第71話 幕間 バルバドス王国 スタンピード(2)

 スタンピードの可能性を知った乙女騎士団。


 鼎達はシルビアさんからスタンピードの話を聞いた。その4人の顔は不安気だ。 


「シルビアさん、ごめんなさい。依頼は取り消します。皆、ギルドを出るわよ」


 鼎はシルビアさんに深く頭を下げ、皆を強引に外に連れ出した。


「鼎 どうした?」


「今ならまだ他の皆は家に居るはず。家に戻って打ち合わせをするわ。スタンピードはいつ起こるか判らないから今すぐ帰るの」


「そうね、起きてからでは遅いわね。私も何か嫌な予感がするの。私達はもう死んでも地球に戻れるからとは言えなくなってるのよ。今が私達の全てなの。だから慎重になるべき」


「桜さん…私もそう思います。帰りましよう」


 4人は誰も口を開くことも無く家に向かって歩き始めた。


 各々おのおのが口を閉ざし考えながら歩いていて、もうすぐ家に到着すると思った直後、街に何かを追い立てるような鐘の音が鳴り響いた。


「えっ!これ警鐘よね。まさかスタンピードなの?さっき話を聞いたばかりなのよ。早すぎない?もうっ、皆走るわよ!」


 皆は走りながら話をする。


「お姉ちゃん、ギルドで情報集めた方がいいと思う。召集に応じる必要もあるし…」


「雫ちゃん、それは後でも出来るわ。優先は皆の意識統一をする事よ。ギルドに行くとそのまま戦闘に連れ出される可能性もあるわ」


「桜の言う通り 順番を間違えたら危ない」


 家はもう目の前だ。4人は飛び込むように家に入った。


「皆居る?!巧さん、昴、真奈美さん、皆返事して!」


 鼎は声を張り上げながら、皆が居ると思われる食堂に向かった。残りの3人も後ろを付いて来る。


 食堂に入ると残りの6人全員揃っており、向き合って話をしていた。


 全員居る事に安堵する鼎達。


「良かったわ、皆居るのね。この警鐘はスタンピード発生の合図なの!今から全員でこれからどうするか話をするわ。時間が限られてるから皆建前とか無しよ。本音で話してね。巧さんがリーダーなのに勝手に進めるけどごめんなさい!」


「いや、戦闘に関しては鼎達が上だ。このまま進めてくれればいい。鼎達はギルドに行くが俺達はどうすればいい?指示をくれ」


 鼎は皆の顔を一度見回す。そして話し始める。


「まず、私達に地球に戻る魂はもう無いわ。それは皆で話し合って出した結論だから私は全く後悔なんてしてないわ。皆もそうよね」


 皆からの視線は肯定している視線だ。鼎は話を続ける。


「この世界で生きる事を決めたのは私達。だから幸せになるのも私達。それが全てなの。だから皆で生きる、誰も欠けること無くね。いいわね」


「問題無い 私が全員守る」


「ふふ、真冬なら出来そうね。ただ、このスタンピードがどれ程かは判らないわ。だから最悪な状況を考えるの。この街に魔物が侵入して来たらどうする?皆の考えを聞かせて」


「鼎さん、真冬さん、雫ちゃんと私はこの後、ギルドに行って街の防衛に参加するわ。だから残りの人の意見ね。因みに貴方達が街に残る意思を示したら、街の防衛はするけど街が魔物に侵入されてもう駄目だと判断したら、その時点で貴方達の所に戻るわ。そして幸之助さんの転移でこの街を離れる。これは家に戻る道中で決めたわ。話す時間は短かったけど4人で決めた事よ。皆即決だったわ。」


 残りの6人は、どうするか考えている。昴と菜々は真奈美さんの顔を見ながら…


「ワシは残るぞ。お前達は大切な仲間だが、この街にもお前達と同じぐらい大切な友人か出来た。ただ、ワシには戦闘スキルは無いからこの街や友人達を助ける力が無い。魔物が侵入して危なくなったらワシは置いていけ。後悔はしない」


「私達も残るわ。魔物が侵入してもよ。だって宗政さんと同じだもの。この街に着て5ヶ月よ。短いようでも其なりに繋がりは出来るわ。昴や菜々にもね。昴と菜々もそう考えてるでしょ?母親だから判るわ。それに正直に言えば私達親子は地球の魂はまだ残ってるからね。死ぬのは怖いけど繋がりを失うのも怖いわ。だから置いて行ってもらっても大丈夫よ」


 昴と菜々は当たり前だと言うように頷いた。


「私は桜を残してこの街を離れることは無いかな。戦闘スキルは無いから魔物に侵入されたら反対に守って貰う必要はあるけどね。せめてレベルを上げておけばと後悔してるよ。でも、もし本当に魔物が侵入して危なくなったら幸之助に頼んで皆を街から転移させると思う。例え恨まれてもね」


「私は巧の考えに近いかな。危なくなれば街は捨てる。

 ただ、親しくなった街の人も合わせて転移する。だが、私もレベルを上げて無かったので転移の限界は早めに来ると思う。前に皆に手伝ってもらって転移の検証をしたよね。今現時点で転移する場所は、鉱山近くの町しか無いんだ。

 あと転移出来る人数は一度で行けるのは10人。転移出来る総人数は200人が限界だと思う。この街の人数は30,000人居るからどう考えても無理だけど、親しくなった人だけなら転移可能だ。他の事で魔力をつかわなければね」


 巧さんと幸之助さんの考えは他の皆と違う。だが、この考えが間違いなく正解だと鼎は思っている。(特に真奈美さん親子の考えは甘い…)


 鼎は幸之助さんに転移の話を最初にして貰うべきだったと後悔した。そうすれば皆の考え方も同じ方向性だったのではと…


 私は失敗した。


 鼎は考える。皆の気持ちは判った。だが、どうすればいい?何が一番皆の為になるのか?皆の親しくなった街の人達も一緒に転移すればそれで解決する事なのか?


 考えが纏まらず時間が過ぎていく…

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