第53話 夏希は冒険者ギルドに行く

 トバルの街に着いて2日目の朝。寝ている夏希。


「ダダダダダダッ!」


 激しい足音が扉の外から聞こえてくる。夏希はウサギさんの布団に包まれながら、まだ夢の中でその音を感じていた。


「バタンッ!とうっ!」


 勢いよくドアが開いたと思うと掛け声がした。


「ぐはっ!」


 ウサギさんのお布団で夢の中の夏希の腹に衝撃が走った。(なんなの?痛いの!)


「おい兄ちゃん、いつまで寝てんだよ。メシだぞ。早く起きろよ。遅せーからオヤジに起こしに行けって言われてな!めんどくせー」


 現れたのは12才程の男の子だ。


「お、起きたな。早く降りてこいよ!」


 そう言うと、その男の子は出て行った。


 え?なんだったんだ…


 夏希は腹を擦りながらベッドから起きて、身なりを整え1階の食堂に向かった。カウンターに座ると先程の男の子が朝食を運んできた。


「ほら食え。美味しいぞ。母ちゃんのメシは!」


「え~と、キミはここの子供?サラさんの弟?」


「そうだぞ。朝だけ宿の手伝いしてるんだ」


 どことなくサラさんに似ている。


「ああ、俺は夏希だ。お姉さんの友人だ。宜しくな。朝のあの起こし方はもう勘弁してくれ」


「はははは、俺は冒険者だからな!結構威力あっただろ!オレはアスザックで10才だ」


 アスザックは赤く短い髪をした男の子だ。サラさんに少し似ている。(年の離れた姉弟だな)


「たしか冒険者は13才からでなかったか?」


「そうだよ。でもこの街の住民は、10才から冒険者見習いとして登録出来るんだ。魔物の討伐は出来ないけど、街中の依頼や街の外壁近くで安全な場所なら薬草採取が出来るんだ。森には入れないから薬草はあまり採れないけどな!」


「ギルドで講習会があって見習いはタダで教えて貰えるんだ。オレは剣士になるんだ。すごいだろ!」


 そうか。冒険者の下地作りの為の制度なんだろうな。


「兄ちゃんも冒険者か?」


「いや、今日ギルドに登録に行く。アスザックは俺の先輩になるな。宜しくな先輩」


 アスザックは先輩と呼ばれたのが嬉しかったのか、ニコニコしながら他の宿泊客の朝食を運びに行った。


 よし、朝食食べたらギルドに行くかな。


 夏希は朝食後、部屋に戻りショートソードを腰紐に挿し宿屋を出てギルドを目指した。


「まず、冒険者登録して依頼を受けるつもりだけど何をするかな?討伐は登録してすぐに出来るのか?無理なら森に入って薬草採取するかな。やった事無いけど」


 ギルドは宿屋から30分掛かる。屋台が開いていたので肉串を1本買って食べながら歩く。


 冒険者ギルドの前に着いた。


 夏希は思う。


 これってラノベで言う[初めての街]での冒険の始まりみたいだな。こう剣を振り上げて「ここから俺の冒険が始まる!」なんてやつで、ギルドでは可愛い受付嬢が居て、ステータスで驚かれて、先輩冒険者に絡まれて、訓練場で無双して驚かれて、ハゲ筋肉のギルド長に呼ばれて、薬草たくさん持ち帰って驚かれて、アイテムボックスから上位魔物の取り出して驚かれて、そのアイテムボックスの容量にも職員が驚いて…


「驚かれてばっかりだな!」


 夏希はギルド前で妄想に浸り、ハイテンションモードになっていくのであった。


「いざ行かん!俺の栄光ある冒険が今始まる!」


 既にスーパーハイテンションモードだった。

 

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