第80話 師匠を求めて

 ニアに水魔法使いを紹介してもらった夏希。


 夏希はニアに書いてもらった地図を見ながら街を歩いている。その場所は街の北東にある孤児院の近くであった。


「ここだな、水魔法使いの家は。と言うか、店だなここは」


 夏希がたどり着いたのは一軒の店だった。


[ 妖精の館 ]


「いやいや、怪しすぎるだろ。これじゃあ何の店か判らないぞ。妖精売ってるのか?犯罪だろ」


 夏希は店の前で呆然としている。


「屋号としては面白味に描けるな…」


 夏希は何を求めているのだろう。


「もう帰ろうかな」


 いいからもう早く入れよ。


 夏希は恐る恐る店に入って行った。


「お邪魔しまーす」


 店内は2畳程のスペースがあり、その奥がカウンターでその後ろに棚に並べた瓶入りの薬草やポーション類がある。(クリーニング屋みたいな感じだね)


 夏希は店内を物珍しそうに見回している。


「いらっしゃいませでち。」


 ん?なに?なんて言った?「でち」ってなに?


 夏希は声がした方を見るが誰も居ない。


「ここでち」


 えっ?また「でち」って言ったよね…


 声はカウンターの方から聞こえてきたと思い、注意深く見るとカウンターから通称「あほ毛」が飛び出て見えていた。


 なんかもうお腹いっぱいなんですけど…


「よっこいしょでち。何を買いに来たでちか?」


 椅子の上に立ったのか、声の当人がカウンターからよく見える様になった。


 現れたのは身長100センチ程で幼女体型、水色の髪をボブカットにした少女?幼女?であった。(頭にあほ毛あり)そして種族がエルフ族であった。


 俺…どうすればいい?夏希は覚悟を決める。


「初めまして、夏希と申します。実は買い物に来たのでは無く、冒険者ギルドの紹介で来ました。用件は、この店に水魔法が使える方が居ると聞きまして、是非とも水魔法を教えて頂けないかとお邪魔させて頂きました」


 夏希は丁寧に挨拶をした。


「それは私でち。貴方が水魔法を使うのでちか?何を教えて貰いたいのでちか?」


「私が水魔法を使います。教えて頂きたい事は攻撃魔法です。私はまだ1種類しか使っていないのです。他のタイプを考えてはみたのですが思い付かないのです」


 エルフの幼女は思案している。


「取り敢えず貴方がどれだけの水魔法を使えるか見せてもらうでち。返答はそれからでち。裏庭があるから付いて来るでち」


 夏希は頭の中を「でち」でいっぱいにしながら後を付いて行った。


 裏庭はテニスコートの半分ぐらいの広さで何も無い。


「すいません。先にお名前を教えて頂けませんか?」


「ああ、ごめんなさいでち。私はルンバでち」


 どこをどう突っ込めばいいの… 吸い込むの? 踊るの? でいい? もう許してくれる?


 夏希は完敗だ。


「ここはそれ程広く無いでち。あそこの壁だけ魔法障壁になってるから、あの壁に向かって攻撃魔法を放つでち。威力は最大は危ないので加減して放つでち。その後でどれくらい加減したか説明するでち」


 夏希は少し考えたあと、1つだけ水刃を作り出し壁に向かって放った。水刃を受けた魔法障壁に変化は無い。


「これが今使える攻撃魔法です。威力は1/10ぐらいです。私はこれを最大で放つ場合は約1,000ほど同時に放てます。先程の威力の場合は10,000ですね」


 ルンバは夏希の話を聞いて唖然としていた。


「そ、それは凄いでち。もしその話が本当なら、その威力はこの国で100本の指の内に入るでち。数ならば10本でち」


 夏希は魔法に関してのみだが、何となく自分の強さがどれくらいなのか判ったような気がした。


「これに技術と知識が追い付けばもっと強くなれるでち。どうするでちか?私に教えてもらうでちか?実は私はこれでもこの国では3本の指に入るでちよ」


 ルンバは自慢気に話してきた。


 それは是非とも教えてもらいたい。


「ルンバさん、是非ともお願いします」


 ルンバは夏希の返答にニヤリと声を出さずに笑う。


「では、今日から貴方は私の弟子でち」


 夏希は魔法の師匠が見つかった事に喜んだ。


「ただし、私の頼みを1つ聞いてもらうでち。まぁ、それ程面倒な事では無い。ある薬草を取って来るでち。

 詳しい事は依頼はもう出しているからギルドで聞くでち。早速行って来るでち」


 そう言って夏希は追い出された。


 夏希は心の中でこう言った。


(お腹いっぱい過ぎて苦しい…)

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