとバイト代はどれくらい?」


 どれくらいにするかな?短期だから高めにしてやるかな。おっ、歩合制にしたら頑張りそうだな。


「日にちは、まだ準備がこれからだから決まったら教える。バイト代は1日銀貨8枚か売れた金額の2割のどっちか選べ。まだ商品は決めてないが銅貨5枚で売るつもりだ。だから80個以上売れたらコッチの方が得になるな」


 アスザックは真剣に考えている。


「夏希兄ちゃんは料理が得意なのか?美味しくなかったら売れないよな。でも美味しかったら……商品が判らないのに決められないよ」


 意外と考えてるな。


「じゃあ、試食させてやる。それで決めればいい」


「お、それならいいな。また決まったら教えてな」


 アスザックは空いた食器を下げて調理場に戻った。


 今日はこれから孤児院だな。持って行く物の確認をしとくかな。あと何か他にすることが無いかな。


 夏希は食後のお茶を飲みながら考える。


 野菜とオークは売るとして、子供達に何かしてあげたいな。院長やマリアナさんにも手土産必要かな?

 子供達には絵本でも読んであげるかな。日本語で書かれてるから子供達には読めないし。チェンリ院長とマリアナさんにはお饅頭でいいか。


 夏希は準備を終えて孤児院に向かう事にした。


 朝の街は気持ちがいい。街の人達の動きが今日1日の始まりを感じさせてくれる。


 夏希が孤児院に入ると子供達が笑顔で集まって来た。


「「夏希兄ちゃんだ!おはよう」」


「「お肉とお野菜、美味しかったよ!」」


「「兄ちゃん、遊ぼうぜ!」」


 とても賑やかで楽しくなる。


「皆、おはよう。先にチェンリ院長の所に行くから後でな。今日は絵本を読んであげるからな」


 子供達は騒ぎながらも素直に道を開けてくれる。(本当に素直で聞き分けのいい子供達だな)


 夏希は子供達を見ていたマリアナさんに声を掛けた。


「マリアナさん、おはよう。野菜と肉を持って来たんだけどチェンリ院長居る?」


「夏希さん、おはようにゃ。院長は調理場に居るにゃ。私も一緒に行くにゃ」


(えっ、今「にゃ」って言ってたよな…)


「じゃあ、一緒に行きましょうか」


「はいにゃ」


 夏希は立ち止まりマリアナを見る。


「マリアナさん、この前来た時は語尾に「にゃ」は付けてなかったように思うんですが…」


 マリアナさんは何故かモジモジしている。


「あ、あのぅ…ニアが夏希さんと話す時「にゃ」を付けてたから私も付けた方がいいのかなと思って…」


 これは何て答えればいいのか…(可愛いけど…)


「いや、あ、あれは遊びみたいなものですからマリアナさんがする必要は無いですよ」


「そうですか…」


 少し残念そうだ。


 2人は調理場に居るチェンリ院長の所に向かった。


「チェンリ院長、おはようございます。野菜と肉を持って来ましたよ。この間と同じ場所でいいですよね?」


「夏希さん、おはようございますにゃ。はいにゃ。この間の場所でいいですにゃ」


 お前もか。


 チェンリ院長にも「にゃ」の事を説明したが、何故か残念そうな顔をしていた。


 野菜と肉を置いた夏希は屋台の事を話した。


「今度、屋台を出そうと思ってるのですが、宿屋の近くとこの孤児院の近くでも出す予定なんです。この近くで屋台を出す時に子供達に手伝ってもらってもいいでしょうか?バイト代は出します」


「夏希さんは冒険者ですよね。商売もするんですか?そんなにお金が必要なんですか?」


 チェンリ院長は違う心配をしているようだ。


「いえ、これはちょっと趣味と言うか…短期間だけやってみたいと思ったんです」


「そうですか。それならいいんですが…お手伝いは問題無いですよ。ただ子供達はまだ小さいので反対に迷惑を掛けないかと心配です」


 そうだな。まだ6才前後の子供達だからな。


「大丈夫ですよ。難しい事は頼まないですから。社会勉強だと思ってくれればいいです」


「それなら是非お願いします。子供達も仕事が出来て喜ぶと思います」


「こちらこそ、宜しくお願いします。まだ何も準備出来ていないので詳しいことはニアと相談して決める予定です。その時にまた報告に来ます」


 夏希はその後、チェンリ院長とマリアナさんにお饅頭を渡し、子供達には絵本を読んであげて孤児院を出た。因みに絵本は何故かこの世界の言語に翻訳されたものであった。(天使のサービスかな?)

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