第84話 ディプル草を求めて(4)

 森の中で夜営をしていた夏希は妖精と出会う。


 夏希の周りには20程の妖精が「遊んで」と言いながら飛び回っている。その姿は可愛いのだが、夏希の体中には嫌な汗が滲み出していた。


「「まだ遊ぶの。遊ぶの」」


 どうする?


 攻撃されてる訳でもない。敵意も感じられない。ただ遊んで欲しいと迫ってくるだけだ。


 それが反対にとても恐ろしい。


 逃げても追い付かれるだろう。攻撃する訳にも行かない。俺は残虐者では無いのだ。


 夏希がどうするか思案していると、影からスズランが黒い闇を纏いながら出て来た。


「お前らはここから失せるのじゃ」


 スズランがその一言に威圧を乗せて言い放つと、妖精達は笑いながら飛び去って行った。


 スズランは妖精達が居なくなったのを見届けると何も言わず夏希の影に戻った。


[ 夏希、お前は妖精が何者かを知っているか?]


 夏希の頭の中でスズランの声が聞こえる。


[ これから話す事が天使達を刺激するかもしれん。だから夏希も念話で話すのじゃ]


[ 判った。話を続けてくれ]


 夏希はキャンプ用の椅子に座り、コーヒーの準備しながらスズランの念話を聞く。


[ 妖精は人間の魂が変化した結果生まれた種族じゃ。天使達の暇潰しでな。夏希も知ってるじゃろ?天使達が好む者をな]


 夏希は天使カルレスとの会話を思い出す。(確かにあの天使も魂の変化を好んでいたな)


[ あの妖精達は人間として生きていた時、天使と会ってスキルを与えられた。だが、その魂を変化させることも無く死んで、そして妖精に生まれ変わったのじゃ]


 夏希はスズランの話に疑問を持つ。


[ 天使はもう1つの魂をくれて、死んだら元の状態に戻るはずだぞ。俺とは違うのか?]


[ いや、同じなのじゃ。ただし天使が好む魂に変化したらの話じゃな。変わらなければ元の魂は天使に壊され、与えられたな魂で輪廻転生する。過去の記憶も無くしてこの世界でな]


 夏希の中に様々な感情と思考が入り乱れるが、その感情をなんとか抑えスズランの話を聞いた。


[ 夏希が相手をしていた妖精達は子供の時に死んだのじゃ。過去の記憶は無いが、同じの魂を持つお前に引き寄せられたのじゃろう。

 あと全ての妖精があんな感じでは無いぞ。理性を持つ者が大半だからな。妖精は転生前の性格に影響され易いのじゃ]


[ スズラン、それなら悪意のある妖精も居るのか?俺の妖精に対するイメージが変わりそうなんだが…]


[ ん?ああ、悪意を持つ妖精は居ないのじゃ。妖精の中の「羽付」ではな。たぶん夏希は知識不足じゃな]


(よく判らないな)コーヒーを飲みながら思う。


[ そもそも妖精とは種族の名称じゃ。人族、獣人族と同じ意味合いじゃな。だから妖精はたくさんの種類が居る。ゴブリンやオークなども妖精族になるしエルフやドワーフもそうじゃ。

 羽付は転生前に善良だった者が転生した者で悪意を持って残虐に生きていた者はゴブリンなどの魔物に転生する。それが希少上位種と言われる魔物なのじゃ。

 それと全ての魔物が天使に元の魂を壊された者達では無いからな。魂を壊された者達は必ず希少上位種になる。他は普通に繁殖で増えた魔物じゃ。

 これで説明は終わりじゃ。これ以上は、理解するのが大変だろう。また気が向いたら話をしてやる]


 スズランとの念話は終了した。


 夏希は思った。


(うん、お腹いっぱいだ。この話は後回しにしよう。とにかく薬草採取を頑張るのだ!)


 夏希は木の上に上がって就寝したのであった。


 時間は翌朝。


 夏希とスズランは朝食を済ませて山の麓を目指し歩いている。そして1時間程歩くと山の麓に到着した。


「やっと着いたー!」


 その場所は開けており、山から流れ出た湧水で出来た小さな泉があった。


「綺麗な所だな。少し休憩してからディプル草を探そう。スズラン、お茶でいいよね?」


 夏希はテーブルを取り出してお茶の準備をする。


「ワレはビールがいいのじゃが…」


 夏希はスズランの言葉を無視して冷たい麦茶とお菓子のビスケットをテーブルに出していく。スズランは椅子に座ってその麦茶を飲みお菓子を食べる。


「麦茶は冷たいが夏希も冷たいのじゃ…」


「スズランに座布団1枚!」


「座布団よりビールのほうがいいのじゃ…」


「ディプル草ってあんまり無いらしいな。探すの大変そうだよな。見つかるかなぁ」


「またワレの話を無視して…(覚えておるのじゃ…)

 ディプル草じゃろ?あるぞ?たくさん」


「えっ、あるの?たくさん」


「探し方が悪いのじゃな。多分にその方法がとうの昔に忘れ去られたのじゃろう」


 スズランはそう言ってテーブルを離れ、なにかを探し始めた。そして見付けた物を手に持って戻って来た。それはクローバーであった。


「ディプル草は妖精のニンフが育てているのじゃ。だからこのクローバーを頭に乗せてニンフの痕跡が濃い場所を探すのじゃ。ほれ乗せて見てみろ」


 夏希はスズランから受け取ったクローバーを頭に乗せて周りを見てみると、淡い光を放つ粒子が見えた。


「おお~、スズラン見えるぞ。凄いな!」


「ふふふ、ワレは凄いのじゃ。ビールを差し出される程凄いのじゃ。出すか?出すか?」


 夏希はテーブルから離れてニンフの痕跡が濃い場所を探し始めた。


「ワレの心はこの食べてるビスケットのように粉々に砕け散ったのじゃ…」


「スズランに座布団もう1枚!」


 このあと大量に見付けたディプル草をアイテムボックスに入れて2人は街に戻ったのであった。

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