第51話 トバルの街を散策

 今回で3回目となるトバルの街に着いた夏希。


 トバルの街は獣人村から馬車で3日の距離にある。人口は約20,000人で獣人等も居るが人族が主体の街である。(中規模位の街かな)


 この街は一般区域と上流層区域に区分されており、一般区域は木造と土壁の家が混在し北側にはスラムもある。道路は土のままだが踏み固められている。

 下水道があり嫌な匂いはしない。(雑多な感じの街だが私はこの雰囲気は好きだな)


 上流層区域は整理された綺麗な街並みらしい。高くはないが壁で区分されているので見えない。(まぁ、行くことは無いけどな)


 この街の特徴は特に無い。ただ、ここはアスディール帝国内だ。人種差別がある。首都から離れている為なのかそれ程酷くは無いみたいだが、上流層区域では奴隷の獣人も見受けられるらしい。一般区域では見かけない。普通に生活している獣人も居るし冒険者も居る。


 さて、ご飯を食べに行こう。


 この街は3回目だが過去2回はギルドと宿屋を往復するぐらいであまり出歩いてなかった。(武器屋には行ったけど手持ちのお金が貧しいから宿屋で寝てた)


 夏希は良さそうな定食屋がないかとキョロキョロと周りを見ながら歩いている。


「お!ここ良さそうだな。俺の心のレーダーにビンビン反応するぞ!」


 夏希は一軒の定食屋の前で足を止めた。(あ!話し方だけど[私]から[俺]の言い方に変えたからね)


 目の前の定食屋は木造2階建てで1階がお店だ。大きさはコンビニ位かな。木板に極太の文字で屋号が書かれている。


  [ 頑固オヤジの定食屋 ]


「この屋号は俺の心を揺さぶるな!」


 夏希の感性は少しだけズレていた。


 定食屋に入る夏希。中は4人掛けのテーブルが4つとカウンターがある。お客は16人は居るな。(なかなか繁盛しているみたいだ。この店は当たりだな)


 カウンターに座る夏希。壁に30以上の木札が掛かっている。(これは結構な品数だな。楽しみだ)


 メニューを見る夏希。 


 [ 頑固オヤジの定食(大) ]


 これ以外は店主が書いたと思われる名言集の木札であった。


「うわ、こう来たか!やられた~」


 夏希は額に手を当て、何故か大喜びだ。


 夏希の感性はズレていた。


 調理場から恰幅のいい30代後半に見える女性が、お盆に定食を載せて出てくる。


「はいよ!お待たせ。たんと食べな!ご飯のお代わりは3杯までだよ!」


 夏希が店に入って約20秒。注文もしていない。


「はぁ、即出しとは追い討ち掛けられた~。また、このご飯の量見てよ!お代わり出来ないよ~」


 何故か夏希は大喜びだ。


 夏希の感性は盛大にズレていた。


 定食は山盛りの唐揚げと山盛りのサラダと溢れんばかりのスープである。(凄い量だな。お客がデカイ冒険者ばっかりだもんな)


 定食の量に唖然としていると、息子と思われる10才位の男の子が特大のエールジョッキに入れた果実水を運んできた。(これもデカイのね…)


 唐揚げは生姜とニンニクの下味が十分染み込んでおり、中はジューシーで外はカリッとしていて旨い。サラダにはレモン主体のドレッシングが掛かっていてアッサリとしてこれまた旨い。極めつけはこのスープだ。何も入っていない透き通る琥珀色のスープで、飲むと複雑な深い味わいがする。


 さすが頑固オヤジの定食である。夏希はガツガツと定食を食べるのであった。


「ふぅ~。流石に食べすぎたな。でも旨かった。この旨い定食作った頑固オヤジ見てみたいな」


 夏希がカウンターから身を乗り出して調理場を覗き込むと、そこには30代前半に見える細っそい小さな男が唐揚げを揚げていた。


「ほぁー、これまた期待を裏切る攻撃だな!」


 夏希はもう大満足だ。


「オヤジ!旨かった。必ずまた来る!」


 そう言って夏希は代金の銅貨8枚をカウンターに置いて定食屋を後にした。


「お代はちゃんと支払い場で払いな!」


 と、恰幅のいい女性に怒鳴られ、店内に戻り謝りながら支払いをする夏希であった。


 締まらない夏希である。

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