第70話 幕間 バルバドス王国 スタンピード(1)

 季節はもう夏になっていた。転移して5ヶ月。


 バルバドス王国の転移者10名は、安定した生活を送っている。


 巧と幸之助は、幸之助の転移を利用して鉱山に赴き、希少な鉱石を見つけては巧がアクセサリーなどを作製している。(その販売は真奈美さんだ)


 真奈美さんは、宗政さんと一緒に借家の近くに店を開いた。1階が政宗さんの店で定食屋、2階が真奈美さんの雑貨屋だ。まだ始めたばかりなので、これからが勝負だ。


 昴と菜々は相変わらずだ。乙女騎士団の4人も順調に依頼をこなしている。


 この皆が住む街アンデルの近くにはダンジョンがある。だから、この街は繁栄している。ただし、スタンピードという脅威を抱えて…


 スタンピードは森に比べてダンジョンで発生する割合が非常に高い。森で発生する場合は希少上位種が魔物を引き連れる場合のみである。その上位種の出現率は低い。


 ダンジョンの場合はダンジョンコアによる魔物の自然発生が原因である。ダンジョンコアは一定の時間が来ると魔物・鉱石・僅かな宝箱を産み出す。なのでその魔物を駆除しないとダンジョンから溢れスタンピードとなるのだ。


 ただ、その魔物の自然発生する頻度(時間)はそこまで早くない。また、ダンジョンは広大な為、溢れるには時間が掛かるのだ。溢れるその時間は冒険者の討伐具合にもよるが、約20年間隔となる。


 その20年目となるのが、皆が転移してきた今年であった。


 乙女騎士団は2日の休暇を経て、今日は討伐依頼を受ける為に冒険者ギルドにやって来た。


「今日はどれにしようかな?オーク討伐を進められるけど他がいいわよね。雫はどれがいい?」


「お姉ちゃん、私はボア系がいいです。真冬さんの雷撃で簡単に倒せるし、お肉の買い取りも割りといい買取価格になるから」


「そうね。精神的にも楽だからね。ボア系にするわ」


 鼎達は依頼を持って受付嬢のシルビアさんの所に向かった。


「シルビアさん、おはよう。今日はこれにするわ」


「ボアの討伐依頼ですね、判りました」


 シルビアさんは書類とタグを持って処理を行う。


「あと、ダンジョン組から魔物が異常に増えていると報告が来ています。下層から相当数の魔物が上がって来ているようです。通常は魔物が階層をまたぐことはあまり無いのでスタンピードの可能性が非常に高いです」


 シルビアさんの顔色が悪い。あまり寝てないのだろう。


「ここからダンジョンまでは徒歩で5時間は掛かります。ダンジョンには連絡用の魔道具を持つ見張りの職員が居ますので、もし発生した場合はすぐに連絡が来ます。その場合、街の警鐘が鳴りますのでギルドに来てください。鼎さん達はDランクなので後方支援の召集対象になります」


 鼎は3人の顔を見る。


 その3人の顔は不安を示していた。


 勿論、鼎も同じ顔をしていた。

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