第35話 花火魔法の勝敗、そして瞬足魔法
花火魔法は交互に打ち上げられた。
解説役のアンナが眉を上げる。
「おや? これはどういうことでしょうか!? ラジソンさんの花火。形があるようですよ?」
観客は声を上げた。
「あ! あれヒマワリだ!!」
「薔薇の模様もあるわ!!」
「うわーーい。あれは犬!! 猫の顔もあるよ!!」
なるほど。
花火魔法で形を作ったのか……。
その分、色が少なくなり、全体が小さくなった。
10発の花火が終わる。
「さぁ、双方合わせて20発の花火を見ていただいたわけですが、これから判定に入りたいと思います」
判定か……。
方法はどうするのだろう?
「公平を記す為に、観客のチケットは
空中に大きな数字が浮かび上がった。
僕の名前がデカデカと映る。
その横にはラジソン。そして、双方の名前の下に数字が出ていた。
「結果が出ました!! アリアス24949票! ラジソン25365票! おおっと僅差ですがラジソンさんの勝利です!!」
形のある花火は誰も見たことがなかった。
斬新な花火に心を奪われたのか……。
カルナは目に涙を潤ませた。
「ア、アリアス……。ま、負けちゃったわよ……。どうしよう?」
「勝負はあと2回ある。まだわからないさ」
「うう……。私、胸が張り裂けそうよ。ぜ、絶対に負けないでね」
「ああ」
ラジソンはインタビューを受ける。
「さぁ、1回目の比較テストに勝ったラジソンさんに感想を聞いてみましょう。花や動物の形をした花火魔法は初めて見ました。設計した感想を聞かせてください」
「フン……。花火が小さすぎる。それに色も少ない。私が設計した花火魔法はもっと素晴らしいものだ。花火を打った実施者の腕が出たな。本来ならば圧勝のはず。遺憾だ」
「おおっと! もっとできる! とのことです。謙遜が凄まじい!!」
観客は沸いた。
みんなは、奴の性格を知らないんだ。
これは謙遜ではない。実施者に対する嫌味だ。
感謝の念を欠いた最低のコメントと言っていい。
「続いて瞬足魔法の性能比較テストです! こちらは公平を記す為に1人の魔法兵士に実施していただきます。100メートルを、アリアス設計、ラジソン設計、と2回走っていただき、そのタイムを競います」
1人の男がアンナの横に立った。
鋭い目をしており、中々のイケメンだ。
青く、長い髪を後ろで束ねていた。
「選ばられたのは第三兵団のマッハル・アシハヤー! 彼は王室が選んだ国内一の瞬足男です。今の気持ちを率直にどうぞ」
「こんな素晴らしい舞台に選ばれたことを光栄に思います。双方の為に2回走りますが、どちらも決して手を抜きません。俺は全力で走るだけです。アーシャーのように!」
マッハルは誠実な男のようだな。
彼のコメントで場内は沸いた。
「走る順番についてですが、ラジソンさんより要求があるそうです。魔育をどうぞ」
「この3つの比較テストを企画したのは私だ。公平を記す為に実施する順番で性能の差が出ないように考えている。しかし、この瞬足魔法の設計だけは別だ。先行後行でタイムに影響が出るかもしれない。そこで提案だ。走る順番を
アリアスに選んでもらおうと思う」
「おおっと! これは素晴らしい提案です!! 企画者ならば自分の得意分野とも受けられます。それを相手に選ばせるなんて、実に公平! 素晴らしい!!」
場内は拍手喝采。
奴にしては不気味なほど、公平性があるな。
「ではアリアスさん。先行後行、どちらか選んでください。魔育越しにどうぞ」
ラジソンの考えは不明だが、タイムを競うなら、
「後行を選ぶ」
先行より速く走れるように設計ができるなら有利かもしれん。
ラジソンを一瞥すると嫌な笑みを浮かべていた。
何を考えているんだ……?
「さぁ! まずは先行! ラジソンさんの設計した瞬足魔法です!! 100メートルのタイムを競います! 事前にマッハルさんの脚には瞬足魔法ホライゾンの魔法が付与されております。マッハルさん。準備はいいですか?」
マッハルの脚に稲妻が宿る。
その姿勢を屈めた。
「スターートです!!」
ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!!
「出ました! 3秒28!! 速い!! これは速すぎでしょう!!」
会場からは大歓声。
「すげぇな! 一瞬だったぜ!」
「王室の記録だと、ホライゾンの魔法は6秒台が最高だったらしいぜ」
「人間の限界を超えているわね」
解説のアンナは興奮が冷めやらない。
「いやぁ凄い魔法設計でした。王都の未来は明るいですね! それでは15分の休憩を置いて、マッハルさんにはアリアスさんの設計で走っていただきます。果たして、この3秒28を超えれるのでしょうか? もう限界のような気がします!」
僕たちは控え室へと移動した。
マッハルは仲間から肩を借りてこの部屋へと入ってきた。
「何!? もう走れないだとぉ!?」
と、兵士長ボーバンの声が控え室に響く。
マッハルの脚は血だらけで、その皮膚は焼け焦げていた。
彼は苦悶の表情を浮かべる。
「も、申し訳ありません。し、しかし……。もう、あ、脚が……」
ララはその脚に触れて叫んだ。
「ほ、骨が砕けてます!!」
ラジソンめ。
兵士の体を考えずに計算したな。
カルナは汗を垂らした。
「は、早く治療しないと……!」
回復魔法ができる者たちがマッハルの脚に手をかざす。
「「「 ライフ! 」」」
「アリアスよ! ライフは万能ではないのだ。これほどの傷。例え複数付与のライフでも治療には3日かかるぞい」
確かに……。
例え、上級魔法のギガライフでも15分の休憩では回復しないだろう。
「ラジソンの狙いはこれか……」
奴の声が聞こえてきそうだ。
『後攻を選んだのは貴様だあぁああ! 自ら墓穴を掘ったなぁああ!! ダーーッハッハッハッ!! 自分の情けなさを実感するがいい! 愚行! 浅はか! 無能の極地ぃいいい!!』
なんて、言うんだろうな。
やれやれ、
「奴は、僕が後行を選ぶとわかっていたんだ。だから、兵士をここまで痛めつける設計をした」
「酷いじゃない!! こんなやり方酷すぎる!!」
「それが奴のやり方なのさ」
「どうするのアリアス? 代走を立てる?」
「いや。おそらく受け付けてくれないだろう。それに奴のことだ。僕に卑怯者のレッテルを貼って笑い者にするはずだ」
「そんなぁ! 卑怯なのはあっちよ!!」
「それは王室をはじめ、観客にはわからないことだからな。アンナのする実況にもあったように、公平を記す為、マッハルに走らせることになっているんだ」
カルナはボロボロと泣いた。
「じゃ、じゃあどうすればいいの? うう……。アリアスは1回目で負けているのよ。これで負けたらもう勝てないじゃない……。そうなったら……うう。わ、私たち、2度と会えなくなるのよ。うう……」
「カルナ……。泣かないでくれ。まだ、僕が負けたわけじゃないさ」
「だってぇ……。うう……」
こんなこと、非人道で、とてもやりたいとは思わないが……。
「方法はある」
みんなは眉を上げた。
方法はあるんだ……。
しかし、
「マッハル……。君にこれから使う魔法は、誰にも使ったことのない古代魔法になる。だから、どんなことが起こるかわからないんだ」
「どんなことが起こるかわからない?」
「ああ。ラジソンの使った設計のように君の体に大きな負担がかかるかもしれない」
「…………それで、俺の体が治るのか?」
「そうだ」
「それで治ったとして、さっきのタイム、3秒28を超えれるのか?」
「ああ、それもなんとかなる」
「……その代償が、俺の体に起こる負担」
「どうなるかはわからない」
怪訝な顔をするマッハルにボーバンは頭を下げた。
「すまんマッハル!! お前の体が大事なのはよぉーーくわかっている!! しかし、アリアスを信じてくれぇえ!! 頼むぅううう!!」
カルナも頭を下げた。
「私からもお願いするわ! アリアスを信じて!!」
マッハルはそんな2人から目を逸らした。
「俺は……。アリアスさん……。あんたを信用していない。新聞の記事を鵜呑みにしているわけではないが、あんたが叩かれる記事は気分が良かった」
「ぐぬぅうう!! マッハルゥウ!! ここにきてなんてことを言うのだぁあああ!!」
「ボーバン兵士長。あなたがなんと言おうと俺の意見は変わらない」
「き、貴様ぁああ!! 我が心の友をぉ、愚弄するのかぁああ!!」
いや、彼の真意を知りたい。
「ボーバン。彼から手を離してくれ。彼の言葉が聞きたい」
「ぐぬぅうう……。し、しかしだなぁ………うう」
マッハルはつまらなそうに僕を一瞥した。
「あんたが設計したファイヤーボール。兵団では大人気だ。魔力量が半分で、威力は倍になった。しかし、詠唱姿勢が気にいらない。みんながあんたを評価しようと、俺は認めないぞ」
「ふむ。詠唱姿勢の何が気に入らないんだ?」
「片手の詠唱姿勢は300年続いた伝統だ。英雄、アーシャーは片手で行っていたんだ。それを両手でやるなんて、アーシャーに顔向けできん!」
「なるほど。ではそれで、不効率なファイヤーボールを選択するのかい?」
「そうだ」
「それで倒せないモンスターがいても良いのかい?」
「そうだ。例えそれで命を落としても、俺は本望だ」
「君。若いのに懐古主義だね」
「なんとでも言えばいいさ。俺はアーシャーが好きなんだ」
「ふむ。ハッキリ言うが、僕は実益に反する行動は大嫌いなんだ」
「ふん。じゃあ俺の考えはあんたには合わないな」
「そうだな。君の考えは僕には合わない」
「ははは。決裂だな。やっぱりあんたとは馬が合わない」
そうなると、
「君は選ばれて走ることになっていたけど。僕の時は手を抜くつもりだったのかい?」
「そんなことするわけがないだろう。俺は王室に選ばれたんだ。手を抜くなんてアーシャーに顔向けできん」
「じゃあ、嫌いな奴の設計でも全力で走る気だったのか?」
「勿論だ。俺は兵士だからな」
ふむ……。
つまり、
「愛国心だな。国の為には絶対なんだ」
「俺はジルベスタルを愛しているんだ」
アーシャーが守った国を愛しているんだな。
しかし、そうなると、
「やはり実益に反するな」
「なんだと!?」
「強い魔法の方が国を守れるさ」
「し、しかしだな。アーシャーは片手で詠唱していたんだ。俺たちはそれを引き継いだ。それをどこの馬とも知れないあんたの設計を重宝するなんて、気がしれんよ。俺はそんな生き方はしたくないんだ!」
自分の信念を貫く生き方か……。
「ふ……」
「な、何がおかしい!?」
「嫌いじゃないよ。そういう生き方」
「か、揶揄うな!! 実益に反する考えは嫌いなんだろうが!!」
「そうだな。考えは嫌いだが、君の生き方は好きだ」
「ぐぬぬ……」
彼に真相を教えてやろうか。
「僕の後任にラジソンがつけば、国は戦争を起こすぞ」
「な、なんだと!?」
「奴は設計を進化させて、魔法兵団の兵力を増強する。王室会議では他国侵略の進言をするだろう。事実、奴のいたオーゴット大陸は内戦真っ只中だ。戦争をした方が研究所は儲かるからな」
「そ、そんなことさせるもんか!!」
「僕もそう思っている」
「ぐぬぬ……」
「同じだな」
マッハルはボロボロになった脚を見つめた。
「あ、あんたなら奴を止めれるのかよ?」
「ああ。止めて見せる。いや、絶対に止める」
「ラジソンは俺の脚がこんなことになるなんて微塵も言ってこなかった。だが、あんたは違う。リスクを伝えて俺に許可を求めてきた……」
「君が走るからな。当然だろう」
「……あ、あんたが勝ったら、この国は平和になるのかよ?」
「無論だ。僕の信念に賭けていい」
「あ、あんたは嫌いだが……。嫌いだが──」
僕らは彼の言葉に注目した。
「信用はできる!!」
うむ。
それだけで十分だ。
嫌いであっても目的が一緒ならばそれでいい。
「魔法の設計、僕に任せてもらってもいいかい?」
「やってくれ!! この体、あんたに預ける!!」
よし。
もう時間がない!
「急ぐぞ!!」
僕の両手は強い光を発した。
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