第45話 天使カルレスとの邂逅

 全てを投げ捨てる覚悟の夏希。


 その思いは天使カルレスに通じるのか。


 夏希と天使カルレスは向かい合って座っている。

 時間が停止した空間で天使カルレスは机と椅子を虚空こくうから取り出したのであった。


「それでどうしたいの?」


みんなを助けて欲しい。代償は私の全てで構わない。お願いだ頼む」


 天使カルレスは机の上に出した紅茶を一口飲んだ後話し始めた。


「あのね。天使や神は命を奪う事は出来ないの。だから全てと言って命を差し出されても無理よ」


「なら何を差し出せばいいんだ?」


 カルレスは、夏希を見て微笑む。


「貴方、この世界に来て変わったわよね。そんなに感情を表に出す性格じゃあ無かった」


 その通りだ。私は元々は温厚な性格で口調も丁寧なほうであった。多分に社会の重圧から解放されたからだろう。そしてこの世界で出逢った人達との関係で。


「私はその貴方が素敵だと思うわ。天使が好むタイプに変わってきてるの」


「だから前にも言ったボーナスをあげてもよかったわ。今は駄目だけど。」


 どうゆう事だ?カルレスの言ってる意味が理解出来ない…


「まず助かるかどうかだけど助かる人もいる」


 その言葉に夏希は歓喜する。


「本当か!カルレス頼む。みんなを助けてくれ」


「んー、まずは今回の経緯を説明してあげるわ。貴方、全員消したから聞く相手居ないでしょ」


 カルレスは説明する。


 1.この森の街道で出没が確認されていた盗賊が犯人

 2.目的は金品のみ(人質はリスクが高い為敬遠した。)

 3.女性はなぐさみ物で捕える予定だったが抵抗が強く断念


 簡単にまとめすぎだが詳しい状況を聞く勇気はまだ無い。


 4.助かる可能性が高いのは、サラさん.ハザス夫婦.アンリちゃんの4人


 冒険者4人組はサラを残りの3人がかばい、夫婦はマドリさんと執事がかばい、アンリちゃんはメイドがかばっていたらしい。


「あと、助かると言ってもポーションじゃ無理よ。ほぼ死んでるから」


 4人は魂が不安定な状態らしい。マドリさんは年齢の関係でもう無理で、その他は代償が大きくなるそうだ。


「結局、代償は何を払えばいいんだ?」


「勿論、魂よ。4人は各1人分の魂で、あとの人は各2人分の魂が必要になるわ」


「それって死ぬ事とは違うのか?」


「死ぬわよ。当たり前じゃない」


 はぁ?意味わかんねーよ。命を奪う事は出来ないのでは無かったのか?


「貴方は今2つの魂を持ってる事になってるの。地球とこの世界のね。だから1つなら大丈夫死なないわ」


「ただ、この世界の魂は無理。地球の魂が代償になるわ。そうするともう地球に戻れなくなる。この世界で死んだらそれで終わりになるわね」


 そう言う事か!なら私の魂1つ差し出せばアンリちゃんは助かるんだな!地球に戻れなくても問題ない。この世界で生きると決めたからな。


「じゃあ、私の魂1つ差し出すからアンリちゃんを生き返らせてくれ」


「言ったじゃない。今の貴方は駄目だって」


「何故だ!訳が判らん」


「貴方、一度心が壊れたわ。今の貴方の魂はとても冷たくて真っ黒なの。そんな魂は代償とならないの」


 夏希は絶望に捕らわれる。


「じゃあ、アンリちゃんはもう助からないのか……」


「あるじゃない。まだ10個も綺麗な魂が」


 天使カルレスはそう言って微笑んだ。まるで悪魔のように……


 私は選択をする事になるだろう。苦悩の選択を。

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