第61話 夏希に迫るもの
突如現れた「黒く大きな闇」に数え切れない程の水刃を放った夏希。
夏希の放った水刃は全て「闇」に呑み込まれた。そしてその「闇」は何もなかった様にその場に居た。
これは非常に不味いな…
夏希の中では最大の攻撃力である無数の水刃を受けても「闇」には何も変化が無い。あとは物理攻撃が効くことを祈るばかりである。
腰紐からショートソードを抜き「闇」に向かって構える夏希。その剣を握る手は少し震えている。
夏希は剣を構えたまま考える。
(どうしよ~、絶対に剣の攻撃効かないよな…これ、ただのショートソードだよ?鉄製の安物だよ?もう土下座でもしようかな?案外これが一番いい手かもしれない…うん、そうしよう!)
こんな時でも絞まらない夏希である。
「お前は面白い事考えるのじゃな」
「闇」が話し掛けてきた。俺の考えが読めるみたいだな。これはチャンスだ!
「わ、私は食べても美味しくありません。ほ、ほら、見ての通り筋肉質で筋ばかりですよ。歯に筋が挟まって、なかなか取れなくなって「イィッ!」ってなってイライラしちゃいますよ。あ?歯は無いか…」
「闇」と夏希の間に静寂な時間が流れる。
「ぶほっ!」
笑った?
これだ!コイツの弱点は「お笑い」だ!俺の必殺のギャグ100連発をお見舞いしてやる!
夏希は気が動転していて何を言ってるのか判らない状態であった。
「ぶははは、ちょ、ちょっと待て、腹が痛いのじゃ」
やったぞ!クリティカルヒットだ!次の攻撃はどうする?1人漫才でもしてみるか?
夏希は混乱している。
「も、もう許してくれ…変なこと考えるな、ワレの負けなのじゃ」
夏希は混乱した状態で「闇」に勝ったのだった。
「ワレはお前を襲うつもりは無いのじゃ。ただ、お前が面白そうな存在だからちょっと見に来たのじゃ」
お、唐突に定番が訪れたぞ。これって「のじゃロリ」だよな?いや、「のじゃ」はあるが「ロリ」はまだ判らないぞ…ひょっとしたら女声のオッサンかもしれんしな。夏希、油断するなよ!
夏希はまだ混乱の真っ只中であった。
「ぶはっ!お前はアホか?正気に戻れ。状態異常無効のスキルを持ってるみたいだが効いてないのか?それともそれがお前の正気なのか?」
「因みにワレは女だぞ。それも凄まじく美しい美女なのじゃ。ふはははは」
「闇」は自信満々に話す。
そうなんだ。「ロリ」じゃ無いんだ。はぁ、定番が中途半端だな。一気にテンションダウンだな…
夏希はさっきまで死闘を覚悟していた事を、もう忘れていたのであった。
「それで、俺が面白そうって言ったけど何がそうなの?もしかして…オレのお笑いの真髄を見抜いたの?」
夏希はあと少し混乱が残っているみたいだ。
「ふふふ、まあ、お前は確かに面白いのじゃ。だが、それでは無いのじゃ」
「お前、魂が2つあるな?それも2つとも真っ黒じゃ。気になるのは当たり前なのじゃ」
夏希は魔力を高め、水刃の準備をし、「闇」に殺気を向ける。
「何故それが判る?お前はなんだ?」
「お前が魂を2つ持つ原因は天使じゃろ?ワレも天使じゃ。過去に、が付くがの」
夏希は少しだけ殺気を緩める。
「だから見えるのじゃ。お前の魂がな。」
「ワレは遥か昔、この森に堕ちてきた天使じゃ。それからずっとこの森でフラフラしとったのじゃ。眠った様に何も感じずにな。それがお前のその黒い魂の波動で目が覚めて興味を持ち、会いに来たのじゃ」
話の内容は理解した。だが、この「闇」は本当に天使だったのか?なら何故、天使の姿では無く「闇」なんだ?何があったんだ?
あと、俺を見に来たみたいだが話をしたいだけなのか?
「ワレは目が覚めてしまったのじゃ。そしてお前に興味を持ったのじゃ。だからしばらくお前に付いていくのじゃ。別に問題あるまい?」
いやいや、問題ありだよ。大問題だよ。こんな大きな黒くてモヤモヤしたのが俺を付きまとうの?
俺、暗黒のオーラを撒き散らしながら街を歩くの?俺は暗黒騎士とかになるの?(嫌だよ~)
「ぶふふ、そこは大丈夫じゃ。ワレはお前の影に入ることが出来る。そこでのんびりとお前を見る事にしたのじゃ」
え~、こんな訳の判らないヤツにずっと監視されながら生活するの?コイツはホントに天使だったのか?おい!考えてる事判るんだろ?さっきも同じ事考えたけど無視したよな。お前はホントに天使か?
「訳は話す気が向いたらじゃな。だがワレは本物の天使だった存在なのじゃ。神界から堕ちてきた天使」
「そう、堕ちてきた天使なのじゃ!」
いや、そのまま同じ事2回言っただけだよね…そこは「堕天使なのじゃ!」だよね。
「堕天使なのじゃ!」
はいはい、リトライね。
「うっさいのじゃ!とにかくこれは決定事項じゃ」
でもなぁ~、こんなモヤモヤした曇った天気の様なヤツが俺の影に入るのか?俺…常に湿った体にならないか?朝、お布団が湿ってて「お漏らししたの!」って間違われないか?俺…晴れの日が好きなんだよなぁ…
それにさ…「のじゃ」だよ。なかなか居ないよ。でもコイツ「ロリ」は無いんだよ?中途半端な定番真っ黒野郎だよ?モヤモヤだよ?
いや、俺は「ロリ」好きの「イエッス!ロリータなんちゃらかんちゃら!」属性じゃ無いからね。ただ、出来れば完璧なていば……」
「ごちゃごちゃとうっさいのじゃ!あー、もう判ったのじゃ。これでいいか?」
「闇」はそう言うと、「大きな黒い闇」から「小さな姿の幼女」に変わったのであった。
色は真っ黒のままじゃん……(シルエットは判るけど…)
まぁ、もうなんでもいいや。
夏希はこの世界に来て諦める事を覚えたのであった。
「では影に入る。ああ、1つだけ言っておくのじゃ。お前、その真っ黒い魂のままだとワレのようになるぞ。人間だがな」
そう言って、「闇」は夏希の影に沈んで行った。
最後に不吉な言葉を残して沈んでいった「闇」…
夏希はその場にしばらくの間、生温い風に吹かれていた。
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