第46話 新しい所員と上司? 【敵登場】

 ヤミンの採用試験が始まった。


「ヤミンは魔力関数が解けるかい?」


「勿論だい。流動魔力方程式だってできるよ。にゃは」


「では、この答えがわかるか? 3X=82179×2π……」


 と、数式の羅列を組んでみる。


 新人設計士なら30分はかかる計算だろう。


 しかも、紙に書かないとわからない。


 少々、難しいかもしれないが、自分を天才だと豪語する子だからな。


 それが、どれほどのものか見てやろう。


「ちょっと待ってねぇ……。えーーと、ここがこうだから、あ、ここが引っ掛けか……。ここはパズル要素になってんだな。ふむふむ……」


 ほぉ。空に数式を書いて計算してるのか。

 

 僕と同じタイプだな。


「あ! わかった! X=3325だ!」


 早い。5分もかかってないぞ。


「うむ。正解だ」


「にゃへへ……。お兄ちゃん、面白い問題作るね」


「では、魔力元素記号はどこまで覚えている?」


「256個! 全部暗記してるよ」


 ふむ。


「では、魔方程式と流動魔力元素式の応用はわかるか?」


「え? お、応用?? そんなの応用できるの? 汎用性がない式だよ。2つの式は独立してるから接点がないのだ。答えは不可能! 引っ掛け問題好きだね。にゃはは」


 ふむ。

 どうやらヤミンの知識はここまでのようだな。


 この応用式はラジソンが発明したファイヤーダガーのやり方なんだ。

 少々、難度が高過ぎたが、彼女の学力は把握できたぞ。


「惜しいな」


「あ、あれ!? ヤミン間違えたかな?? 『君も魔法設計士になれる!』って本は読破したんだけど?」


 設計士の試験で使う参考書だな。


 どうやら、初歩的な設計知識は網羅しているようだ。


「ふみぃ……。や、やっぱり不採用?」


「いや。十分、合格だ。今日から研究所員だよ」


「イヤッターーーー!!」


ガバッ!!


「だから、抱きつくなというのに」


 僕は彼女を魔車に乗せて研究所に戻ることにした。


 まずは、みんなにヤミンを紹介しないとな。


「うはぁあああ!! ヤミン、こんな車、乗ったことない!! お兄ちゃん凄い!!」



ギュゥウウウウウウウン!



ーージルベスタル魔法研究所ーー

 

「し、新入所員……。ですか?」


 と、目を丸くしたのはララである。


 おヨネさんは、自分の孫のように頭を撫でていた。


「ほほほ。ヤミンちゃんは可愛いねぇ」


「お婆ちゃん好きーー」


「飴ちゃんあげようね」


「うはぁ! ありがとう。やったーー!」


 彼女は僕に抱きついた。


「にゃははーー! お兄ちゃん、飴貰ったーー」


 ララは汗を垂らす。


「あのぉ〜〜。ヤミンさんは年齢に反して随分と幼いように感じるのですがぁ?」


 無理もない。

 僕も初めはそうだった。


「ララ。僕の仕事はどれだけあるかな?」


「結構溜まっていますね。所長は外交の仕事と兼任されていますから」


「よし。彼女にやってもらおう」


「え!?」


 ヤミンの前には書類の山が置かれる。

 そこに書かれた複雑な計算式を見て満面の笑みを見せた。


「にゃはははーー! 楽しいーーーー!!」


スラスラスラスラーーーーーーーー!!


「できたーーーー」


「えええええええええええ!? そ、そんな! 子供にこんな難しい計算が……。あ、合ってます!! 全部合ってますよーーーー!!」


 うむ。

 活躍してくれそうだな。


「よし。ヤミン。外に出よう」


「ほえ?」


 僕は魔法陣を描いた。


「それ何? 建築魔法ビルドの魔法陣に似てるけど、見たことない」


「オリジナルのビルドさ」


「はぇ〜〜。お兄ちゃん凄すぎぃ」


「ヤミンは魔法陣の真ん中に立ってくれ」


「何するの?」


「鉄道を再現する」


 大きさは手乗りサイズがベストだな。


 150分の1でいこう。


「頭に鉄道を想像してくれ」


「うん! やってみる」


「ビルド!」



ギュゥウウウウウウウウウウウンッ!!



 発光する魔法陣。


 周囲の砂が集まって、小さな機関車を作った。


 鉄のレールと収納小屋もある。


「うは! 駅まで再現されてるよ! お兄ちゃん凄い!」


 ほぉ……。

 この小屋……。駅というのか。


「ヤミンは鉄道の知識をどこで知ったんだ?」


「昔、住んでた国で知ったよ」


「君はジルベスタルの生まれじゃないのかい?」


「生まれはヒャッコイ。そこから転々と、いくつも国を引越ししてるの。お爺ちゃんが古物商でね。その関係で色んな国に住んだんだ」


「ほぉ。それは忙しいな」


「にゃはは。でも、そのおかげで色々な国の図書館で本を読めるから楽しいよ」


「じゃあ、その引っ越した先で鉄道の知識を知ったのか」


「うん。ドイツンベールって国では今でも蒸気機関車が動いているよ」


 ドイツンベールは遠いな。

 遥か東の大陸にある国だ。


「この模型よくできてるねーー。蒸気機関車そっくりーー!」


「んーー。ちょっと違うかな」


 風の魔法をほんの少し与えると……。


シュポ、シュポ、シュポ……。


「うわ! 動き出した!! 石炭もビルドで作れるの?」


「材質の変化は無理だな。それは砂を固めて作ってあるから」


「じゃあ、どうやって動いているの?」


「魔力で可動するんだ」


「あ! 凄い! さっきの魔車と原理は一緒だぁ。でも不思議。私は蒸気機関車を想像したんだけど?」


「君の思考に僕のアイデアをプラスしてビルドで形成したんだよ」


「ふはーーーー! そんなことまでできるんだぁ……」


「応用ってやつだな」


「うう……。全然わからない。お兄ちゃん凄すぎぃ……」


 ララが僕たちに呼びかける。


「おヨネさんがお茶を入れてくれました。少し休憩しましょう」


 そこに騎士団長のカルナもやって来た。

 研究所は随分と賑やかである。


「うはーーーー!! カルナちゃんだーーーー!!」


 ヤミンは、彼女の出した曲『恋のジルベスタル』が大好きだった。


「ちょ、ちょっとヤミン! 変な所さわらないで!」


「うへへ……。カルナちゃん、おっぱい大きい……モミモミ」


「ちょ、やめなさいよね! アリアス助けてぇ!」


 勘弁してくれ。

 とても直視できる状況ではない。


 カルナはなんとかヤミンを引き剥がした。


「んもう! ……それにしても、こんな子供が研究所の役に立つの?」


「それがですねカルナさん。ヤミンさんは凄いんですよ。私でもできない設計式をスラスラと解いてしまわれるのでるから」


「へぇ〜〜。この子がねぇ」


「にゃははは! このタルト甘くて美味しいーー!! にゃはは!」


「私が雑用係りになってしまいそうです。うう」


 いや、そんなことはない。


「ララはこの研究所の要だよ。君がいないと上手く運用しないさ」


「そうでしょうか? ヤミンさんが優秀すぎて私なんか……って、うわーー! ヤミンさん! 足広げ過ぎです!! パンツが見えますよ!!」


「にゃははははーーーー!!」


 うむ。

 ララとヤミンはバランスが良さそうだな。


「ヤミンは常識に欠ける所がある。ララが、彼女のそんな部分をフォローしてくれると助かるよ」


「ハハハ。なんだかお母さんになった気分ですね」


 よし。

 ことは上手く進んでいるようだな。


 では、


「この鉄道模型を王室に提出してくるよ」


「あ、はい。お気をつけて……。って、あん!」


「にゃはは……。ララお姉ちゃんもおっぱい大きいにゃぁあ……。モミモミ」


「こ、こらぁあ……! ア、アリアスさん助けてぇええええ!」


 やれやれ。

 とても直視できん。


「じゃあ僕は行くから」


「ほぇ? どこ行くの?」


「お し ろ」


「お城ーーーーー!! ヤミンも行くぅううううう!! お城行きたいーーーー!!」


 仕方ない。

 ごねられても厄介だな。


 それに、新人育成を兼ねるのも悪くないか。


「僕の言うことを聞くか?」


「はい。所長!」


「胸の大きい人を見てもモミモミしないか?」


「はい! 善処します!」


 やれやれ。


「よし、行こう」


「にゃはーー! お兄ちゃん大好きーー!!」



ーージルベスタル城ーー


 僕たちが通されたのは環境大臣の部屋である。


 豪華な椅子に、1人の男が座る。


 綺麗なスーツの裾から覗かせた手首は、小枝のように細い。


 男は丸渕眼鏡を掛けており、レンズの奥から、鋭い視線を覗かせた。


「オババは先日、辞任しましてね。ま、形だけの環境大臣でしたから、今とさほど変わりませんがね。今は正式に国王の相談役という形になっていますよ」


 ほぉ。

 この男が新しい環境大臣か。


 つまり、ジルベスタル魔法研究所の最高責任者だ。


「私の名前はギャンベリック・ジャイオン。形式上はあなたの上司に当たりますね。アリアス所長」


 嫌な空気を醸し出す男だ……。


 しかし、鉄道のアイデアは環境省の管轄。


 この男の許可が必要なんだ。


「ほぉ……。鉄道というのですか、この模型は?」


「そうです。レールを敷いて、両国に駅を設けます。そこで魔力機関車を走らせて運用するのです」


「はぁ……」


 と、目を細めたかと思うと、


 手に持った模型を地面に打ちつけた。


ガシャンッ!!


 バラバラに破壊された模型を、気にも止めずに言い放つ。







「くだらない。却下です」







 やれやれ。

 とんでもない奴が上司になったな。

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