第42話 もう1つの出逢い

 マドリさん家族との楽しい団欒だんらんを終えた夏希。


 今はまだ深くはない時間の夜。夏希はミルクティーの入ったポットとチョコレートを持って、焚き火の傍に座っている男女の冒険者のもとへ向かう。


「お疲れ様です。お茶持ってきたのでひと息入れてください」


 夏希が差し出したミルクティーを受け取ったのは、ランブルと魔法使いの女性だった。


「ああ、夏希さんありがとう。紹介するよ。隣の女性は魔法使いのサラだ。一応、俺の彼女だな」


「一応とは何よ…街に戻ったら結婚してくれるんでしょ?ふふふ、照れてるのかなぁ?」


 ランブルは大きな図体で顔を真っ赤にしていた。


「そうなんですか!おめでとうございます。あ、これお祝いのお菓子です」


 そう言ってチョコレートを2人に渡した。


「お、見た目は変わってるが旨いなこれ!」


「ほんとね。甘いだけでなくて少し苦味がある。いくらでも食べれそうね」


 サラはランブルのチョコレートも奪い取って美味しそうに食べている。


 私はそっと追加のチョコレートをランブルに渡す。


「ランブルさんとサラさんは結婚しても冒険者を続けるんですか?」


「いや実はサラは妊娠しててな。今回も街に残るように言ったが付いて来たんだ。この護衛依頼が終わったらサラの実家の宿屋を継ぐ予定なんだ」


「ふふ、まだ妊娠して間もないから大丈夫よ。稼いで赤ちゃんに可愛い服買うんだもーん」


 もう2人はラブラブだ。(うらやまけしからん)


「夏希、宿屋はお前が向かっているトバルの街にある。俺たちは依頼でその先の街まで行くからトバルに戻るのは一週間後だ。良かったら街に滞在中は泊まらないか。小さい宿だが綺麗で飯も上手いぞ。俺かサラの名前出しとけばいいから」


 そうだな仲良くなったし面白そうだ。(ネットで赤ちゃん用品でも見てみるか)


「ああ、必ずお邪魔するよ」


「お客さま1名ごあんなーい。これで赤ちゃんの服が1枚増えるわ。ふふふふ」


 3人は笑い合った。


 それから2人の事、仲間の事、家族の事、色々話をして私は小屋に戻り眠りについた。(昨日から寝てないしな!)


 翌朝、マドリさん達は街に向かって出発した。

 私も一緒にと進められたが断った。

 その時に娘のアンリちゃんが泣いてしまったので、チョコレートをあげて慰めるという小さな一幕があった。(クッキーやリボンあげたから懐かれたかな?)


 私もその後すぐに出発した。旅っていいね!(楽しい出逢いがいっぱいだ!)


 私はスキップで隅田川を歌いながら道を進む。(は~るの~うら~ら~の~ウララララッ!)


 3日目道中未だ敵なし!俺が恐いのか!ははははは!


 幸せの夏希。錯乱さくらん中である。(状態異常無効も効かぬ!)


 しばらくすると、景色が草原から深い森の街道に変わった。


「ここからは視界が悪くなるから要注意だな」


 夏希は通常モードに戻った。


 森の街道は両側に大きな木が並んでいるが上は開けているので多少薄暗いくらいだ。今のところ魔物の気配は無い。街まであと半分を切った。


 街に行ったらまずランブルさんの宿に行こうかな。サラさんの両親が経営してるんだったな。両親も嬉しいだろうな。初孫だって言ってたから。 


 楽しく会話するランブル夫婦とサラの両親を想像して夏希も嬉しくなり微笑みが出る。


「ん?何か居るな… 」


 まだ先になるが人が集まってるみたいだ。夏希は慎重に近づいていく。


 良く見える距離まで来ると夏希は立ち止まった。

 その夏希の顔は真っ青になり体は震えていた。


 目の前に広がる光景は…


 馬車の車輪は外れ馬はもう居ない。

 馬車から離れた場所には4人の冒険者と装備が小汚ない男が10人は倒れている。

 馬車の近くには初老の男と若い夫婦が倒れている。

 またそれをかばうように男が倒れている。

 見る限り生きてはいないようだ。

 私は恐る恐る周りを見渡す。

 馬車から少し離れた場所に少女と女性が倒れている。

 少女は血だまりの中だ。

 辺りには私があげたリボンが散乱している。


 心が壊れて行く…


 剣を持つ小汚ない男達が私に向かって何か言っている。


 私にはその男達の言葉はもう理解出来ていない。


 無残な姿となった少女だけを見つめ続ける。


 私はなにも言わない。何も感じない。


 私は無数に居るその何かに視線を向けた。


 私は無言のまま頭上に数え切れない水刃を浮かべる。


 その数は数千。いや、万に届くだろう。


 私はその水刃を全て放った。


 もう1つの出逢い。


 それは夏希にとても冷たい何かを与えてくれた。

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