第83話 ディプル草を求めて(3)
ディプル草を求めて森の中を歩く夏希。
一夜空けて朝早くから夏希は再び歩き出していた。隣にはスズランが歩いている。昨日の夜に2人の間に出来た小さな溝はもう無い。
森の奥になるにつれて強い魔物も増えてきた。夏希は水刃主体で魔物を倒し、スズランはビー玉サイズの黒い玉を飛ばして倒している。(その黒い玉の属性は夏希には判らない)
「夏希、腹が空いたのじゃ」
「そうだな。今日山の麓まで行けると思ってたんだけど無理だったな…ここら辺で夜営するか」
そう、時間はもう夕方である。
予定では今日山の麓まで行ける筈だったのだか…
「夏希が昼ご飯に時間を掛けすぎたからじゃ。本当ならもう山の麓でのんびりしてたのじゃ」
「スズランだってお代わりを頼んでたじゃん。あれが悪かったんだよ」
「ぐぬぬぬ…」
今日のお昼ご飯はお好み焼きだった。夏希は「俺の得意料理なんだ!旨いんだ!」と言って手によりを掛け、時間を掛けてお好み焼きを作ったのであった。また、フライパン1つで1枚ずつ丹念に焼いた上にスズランがお代わりをしたのも悪かった。そして極めつけが、その後2人でのんびりお茶しながら会話していた事である。
「まぁ、昼ご飯食べてから2時間も話ししてたら仕方ないよな。はははは」
「ふふふ、夏希が話してくれた[ 旦那様は無敵 ]の物語は面白かったのじゃ」
2人共に遅れた原因である。
「スズランはなにか食べたいものある?」
「夏希が昼に言ってた「牛丼」とやらを食べてみたいのじゃ」
牛丼なら500円で買えるな。
夏希は昨日の夜と同じ環境にして、そのテーブルに「牛丼」を出した。(ビールもね)
「スープとサラダも出すから食べてて」
「おお、肉でいっぱいじゃな。匂いも胃袋をガツンと刺激するいい匂いなのじゃ。いただきます」
スズランは「牛丼」の器を左手で持ち、右手のフォークで突き刺して食べ始めた。
すくって食べような。
「旨い!肉は柔らかくてタレは甘くてご飯と一緒に食べると止まらんな!また、このピンク色のシャキシャキしたのがいいアクセントなのじゃ」
夏希も準備が出来て食べ始める。
「うん、久しぶりに食べたけど旨いな」
今日も楽しいご飯と会話で1日が終わった。
時間は深夜。
スズランは影の中に戻り、夏希は木の上にハンモックで寝ている。
「起きて、ねぇ起きてよ」
夏希の耳元で小さな声が聞こえる。
「起きて遊んでよ。起きて」
「「起きて、起きて、遊んで」」
夏希は気が付くのが遅れたと焦り、木から落ちないように飛び起きて、横に置いてあったショートソードを鞘から抜いて構えた。
夏希がショートソードを構えた方向には、背中に羽の生えた小さな人型の何かが複数飛び回っていた。
「お前達は妖精なのか?」
今も飛び回りながら「遊んで」と声を掛けてくる。敵意は感じられない。
「そうよ。私達は妖精と呼ばれる存在よ。みんな暇なのよ。だから遊んで欲しいの。いいでしょ?」
ラノベとかで出てくるそのままの姿だ。夏希は少し警戒を弱めた。
「いや、俺は眠たいから無理だよ。ごめんな。そうだ、甘いものは好きか?」
そう言いながら夏希はアイテムボックスからチョコを出して包装を取って手のひらに乗せた。
妖精達は無警戒で手のひらのチョコを小さな手と口を使って食べ始めた。
「「あまーい!」」
「「おいしー!」」
チョコを食べた妖精達は嬉しそうに飛び回っている。
夏希はその妖精達の嬉しそうな顔や姿を見て癒されていた。その後は少しだけ遊ぶ時間を作ろうかと思い直し、話をしたり違うお菓子をあげたりと楽しい時間を過ごした。
「皆楽しかったよ。でもそろそろ寝るから、また会うことがあればその時に遊ぼうな」
夏希はそう言って、妖精達に別れを告げた。
「「駄目よ。まだ遊ぶの」」
「「遊ぶの。遊ぶの」」
誰も帰ろうとはしない。
そして妖精達の数がどんどん増えてきた。
「「まだ遊ぶの」」
「「今からずーと。遊ぶの」」
「「死ぬまでずーーーーと」」
夏希は妖精達の言葉にゾッとした。
これはどうすればいいんだ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます