第36話 瞬足魔法のタイム 【ざまぁ】
実況のアンナが大きな声を張り上げる。
「さぁ、休憩時間が終わりました! 再びマッハルさんに登場していただきましょう!! どうぞぉおお!!」
場内は騒つく。
「おい、マッハルが出てこないぞ?」
「なんで出てこないんだ?」
「どうした、どうしたぁああ!? このままだとラジソンの不戦勝だぞぉおお!!」
アンナは更に大きな声を出した。
「マッハルさーーん! もう始まってますよぉおお!」
それでも顔を出さない彼の姿にアンナは王室に掛け合った。
「えーー。王室に相談した結果。今から3カウント以内に出て来ない場合は、ラジソンさんの不戦勝といたします」
騒つきは更に大きくなった。
「では……。1……2……」
観客が固唾を飲む。
アンナが3と言いかけた瞬間。
閃光が走った。
バシュンッ!!
「おや? あれは!? おおっと! スタートポジションに立っているのはマッハルさんです!! 彼は間に合いましたーー!!」
彼は雷を全身に纏う。その体には力が漲り、大地を蹴ってトントンと小刻みに飛び上がっていた。
うむ。元気そうだな。
第一段階は成功といっていい。
ボロボロに砕けた骨は、完全に再生されているし、何より副作用が出ていない。これならば通常の強化された状態とそう変わらないだろう。
続いて、走るタイムだ。
ラジソンの設計した3秒28を抜かなければならない。
これで負ければ僕は国外追放だ。
カルナやボーバン、研究所のみんなには2度と会うことができなくなる。
果たして……。
「それではマッハルさんに走っていただきましょう!! 位置について、用意……、スタートです!!」
ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!!
場内は眩い光に包まれた。
それはマッハルが放った閃光である。
実況のアンナが目を瞬きながらタイムを確認する。
「えーー。眩しすぎて目が眩みましたが、タイムは魔法によって正確な数値がわかるようになっております。それでは、そのタイムは──」
場内が騒つく中、彼女は時間を読み上げた。
「2秒58です!! 驚きの2秒台!! アリアスさん圧勝ぉおおお!!」
大歓声が巻き起こる!
「すげぇえええええ!!」
「はぇええええ!!」
「速過ぎでしょ!! 神ってるぅうううう!!」
「魔法の歴史が、また1ページ……」
ふぅ……。
やれやれ。
なんとかなったな。
「やったじゃないアリアス!! 勝ったのよ!!」
「所長、おめでとうございます!!」
「うぉおおおお!! 心の友よぉおおお!! 歴史的快挙に感動したぁあああ!!」
「ふふふ。流石はアリアスちゃんだねぇ」
喜んでいる場合ではない。
彼の体が心配だ。
「マッハル大丈夫か?」
「うん。あんたの設計に問題はない。俺の体はいたって健康さ」
ああ、良かった……。
初めての魔法設計で自信はなかったが。
副作用はないようだな。
成功だ。
彼の体から稲光は消え、普通の状態へと戻った。
「不思議な現象だったな。俺には何が起こったのかさっぱりだ。本当に危険な魔法設計だったのかい?」
マッハルの問いかけに、ララたちも興味津々である。
「所長。一体、どんな設計だったのですか?」
「うん。合成魔法を使ったんだ」
「ご、合成魔法!? そんな設計聞いたことがありません」
「魔法暦書で知った古代魔法さ。一般の設計士は知らないだろうね」
「それはどんな設計なんでしょうか?」
「2つの魔法を掛け合わすことができるんだ」
「え!? 凄いです!!」
「今回は治療からそれを使った」
「凄まじい回復魔法でした。あれは合成魔法だったんですね!?」
「ああ。回復魔法ライフでは回復力が遅すぎて間に合わない。だから、その魔法に瞬足魔法ホライゾンを合成して回復力を加速させたんだ」
「だから、あんなにも速く回復できたんですね!!」
「ライフとホライゾンだからな。名前はライフライゾンと名付けようか。その合成魔法は走る時にも使ったんだ」
「走る時にも!? なぜです??」
「ホライゾンの限界を超えた設計は実施者の身体を破壊する。ラジソンの設計がそうだった。本来ならばあんな無茶な設計は実施者のことを考えれば絶対にできないんだ。しかし、奴はそれを使って3秒28の記録を作った。限界を超えた設計に対しては、こちらもその設計で挑まなければならない」
「そうか! 限界を越えれば実施者の体を破壊する。だから、その体を回復しながら走った!!」
「そういうことだ」
「あは! 流石は所長です! それなら無傷で限界を超えたタイムが出せますね!!」
「しかも、効果はそれだけじゃない。ラジソンの設計の場合、100メートル終盤でマッハルの脚を破壊してタイムが落ちていたんだ」
「わかりました! 所長が使った合成魔法なら、常に回復しながら進めるからタイムが落ちることがなかったということですね!!」
「うむ」
「凄い! 凄いです!!」
唯一のデメリットとしては、合成魔法を使った僕の魔力量がほぼ全部無くなってしまったことだな。
まぁ、次はファイヤーボールだし、実施者は第四兵団のボーバンたちだ。
影響はないだろう。
「あ、でも待ってくださいよ所長」
「なんだ?」
「思ったんですが、これって後行だったから良かったのでは? 所長が先行だったらマッハルさんの体のことを考えた設計にしていたから負けていたかもしれませんね」
「うむ。そういうことになるな」
「あは! じゃあ、ラジソンはしくじりましたね。わざとアリアスさんに後行を取らせて策を練ったのに」
「だな。しかも、奴のおかげで合成魔法の知識がついたしな」
「うわ! テストにも勝ったし、良いこと尽くめですね!」
怪我の巧妙か。
奴を見ると、僕を睨みながら歯噛みして震えていた。
フッ……。
今にも、チッという舌打ちが聞こえてきそうだ。
「さぁ、では勝利したアリアスさんにインタビューしてみましょう。凄いタイムを叩き出しましたね? 率直な感想をお聞かせください」
率直な感想か……。
「実施したのはマッハルだからな。彼が僕を信じ、信念を貫いてがんばったから素晴らしいタイムが出た。それだけさ」
「おおっと! マッハルさんを賞賛するコメントが出たーー!!」
場内は沸いた。
しかし、本当のことなんだ。
合成魔法は初めてやった。
もしも、失敗すれば、彼の身体は取り返しのつかない後遺症に悩まされていたかもしれないんだ。
それを、僕を信じて合成魔法を受けてくれた。
本当に彼には感謝しかないよ。
「みんなにお願いしたい。拍手は僕ではなく。彼に……。第三兵団のマッハル・アシハヤーに送ってくれ!」
パチパチパチパチーーーーーーーーーーーー!!
「いいぞマッハル!! よくがんばったーー!!」
「2人とも最高だぞぉおお!! アリアス、マッハルゥウウウ!!」
「キャーー!! カッコイイわぁああ!! 2人とも萌えるわぁあああ!! タチかネコか決めてぇええ!!」
やれやれ。
凄い歓声だな。
マッハルは真っ赤な顔で僕の目の前に立った。
「べ、別に……。これであんたの評価が変わったわけじゃないからな」
「ああ。構わないよ。結果を出してくれたからな」
「そうだ。たまたま目的が一緒だっただけだぜ」
そうだな。
大切なのは実益さ。
でも、
「マッハル」
「なんだよ?」
「ありがとな」
「は!? か、勘違いするな! あんたの為じゃない! 王都の為に俺は走ったんだ!」
「そっちだって勘違いするな」
「え?」
「さっきの言葉は、結果を出してくれたから言ったんじゃない。僕を信じてくれたから言ったのさ」
「……ふ、ふん! 俺は魔法兵士だ。あんたは嫌いだ」
「ふふ。そうだったな」
ふぅ……。
これでラジソンとは同点か。
「さぁ、では最後の性能比較となりました!! 今回の一大イベント!! ファイヤーボールによる性能比較テストですぅうう!! 現在は1対1の同点です! 一体、どちらが勝つのでしょうかぁあああ!?」
観客の期待が高まる。
「最後のテストですが、その準備には相当な時間がかかりますので、それまでジルベスタルの美少女騎士団長に来月リリースする新曲を披露していただきましょう!」
新曲だと?
ら、来月リリースってなんだ?
「では、勝利の女神の登場です!」
正面舞台にはカルナが魔育を持って現れた。
その後ろには沢山の楽器を持った人たちが並ぶ。
「それでは歌っていただきましょう! 恋のジルベスタル!!」
なんだそれは……?
パンフレットにはカルナの演舞、とだけ表記があるが、これがそうなのか?
カルナから一切聞いていないぞ?
アップテンポな曲が流れ始めると、カルナは踊りながら歌い始めた。
「こ い の ジル♪ ジル♪ ジルベスタル〜〜♪」
おいおい。
勘弁してくれよ……。
しかも、この観客の大歓声。一番盛り上がっているじゃないか……。
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