第54話 幕間 カイルの思い

 俺は獣人村のネネの息子カイル8才だ。


 4ヶ月程前にこの村に人族がやって来た。名前は夏希兄ちゃんだ。


 父ちゃんと違って体格も普通で弱そうな感じだ。でもその夏希兄ちゃんは母ちゃんと一緒に狩りに出掛けたりしている。(ほんとは強いのかな?)


 夏希兄ちゃんは色々なお菓子を出してくれて俺達に優しい目をして分けてくれるんだ。何故かお金を受け取らず野菜を代わりに貰っている。(野菜大好きなのかな?)

そのお菓子は今まで食べたことが無い不思議な味と見た目でとても美味しい。(お気に入りはうま◯棒メンタイ味だ。ピリリとして美味しい。メンタイってなに?)


 最近はオモチャも出してくれて俺達は大興奮だ。特に水てっぽう(?)が大人気だ。(あれはスゴい!)指でなんか棒を引くと水が勢いよく出る。これは俺達の聖戦チャンバラに革新をもたらした。


 今、俺の密かなブームは[夏希兄ちゃんお尻濡れてるよ?]大作戦だ。

 俺は母ちゃん直伝の俊足と気配遮断のスキルを駆使して、夏希兄ちゃんに気が付かれない様に水てっぽうでズボンのお尻部分を濡らして逃げるのだ。なので夏希兄ちゃんのお尻はいつも湿っている。


 夏希兄ちゃんは村では子供から大人まで皆に気を掛けていて、遊んでくれたり仕事を手伝ったりしてくれる。そんな夏希兄ちゃんを村の皆は大好きだ。(母ちゃんも家でアイツはいい奴だ。ってよく言ってる)


 この間はフォレストウルフに襲われた俺達が病気になった時、薬を手に入れるために森の奥に1人で入って強い魔物をたくさん倒してきたんだ。


 夏希兄ちゃんは、とても強かったんだ!


 俺は大きくなったら冒険者になって強くなって父ちゃんみたいにこの村を守るといつも思ってた。それを目標にしていた。


 だから夏希兄ちゃんも凄いけどその思いは変わらなかった。(でも夏希兄ちゃんも2番目の目標だ)


 でもその思いは変わったんだ。


 俺は朝早く朝訓練の為、中央広場に向かっていたんだ。そしたらアンナの家から激しい音が聞こえたから気になって見に行ったんだ。


 そこにはラグさんと戦う夏希兄ちゃんがいた。


 その夏希兄ちゃんは凄かった。


 今までに見た事の無い厳しい表情で戦っていた。それも村で一番強いラグさんと互角の戦いをしてたんだ。


 そして夏希兄ちゃんは物凄い数の水刃の魔法を使ったんだ。(魔法を使えるんだ!!)


 最後はラグさんの木剣を切り飛ばして倒した。


 俺はこんなの見たこと無い!


 この出来事で思いは変わったんだ。


 俺は大きくなったら夏希兄ちゃんみたいになる!


 優しくてとても強くて皆から好かれる男に。


(父ちゃん、ごめんな…2番目に降格だ)

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