第87話 ルンバ師匠と夏希

 採取依頼を終えてルンバ師匠の店に行った夏希。


 ディプル草を渡した夏希は街から離れた草原にルンバと共に居る。


「ここなら周りに迷惑を掛けないで魔法を使う事が出来るのでち。まずは模擬戦をやってみるでち。夏希はこの前見せた威力の更に1/10の水刃を使うでち。他の魔法を使ってもいいでちが威力は落とすでち」


「判りましたけど、その威力でも当たったら普通に致命傷になりますよ?」


「問題無いでち。私は結界魔法が使えるでち。それに魔法耐性スキルも持ってるでち。まぁ、その前に私に当てることは出来ないでちよ」


 魔法結界に魔法耐性もあるのか…(他のスキルもたくさん持ってそうだな)


「念のために聞くのですが、ルンバ師匠は致命傷になる魔法は使わないですよね?」


「ん?それはフリでちか?使えって事でちか?」


 なんでそこで言う…


「ルンバ師匠!フリじゃ無いですからね。絶対に致命傷になる魔法は使わないでくださいね」


 なんでルンバ師匠は黙ったままで戦闘態勢に移ってるんだ…すげぇ怖いんだけど…


「行くでち!」


「おい!来たよ!大丈夫なの?師匠ーー!」


 夏希は的を絞らせない様に左右に動きながら距離を取るように後ろに下がる。


「水玉でち」


 ルンバは無詠唱でピンポン玉サイズの水球を作り出しその場で連射してきた。スピードは早いが目で追える早さだ。


 夏希は難なく避けていく。

(良かった~殺傷力の弱い魔法だった)


 絶え間なく放たれる水球を避けながら夏希は反撃を開始する。


「水刃!」


 夏希は単発では避けられると判断し、瞬時に20の水刃を頭上に広範囲で展開し、ルンバを挟み込む様にその水刃を一気に放った。(どれかは当たるだろ)


「甘いでち」


 水刃を放った場所にルンバはもう居ない。


「ぐはっ!」


 夏希は反対に左右から水球を浴びていた。


「夏希は魔法を放つ準備に入ると動きが若干遅くなるでち。それと狙いを定めてるのが気配でよく判るでち。あと視野も狭いでち」


 ルンバは夏希を見下ろしながら話す。


「飛翔も使えるのかよ!」


 ルンバはそのまま空中から攻撃を始めた。


「土穴と土壁と水球でち。おまけで風玉でち」


 魔法を避ける為に動き回っていた夏希。足元に小さな穴ができ動きが鈍り、避けよとした方向に壁ができ動きが止まる。そこに水球が容赦無く夏希を襲う。


「バシャッ!」


 夏希は水を振動させた盾を全面に出して水球の攻撃を防ぐ。(よし、なんとか耐えた)


「ボゴッ!」


「ぐはっ!またか!」


 夏希の横にあった壁は既に無くなっており、その横から風玉を食らっていた。


「ほら、全然ダメでち」


 どれだけの魔法が使えるんだ?まさか全属性じゃ無いよな。それに発動速度も早い。


「夏希は目だけで反応してるでち。それも先読みを全くして無いでちよ。バカなのでちか?」


 言いたい放題だな…


「はぁ、夏希の魔法の威力は確かに凄いでち。でもそれだけでち。他は何も無いでち。バカ筋肉相手ならランクAでも勝てるでちが、技巧派のランクAには勝てないでち」


 もう泣くぞ…


 それからもルンバ師匠の巧みな魔法攻撃と口撃で身も心もボロボロにされた夏希であった。


「もう日が暮れるでち。今日のお遊びはここまででち。店に戻ってお説教でち」


 夏希はトボトボとルンバ師匠の後を付いて行った。


 店に戻るとルンバ師匠が部屋に案内してくれる。そこは6畳程の広さで魔道具製の調理場とテーブルセットがあるダイニングキッチンであった。


「そこに座るでち」


 ルンバはそう言いながら夏希が座った反対面に座って夏希を睨み付けていた。


(これは長い説教になりそうだな…)


「まずは出すでち」


 ん? 出す? なにを?


「夏希はやっぱり全然ダメでち。私は言ったでち。目だけで判断せずに先読みをしろとでち」


 いやルンバ師匠座ってるだけだし…動いてないし…


「ダンッ!」


 勢いよくテーブルを叩くルンバ。


「あの酒を早く出すでち!」


 それかよ…


 夏希はアイテムボックスからウイスキーのミニボトルを取り出してテーブルに置いた。


「夏希はもっと私を見て感じて先を読むでち」


 ルンバは出されたミニボトルを一気に飲んでいた。


「くぅ~、これ、これでち。「ガツン」ときて「カァッ」となる。最高でち」


 ルンバはそう言って夏希を睨む。


 はいはい、まだ要るのね。夏希はアイテムボックスから追加で5本出してテーブルに並べる。


「ふむ、判ってきたではないかでち。その先読みがとても大切でち」


 ルンバはとても美味しそうに飲んでいる。


「師匠、説教はしないの?」


「ん?もうしたでち」


 えっ?ミニボトルの話しかしてないよね。


「まずは相手を見て感じることから始めるでち。これはホントに大切な事でち。相手が何を望んでるか、どう行動しようとしてるのか先読みするでち」


 ルンバは4本目のミニボトルを飲んでいる。


「それが出来れば自分の次の動きがスムーズになるでち。魔法の技術はそれからでち」


 ルンバは最後のミニボトルを飲んでいる。


「もうこれで終わりです」


 夏希はアイテムボックスから追加で2本出す。


「そう、その調子でち。夏希はその酒をどこで手に入れたでちか?まだあるなら売って欲しいでち」


 売れないんだよなぁ。それに俺やスズランの分が買えなくなるからな。


「それはちょっと言えないんです。あと、もうあまり無いので売ることも出来ないんですよ。少しだけならまた出すので我慢してください」


 ルンバは泣きそうな目をして夏希を見ていた。


「いつかはまだ判らないですが、たくさん仕入れて来るので許してくださいね」


「仕方ないでち。我慢するでち。でも毎回5本は欲しいでち。ダメでちか?」


 それは我慢してるのか?


「まぁ、考えておきます。それと師匠、気になってたんですが最初にウイスキー飲んだ時、言葉使いおかしくなかったですか?」


「夏希もその言葉使いおかしいでち。普通に喋るでち。私は極度に興奮すると男前な言葉になるでち」


 男前って…


「判ったよ。あと、師匠って色々小さいよね?大人だよね?何歳なの?」


「色々ってどこのことでち!私は立派なレディでち。失礼でちよ!歳は乙女の秘密でちよ」


(これが「ロリばばあ」と言うやつか…)


「風玉でち」


「ぐはっ! 今日一番の威力だぞ」


「これが先読みでち」


 こうしてルンバ師匠の特訓は終わったのであった。

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