第74話 幕間 バルバドス王国 スタンピード(5)

 冒険者ギルドに向かった乙女騎士団は街の防衛戦に加わる。他の転移者は大丈夫なのだろうか。


 鼎達が冒険者ギルドに向かったあと、巧達も動き始めていた。


「じゃあ、役割を再度説明します。政宗さんは真奈美さんを連れて定食屋に行ってください。そこで食材など必要と思うものを真奈美さんのアイテムボックスに入れてから、個別に別れて親しい人に教会に来るように説得して来てください。政宗さん食材の量はありますか?」


「ああ、仕入れしたばかりだから量はある。他適当に見繕って持ってくる」


「私も一応雑貨屋を見てくるわ」


「昴は菜々ちゃんと一緒に説得に行ってもらう。妹は守らないとな。その後は菜々ちゃんは教会で待機して魔物が侵入したら教会に結界を張ってくれ。昴は飛翔で街の状況を確認してくれ。連絡手段が無いから情報収集が難しい。昴が頼りだ」


 2人は理解したと頷いた。


「私と幸之助も知り合いを説得する為にここを出る。だからこの後に皆が集まるのは教会になる。幸之助は教会に着いたら魔力温存の為に基本待機だ」


 その後、各自で行動を開始した。


 昴は菜々と一緒に仲の良い友達や知り合いの家を渡り歩き説得をした。街は警鐘が間隔をあけて鳴り響いているので、大半の人はその状況を不安に感じ説得に応じてくれた。(応じない人は有無を言わさず菜々の魅了で教会に向かわせたけどね)


「お兄ちゃん、私が説得するのは次の場所で最後だよ」


 菜々がそう言って、やって来たのは孤児院であった。ここは以前に菜々が孤児達と色々あって菜々が逃げ出した経緯のある場所であった。(詳しくは菜々の幕間を見てね!)


 孤児院の中に入ると前回と同じく20人程の子供達が居た。スタンピードに備えて教会シスターの指示に従って1つの部屋で全員が待機しているようだ。


 孤児達は昴と菜々に気付いた。


「ん?この間の女の子じゃね?隣の兄ちゃんは知らんけど。おい、街は今危ないんだぞ、逃げて来たのか?」


 前回も話し掛けてきた男の子だ。


「あのね、もし魔物が街に入ってきたら危ないの。私はあなた達を守りたいの。だから教会に来て欲しい。あそこは安全な場所だから」


 菜々は説得出来るようにと願いを込めて話した。


 素性の知れない女の子と男の子がいきなり孤児院に入って来て話をするのだ。説得は難しいだろう。菜々は以前少しだけ交流しただけだ。相手の名前は知らないし名前を教えてもいない。駄目ならば結界を見せるか魅了を使うしかないと思っていた。


「判った。お前に付いていく。シスター、皆行くぞ」


「えっ、な、なんで?」


 菜々は男の子が言った言葉は聞こえたが、理解することは出来なかった。


「は?赤の他人でそれも孤児の俺達に、そんな真剣な顔して心配し、それもお願いと言われたんだ。行くだろそんなの?この間も急に居なくなったけど、あの時も俺達の事、心配してくれてたよな」


 名前も知らない男の子が菜々を見詰めながらそう言った。そして照れくさそうにこう言った。


  「 お前は小さな聖女様だな」


 菜々はその言葉を噛み締める様に目をつむり、静かに泣いていた。そして心の中で思った。


  ( 私、聖女になれたんだ… )


 菜々は、この世界に来てから聖女になることに憧れ努力をしてきた。まだ、の聖女でしかないが、この男の子は菜々に幸せをもたらしたのだった。


 孤児院の子供達を連れ出す時、孤児院長が腰を痛めて動けなくなっているのを菜々が見つけ、治癒魔法で治し孤児達に聖女扱いされたのは、そのすぐ後の事だった。


「菜々はこのまま教会に居て、巧さんが戻って来たら指示してもらうんだぞ」


 孤児達と菜々を教会に送り届けた昴は、1人で次の場所へ向かうのであった。


「飛翔!」


 鼎にスキル解禁された昴は飛翔で街を飛び目的地を目指す。場所はチャンバラ友達2人の家だ。


 着いたのはムスカの家だ。昴は玄関の前に来た。


「ムスカ、居るか!昴だ」


 暫くして出て来たのはムスカの母親だった。


「ああ、昴くん。いらっしゃい。街は慌ただしくなってきてるわね。今ね、プリシラがムスカを探しに行ってるの。ムスカは昴くんとタルタルくんの所に行くって出ていったキリなのよ。そのあと真奈美さんが来てね、教会の事、説明してくれたから避難の準備してる所なの。

 プリシラにお願いしたけどまた戻って来ないのよ」


 ムスカの母親と昴の母親は親しい仲であった。


「ムスカのお母さん、僕が探して連れ戻すから待っててください」


 そう言って昴は飛翔で飛び去った。


 昴はタルタルの家に行ってみたが帰ってきて無い。タルタルの家も政宗さんが説明に来たみたいで避難の準備をしていた。


 昴は次に3人の溜まり場の空き地へと向かった。


「いた!ムスカ、プリシラちゃん、タルタル!」


 ムスカとタルタルに何かを言っているプリシラちゃんが空き地に居た。


「「えっ、昴?」」


 プリシラに何か言われてる2人は、ちょうど昴が見える方向を向いていた。その2人の言葉を聞いてプリシラが振り返るが視線の先に居ないので小首を傾げるのであった。


 昴が空き地に降り立つと、ムスカとタルタルが鼻息荒く近寄って来た。(なんか怖いよ…)


「「す、昴は飛翔スキル使えるのか?!」」


 さっきから見事なハモリである。


「あぁ、黙っててごめんな…」


「「いや、気にすんな。それより昴すげーな!」」


 いや、お前らのハモリの方がすげーよ…


「昴くん… 私もお兄ちゃんとタルタルくんのハモリに混ざった方がいいのかなぁ?」


 いや、プリシラ…キミはマトモでいて欲しい…


「ちょうど今、お兄ちゃん達に昴くんのお母さん達が教会に避難する事を説明してたとこなんだよ」


「プリシラちゃん、助かる。ありがとね。皆の家ではもう避難の準備始めてるから早く戻ろう。あと数時間で街まで魔物が来る筈だから急ごう!」


 昴は3人を家まで送り届け教会に戻って来た。既に他の皆も戻って来ているようだ。


「巧さん、戻りました。説明するのも終わりましたから、これからどうしますか?」


「ああ、昴くんお帰り。戻ってすぐだが、ギルドの様子を見て来てくれないか?誰も状況を把握出来ていないんだ。大丈夫か?」


「大丈夫です。今から行ってきます!」


 昴は教会の入口まで戻り、飛び出して行った。


「 飛翔! 」

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