第45話 運搬方法と天才美少女

 さて、ようやく運搬方法を考えることができるぞ。


 ここジルベスタルとロントモアーズとを日帰りできる方法は、どうすれば可能だろうか?


 その距離、徒歩なら3日。馬なら丸1日かかる。


 単純に考えて、重要なのは速さだろうな。


 そうなると、思いつくのが魔車なんだ。


ボンッ!


 と亜空間から魔車を出現させた。


 これは馬の代わりに大きな車輪が付いている。


 それを魔力によって可動させ、推進力を得るんだ。


 単純にこれを量産するのが手っ取り早い気がするがな。


 しかし、問題点は多い。


 特に、この車輪を動かす魔力の設計だ。


 主に、風魔法を改良したものだが、その魔力調整が難しいんだよな。


 魔力量を間違えれば大事故だ。


 そうなると腕の良い魔法使いだが、荷物を運搬するのに、高名な魔法使いを使うことなどできないだろう。


 それに、御者を生業とする者に魔法を習得させることも難しい。


「却下だな」


 煮詰まった。


 早々、良いアイデアなど浮かぶはずもないか。


 悩んだ時は先人の力を借りる。これに限るな。


 要するに読書だ。


 本から知識を得るのがもっとも手っ取り早い。


 僕は魔車を走らせて、図書館に向かった。




ーージルベスタル王立図書館ーー


 ここは300年の歴史を持つ巨大な図書館だ。


 特に重要な歴史書は特別な場所に保管されていて、一般人は立ち入り禁止。


 ふふふ。以前の僕なら入れなかった場所だがな。


 今は入れるのだ!


 僕は外交官。


 だから、この図書館にある全ての本を読むことが可能なのである。


 先人の知識を読み漁るぞーー!


 ちなみに、研究所に保管されている魔法暦書は、呪怪本という扱いで、正体が不明すぎて図書館では管理できない本となっている。


 王室は呪われるのを恐れたようだな。


 無論、魔法暦書は安全な代物だ。


 それどころか古代知識の宝庫。本当に無知とは罪深い。


 さて、話がそれたが、早速、本を読もうか。


 僕は本棚から手当たり次第に本を取り出した。


 知りたいのは歴史、地形と移動手段だな。


 図書管理官は眉を寄せる。


「そ、そんなに読めるんですか?」


「勿論です」


 テーブルに山積みされた貴重な本は僕の姿を隠した。


 フハーー。


 最高の時間だなぁ……。


 魔法暦書と比べたら普通の文字なんてスラスラ読めるぞ。


 瞬く間に100冊の本を読破する。


「ふむ。面白いな」


 国の歴史には興味をそそられる。


 今から約240年前。蒸気で動く車が発明された。


 それは蒸気機関車と名付けられ、レールの上を走るという。


「良いアイデアだ」


 石炭を主にその燃料としており、採掘に限界が来て計画は頓挫している。


 今は魔法が進化した時代だからな。


 要は、動力源である蒸気の代わりに魔力を使えばいいんだ。


 名付けるなら、そうだな、



「魔力機関車」



 蒸気を魔力に換えただけの安直なネーミングだが、わかりやすい。


 ロントモアーズとジルベスタルの間にレールを敷き、魔力機関車を走らせる。


 僕の案はこれに決定だな。


 さて、王室に報告だ。


 と思うや否や、図書館の玄関口から叫び声が聞こえてきた。



「やだぁああ!! 本読みたいだけぇえ!! 国民の権利ぃいい!!」



 なんだなんだ?

 

 どうやら女の子のようだけど?


 少女は、警備員に取り押さえられてバタバタと暴れていた。


「図書館の本を読むのは国民の権利ぃいい! 権利の侵害は処罰対象だぁあ! ジルベスタル法、第43項。国民は自由に知識を得る権利があるぅうう!」


「あ、あのねぇお嬢ちゃん。法律はそうなっているのか知らないけどね! ここは国の偉い人しか入れないの! 貴族でも男爵クラスは王室の許可が必要なんだから。君は一般スペースで娯楽書籍でも読んでいなさい」


「一般スペースの本、全部読んだ。ここの本読みたい!」


 ほう、全部とは大きく出たな。


 少女は青い髪をしており、それは室内の照明に反射してキラキラと輝いていた。

 

 瞳の色はアクアマリン。クリクリと、大きな目をしている。


 美少女、と言っても過言ではないだろう。


 歳はカルナより少し年下だろうか。

 

 笑うと犬歯が見えた。

 まだまだ、幼さの抜けない小柄な体型だ。


「あーー! それ鉄道の本だぁあああ!!」


 てつどう?


 少女は僕が読んでいた本を指差した。


「こ、こら! 入っちゃいかん!!」


 彼女は警備員の腕を振り解き、僕の前へとやって来た。


「ねぇ、お兄ちゃん。それ鉄道の本でしょ?」


 てつどう、とはなんだろう?


「これは蒸気機関車だよ」


 少女は屈託なく笑った。



「アハハ! 蒸気機関車はレールの上を走る運搬車のこと。その運輸機関を総じて鉄道って言うんだよ」


 

 なんだと?

 この子、一体何者だ!?


 随分とカラフルな服装だが、高価そうだぞ。

 金持ちの娘か?


「アリアス所長、申し訳ありません! 直ぐに追い出しますので」


「あ、いやいい。えーーと……」


 彼女と話しがしたいな。

 それ相応の理由が必要か。


「この子。僕の知り合いなんだ」


「は? 所長の知り合いでしたか! 道理で博識なわけだ! これは失礼いたしました」


「ほえ? ヤミン。お兄ちゃんと知り合いじゃない──ホガッ! モグモグ!!」


 咄嗟に口を抑える。


「ハハハ。警備員さんありがとう。もう大丈夫ですよ」


「恐縮であります。では失礼します」




 手を離すと、少女は息を吸った。


「プハーー! 急に何すんだ!?」


「それはこちらのセリフだ。いくら博識でも、上手な世間の渡り方がある。口裏を合わせることも知らないのかい?」


「口裏を合わせる、くらい知ってるよ。事前に相談してお互いの話を合わせることでしょ? でも、ヤミンとお兄ちゃんは初対面なのだ。よって、事前に相談なんてできないよね」


「そういうことじゃあない」


「プ〜〜。もっと簡潔に教えることを要求する」


 やれやれ。

 知識はあるが常識がわかっていないな。


 僕は、彼女に空気を読むことを伝えて納得してもらった。


「お兄ちゃんって結構やるね。ヤミンに教育するなんてな。ニャハ」


「そりゃどーーも」


「ヤミンの名前はヤミン・アマエターノっていうの。お兄ちゃんは?」


「アリアス・ユーリィ。魔法研究所の所長だ」


「ああ、あの! アリアス所長!」


「そう。あの、だ」


 僕の名前は度々、王都新聞に掲載されているからな。

 それなりに知名度はあるんだ。


「ジルベスタル恋慕情を歌ってる人だ!」


 そっちか。


「君は学生かい?」


「うん、以前はね」


「以前?」


「王立ジルベスタル学園に入っていたのだ」


「名門じゃないか」


 あそこは貴族や、学力のある者しか入れないんだ。

 しかし、入っていた、とは過去形だな。


「ねぇ、ここにある本、読んでいい?」


「ああ。どうぞ」


「えへへ。うわぁあ。歴史の本だぁあ」


「で? 学校はどうした?」


「辞めた。つまんないから」


 ほぉ。

 

「思い切ったな。つまらない理由はなんだ?」


「えーー。だってぇ。勉強が簡単すぎるんだもん。眠くなっちゃうよ」


 ふむ。

 僕と似たタイプかもしれんな。

  

 僕も学校は退屈だった。

 しかし、就職に有利だからと卒業までは頑張ったんだ。


「歳は?」


「14歳」


 に、しては随分と幼いな。


 知識と常識がチグハグだ。


 しかし、この国では、女性は15歳で成人認定されてしまうからな。


 この感じだと将来が大変だぞ。

 

「仕事はどうするんだ?」


「そうにゃのだ。それがネックなのだよアリアス所長ぉ。ふみぃ〜〜」


「学園の中退では、良い就職先は見込めないな。王室関係はまず弾かれる」


「うーーん。それが悩み所。ヤミンはギルドに入って冒険するタイプでもないしね。にゃひ〜〜」


「どんな仕事をしたいんだ?」


「それは……。楽しい仕事……。あ! お兄ちゃんって所長でしょ?」


「ああ。それがどうした?」


「ヤミンを雇って欲しい!」


 そうきたか……。


「うーーむ……」


「ははは……。にゃーーんてね。冗談。こんな子供入れないよねぇ。それに、ヤミンはどこに行っても爪弾きだもんね」


 天才は浮くからな。


 普通の人間関係を構築するのは難しいか。


「でもね。こうやって本を読んでると幸せなのだ。にゃはは。見て見て。240年前の農耕器具! 変な形で面白いよねぇ」


 なんだか放っておけないな。


「考えてもいい」


「え? な、何が??」


「君の採用……。考えてもいい」


「ほ、本当!?」


「ああ」


 彼女は能力が高そうだ。


 性格は問題がありだが、それを差し引いても、弾くのは惜しい。


 それに、鉄道のことをもっと聞きたいしな。


「あは! ありがとうお兄ちゃん!!」


ガバッ!


「うぉい。わかったから抱きつくな」


「えへへ。はーーい」


「少しだけ学力テストをする。合格したら採用だ」


「うは! お兄ちゃんビックリするよ? ヤミンはテストで95点以下は取ったことがにゃいのだから」


 ほぉ、それは楽しみだな。

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