第76話 幕間 バルバドス王国 スタンピード(7)
魔物との防衛戦がついに始まった。
北門真正面の壁上で魔物を迎え撃つ乙女騎士団。真冬の先制攻撃の特大魔法によって第一陣の魔物はほぼ全滅したのであった。
遊撃部隊からの魔物全滅の報告を受けて冒険者達は歓喜している。
「真冬…よくやったけど私達の出番が無かったわよ…。それよりも、あれだけの威力の魔法だったけど魔力は大丈夫なの?」
「あれは当分無理 あとは雷撃激強で行く」
真冬は密かに全開モードだったようだ。
「真冬、あんた凄いね!あんなの誰も出来やしないよ。見てみなよ周りの冒険者達を。これで勢いが付いたよ。よくやった!」
スザンヌは大喜びで真冬を抱き締めていた。
第二陣が来るまでの僅かな時間。
だが予定よりも時間が過ぎたが未だに魔物が来る気配が無い。時間は更に過ぎて冒険者達も浮き足だっている。
第一陣から30分ほど過ぎた時、遊撃部隊からの報告が来た。
「報告です!魔物の第二陣は進行速度を極端に落とし後方の大軍勢と合流しました。騎士団も奮闘していますが、後方軍勢の中に希少上位種のマッドミノタウロスが居て軍勢を纏め指揮しているようです。
その数は現時点で7000を越えています。また、更に後方から大型の魔物の軍勢が迫っており、場合によっては合流する可能性があります。
その数約4000です。最初に街に来る魔物は足の早いウルフ系で、大軍勢はゴブリンとオークが大半です。引き続き迎撃、進路調整、軍勢の分断に努めます。そちらも頑張ってください!」
冒険者達はその報告を受け、誰も話すこと無くその場で呆然としていた。
「お前達、何をボケッとしている!これからが本番だ。気合いを入れろ!お前達の後ろには万を越える守るべき人達が居るんだぞ。街の子供達や友人、それと愛する家族達の顔を思い出せ!剣を掲げろ!俺達がこの街を守るんだ!!」
エドガーが街全体に聞こえるのではと思う程の叫び声をあげた。
「「「 ウォー!! 」」」
冒険者達は持った武器を高々に掲げ、街を揺るがす程の大喚声が沸き起こった。
さあ、決戦の時は来た。
前方から魔物の軍勢が攻撃が届く位置まで来た。
「迎撃開始だ!」
最初の軍勢は足の早いウルフ系の四足歩行の魔物達だ。迎撃は弓を主体として行い投石機等も使う。魔法部隊は魔力を少しでも抑える為に中間距離まで待って迎撃する予定だ。
隙間の無い程放たれた矢で次々に魔物が倒されて行く。その矢をくぐり抜けた魔物達は魔法部隊により倒される。壁までたどり着いた魔物は攻撃用の壁穴から槍を突き出して倒していく。
迎撃は順調に行っている。ただ後続の魔物達が絶え間なく襲って来ており休む暇も無い。今はゴブリンなどの人型の魔物が主体となっている。
まだそれ程時間は経ってないが魔物の数の圧力により、冒険者達は少なく無い疲労と精神力を奪われていた。ただ、この中で上位冒険者と乙女騎士団は奮闘している。
「アイツらすげぇーな!あんなすげぇ威力の魔法をバンバン撃ってるぜ!」
「他の魔法使いは中間距離の魔物を倒してるのに、乙女騎士団は遠距離魔法使いっぱなしだよ。それも迎撃開始からずっとだよ」
「雷の女の子も凄かったが他の女の子もやるぞ!」
冒険者達は攻撃の手を止めることは無いが、その光景に驚き叫びながら話しをしていた。
「皆、そのままの威力で頑張って!後方に居る大型魔物を倒す魔力を残す事を考えながら攻撃するのよ!」
「鼎ちゃん…見境無しに魔法放ってるように見えるわよ。高威力の魔法ばかり使ってるわよね。魔力大丈夫?」
「ははは、実は張り切り過ぎちゃって、このままだと持たないかな…」
鼎はまだ全開モードだった。
「よし、迎撃していた冒険者は待機していた者と交代しろ!時間は30分だ、ゆっくり休め」
乙女騎士団は後ろに下がり腰をおろした。
「真冬はあれからあまり雷撃使ってないね?危なくなった場所の援護してたわね。」
「鼎とは違う 頭を使う」
「お姉ちゃんは、後先考え無さ過ぎだよ。常に全開だったよ。魔物は減ったけど…」
話をしているとスザンヌがやって来て鼎の隣に腰をおろした。
「あんた達と一緒だと面白いわ。別行動と言ってたけど他の冒険者も奮闘してるからこのまま一緒に居ることにしたよ。はははは」
「スザンヌさん達も凄かったですよ。風魔法を2人同時で放って合成魔法にしてましたよね。まるで嵐のようでしたよ」
「ああ、あれがあたし達の奥の手だ」
それから鼎達3人はスザンヌと休みながら話をしていた。真冬はビエラと言葉少ない会話?をしている。(言葉足らずと寡黙は気が合うみたいだ)
「おっ、街の方から何か飛んで来るぞ?」
近くに居た冒険者が何かを見つけたようだ。周りの冒険者達もその方角を見る。
「見つけた!鼎姉ちゃん、状況確認に来たよ」
そう声がすると目の前に昴が空から舞い降りて来た。
「昴!皆はどう?上手くやってる?」
「こっちは問題ないよ。親しい人達も教会に集まって待機してる」
「それなら安心ね。こっちの状況は説明するから戻ったら巧さんに言ってね。今はまだ大丈夫だけど戦闘はこれからだから気を抜かない様にね」
鼎は詳細に現状を説明した後、昴に教会に戻るよう言った。
「待て 昴」
飛翔で飛び立とうとした昴に真冬が声を掛けた。
「なに?真冬さん」
「レベル上げて行け 魔物に突っ込め」
「えぇぇ~、本気ですか真冬さん?」
「そうね、まだゴブリンが主体だから行けるわ。昴くんなら大丈夫。光の鎧と光剣で飛翔して突っ込めば問題ないわ。光の鎧は真冬ちゃんの雷撃にも耐えたしね」
「桜さんもですか…」
「昴、ごぉー!」
「鼎さんまで…はぁ、じゃあ行ってきます」
昴は飛び立ち魔物の群れに突っ込んで行った。
「おい!なんか全身光った男の子が飛んできて魔物の群れに突っ込んだぞ!」
「矢も魔法も魔物の攻撃も当たってるのに無傷みたいだぜ!」
「あの顔と容姿は、街の空き地でよくチャンバラしてた男の子に似てるぞ」
昴はある程度魔物を倒すと街に向けてそのまま去って行った。
「なんだありゃあ?まだ若い男の子だったよな。鼎達の仲間か?アイツもすげぇーな」
「はい、昴といいます。まだ11才なので冒険者じゃ無いだけで近接戦闘なら真冬の次ぐらいに強いですよ。戦闘経験は少ないですけど」
「ふふ、今日は驚いてばかりで面白いよ。おっと、そろそろ交代の時間だから行くよ」
乙女騎士団は腰をあげ戦闘準備に入った。
さあ、第2ラウンドの始まりだ。
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