第48話 ギャンベリック卿の対策
僕は鉄道模型を作り直して、ボーバンにことの経緯を話した。
「ほぉ……。こんなもんが物資を運ぶのか? 小さすぎやせんかい?」
「これは150分の1だからな。実際の機関車はもっと大きいさ」
「ふーーむ。これが魔力を原動力に動くのか……。流石はアリアスだな。斬新なもんを考えつく」
「この魔法鉄道を、ロントモアーズとジルベスタルの両国間で設置したいんだ。そうすれば1日で往復が可能だ」
「なんと!? あんな遠い距離を日帰りできるのか!?」
「にゃはは! ドイツンベールでは当たり前の技術だよ。凄く便利なんだから」
「ド、ドイツン……? どこの国だ?」
「にゃはは。おじさん、何も知らないんだねぇ。ドイツンベールはヨロピアン大陸にある国だよ」
「ヨロピアンといえばオーゴットの隣りか。随分遠くの国のことを知っておるのだなぁ」
「にゃは。ヤミン偉い?」
「うむ。賢いな。スルメをやろう」
「わーーい。お兄ちゃん! おじさんからスルメもらったーー!」
問題は、この魔法鉄道をギャンベリック卿にどう理解してもらうかなんだよな。
「環境大臣は魔法鉄道に否定的だ。彼に提案したら門前払いを食らった。未知の知識に警戒したのかもしれんな」
「うーーむ。奴のことだからな。手柄を横取りされると思ったんじゃないだろうか?」
「横取り?」
「上昇志向の強い人間だからな。アリアスが魔法鉄道を開設してしまっては、国王からの評価が高くなるだろ? 他人の出世は望まないのさ」
やれやれ。
「僕は両国同盟が済めばお役御免なんだ。ギャンベリック卿はそれを知らないのか……」
「奴の本心はわからんがな。国の発展より、自分の利益を重視しているのは間違いないさ」
なるほど。
見えたぞ。
「つまり、彼にもメリットがあれば、この話は通るんだな」
「そういうことだな」
「ありがとう! 助かったよ!」
「なんの。いつでも相談に乗るぞい」
部屋から出ると、訓練場から大きな声が聞こえてきた。
「「「アーシャーのようにぃいいいいいいッ!!」」」
随分、気合いが入っている。
「やれやれ……」
と、困った顔をしたのはボーバンだった。
「あいつら、お前が来てるから張り切っておるのだ」
「ははは。僕の人気なんて一過性だよ。少しばかし新聞に載ったから有名になっただけさ」
「いやぁ、そうでもないぞ。兵団内ではお前のことアーシャーのように慕う人間が大勢いるんだ。自分の部屋にお前のポスターを貼ってる者が大勢いる」
うーーん。
僕はそんなに偉い人間ではないからな。
複雑な気分だな。
そういえば、
「あの号令を掛けてるの、ビクターだよな?」
「ああ、奴は出世したんだ。俺が推薦して副兵長に昇進させた」
「へぇ。やるな」
「この前の性能比較テストで活躍したろ? お前だって国王に褒美を出すように掛け合ってくれた」
「あれは彼だけじゃないさ。第四兵団みんなにさ」
「ふふふ。まぁ、それがきっかけでビクターの活躍が目立ってな。みんなの人望も厚いし、副兵長になってもらったのさ。おかげでこっちは大助かりだ」
彼は兵団内で最低魔力保持者だ。
そんな人間が出世できるなんてな。
ボーバンがいい環境を作っているんだな。
「全部、お前のおかげさ。アリアス」
「え? 僕は関係ないよ。ビクターが頑張ったからだろ?」
「お前がファイヤーボールの設計を見直してくれたから、奴は出世できたのさ。お前がいなければ、奴は兵士にさえもなれておらんよ」
なるほど。
「僕も少しは役に立っているみたいだな」
「その謙遜は嫌味だぞ」
「ふふふ」
僕が出口に近づくと、兵団のみんなは手を振った。
「アリアスさーーん! また来てくださいねーー!」
「俺の名前覚えといてくださーーい!」
「私もーーーー!」
「ぼ、僕もお願いしますーーーー!!」
ボーバンは苦笑した。
「バカ者どもよな。一目会っただけで名前なんて覚えられるもんかい。俺だって全員の名前を覚えるのに半年はかかったんだぞ」
ふふふ。
僕を見くびるなよ。
「安心しろーー! みんなの名前は覚えたから! マイカル、ショーン、ゴンザーー!」
「は!? おいおい、マジか? さっき、自己紹介されたばかりだろ?」
「ふふん。僕の記憶力を甘く見ないでくれ」
そう言って、1人ずつ指を差してやった。
「サッカ、バスケル、トト、アルデン、イグナシオ──」
名前を呼ばれた兵士たちは飛び跳ねて喜んだ。
「みんな覚えてるからなーー!! 訓練がんばってーー!!」
「「「 ありがとうございますッ!! 」」」
ボーバンは呆れていた。
「お前の頭はどうなっておるのだ……? まったく凄すぎるわい」
僕が魔車に乗り込むと、ボーバンは不安げな表情を見せた。
「アリアス……。ギャンベリックは危険な奴だぞ。良くない噂をチラホラと聞くしな」
「そう言われてもやるしかないさ。それに、案外楽しいんだ外交官の仕事」
「遊び感覚かよ」
「フフフ。その方が人生楽しいさ」
「まったく、しょうのない奴だ」
「助かったよ」
「気をつけろよ」
「ああ、ありがとう」
「おじさん、またねーー! バイビー!」
僕たちは研究所に帰った。
さて、ギャンベリック卿にとってのメリットはなんだろうか?
簡単なのは金だろうな。
大金を渡せば協力はしてくれるだろうが、問題はその額。
ギルドに精通している彼ならば、その繋がりから相当な裏金を手にしているだろう。そんな人間が満足する額といえば……。
ま、億は必要だろうなぁ。
ちなみに100コズンはリンゴ1個が買える価値。
平均した成人男性の月額の給料は20万コズン。
所長の僕でも手取り40万コズンだからな。
億を手にするのは簡単じゃないぞ。
「大金を得れる方法……か」
「どうされたんです、所長?」
「んーーちょっとね。そういえば、研究所の預金額はいくらくらいになってるかな?」
「そうですね。順当に貯まっていますので、5千万くらいはあるでしょうか?」
5千万か……。
この金をギャンベリック卿に渡すわけにもいかないしな。
元手にして増やすにしても、何をしていいのやら。
うーーん、
「煮詰まった」
「お兄ちゃんシチューでも作ってたの?」
「明日はレールを敷く下見に行くよ。ヤミンも来てくれると助かる」
「ほえ? あの意地悪大臣の許可が取れてないじゃん。いいの?」
「見るだけだからな。造設の計画が立ち上がったわけじゃないさ」
「じゃあ、お散歩デートだ! ヤミンはお兄ちゃんと一緒ならどこへだって行くよ! 明日楽しみだね。ニヘヘ」
やれることを進めながら、策を練ろうか。
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