第37話 脅威のファイヤーダガー 【ざまぁ】

 カルナの歌が終わり、本格的に最後の性能比較テストの始まりとなった。


 競技場には20枚の大きな壁が用意されている。

 それは2つの列を作っており、それぞれ10枚の壁だった。


 高さは20メートルはあるだろうか。


 分厚く、高い。


 それにしても、この並び。


 ドミノの様にも見えるな。


 しかし、倒すのが目的ではないようだ。


 実況のアンナが大きな声を張り上げる。


「この壁をラジソンチーム、アリアスチームと別れて、それぞれが10枚の壁をファイヤーボールで破壊しながら進んでいただきます。どちらが早く破壊できるかを競うわけです。つまり破壊競争──」


 なるほど。

 10枚目を破壊した時点で勝利が確定するわけか。


 壁の色が不統一ということは……材質が全て違うようだな。

 

「1枚目の壁は木の材質。その次は土。粘土、石、銅、鉄……そして最後はクリスタル鋼。と順々に強度が増していきますのでファイヤーボールを撃つチームは気をつけて魔力を使ってください。ちなみに壁の用意は王室がさせていただきましたので、企画立案者のラジソンさんは壁の性質は一切知りません──」


 最後の材質はファイヤーボールで破壊できるギリギリの硬度だな。


 超火力が必要なわけか。


「兵団は1000人で1組のチームです。今から作戦会議の時間を10分設けますから、どのように配分するかを両チームで話し合ってください」


 司令塔である僕とラジソンには小型の魔育が配られた。


 襟に付ければアンナほどではないにしろ大きめの声が響く。


 僕のチームはボーバンが兵士長をする第四兵団だった。


 信頼できる精鋭たちと言っていい。


「お前たちぃい! 気合い入れていくぞぉおおお!!」


 ボーバンの声掛けに兵士たちは力強く応える。


「では作戦、及び、魔法設計を担当するアリアス所長に指示をうかがう。みんな心して聞くように!!」


「「「 おおーー!! 」」」


 僕は魔力計器を使って周囲の自然魔力を測っていた。


 ギリギリまで設計を詰めるぞ。


 ギガ級のファイヤーボールを出してやる。


「みんなよく聞いてくれ。相手は相当の手練だ。こちらと同様ファイヤーボールをギリギリまで強化させてくるだろう。だからこちらも極限までいく。注意して欲しいのは詠唱姿勢だが──」


 僕の説明が終わると1人の兵士が手を上げた。


 不安げな顔を見せる。


「アリアス所長。今朝から指導を受けているので、強力なファイヤーボールが撃てるようにはなりましたが、体内魔力を100固定にすることが不安です。今まで撃っていたのは200の魔力量。それを半分にするなんて不安しかありません。不発を起こせば体内爆発を起こしますよ。そこは大丈夫なんでしょうか?」


 王都新聞には、僕の設計で事故が多発していることが載っていたからな。不安を覚える者も多いだろう。

 

 しかし、こんな記事は嘘八百なんだ。


 僕の設計に事故はない。

 

「そこには細心の注意を払っている。最優先は詠唱姿勢だ。大地に向ける手の平の角度が一番重要なんだ」


「優先するのはファイヤーボールの威力ではないのですか??」


「それは二の次でいい。大事なのはみんなの安全だ。安全に高威力の魔法を放つ。それが一番だよ──」


 彼らも僕と同様、本気でこの戦いに挑んでいる。

 そんな人間に怪我をさせちゃいけない。


 





「アーシャーに賭けて誓うよ。事故は絶対に起こらない」



  


 兵士たちは飛び上がって喜んだ。


「よぉおし、やろう! アリアスさんの為にがんばろう!!」

「おお!! やってやるぜぇえ!!」

「必ず勝ちます!! アーシャーに誓います!!」


 僕の作戦がしっかりと伝わった頃。


 実況のアンナは開始の合図を出した。


「さぁ! それでは最後の性能比較テストの開始です。ファイヤーボールでどちらが先に壁を破壊できるのでしょうか!? 壁の破壊競争。スターーーートです!!」




ボボボボボボボンッ!!



 

 強烈な発射音が競技場に鳴り響く。



「「「 アーシャーのようにぃいいい!! 」」」



 双方のチームがファイヤーボールを発射する。



「おおっとぉ!! 両者ともに1枚目の木の壁は、瞬時に破壊したぁあああ!!」



 観客の皮膚がファイヤーボールの熱気に当てられる。


 焦げた臭いが場内に充満すると、そのスリリングな情景に大歓声が巻き起こった。


「いいぞ!! やれやれーー!!」

「魔法兵団カッコイイ!!」

「すげぇ、大迫力ぅううう!!」


 差が出始めたのは2枚目からである。


「さぁ、2枚目は土壁となっております! その高さは20メートル。壁の厚さは10メートルもあります。早々に破壊するのは難しいでしょう!」


 僕のチームは、ファイヤーボールをその土壁によって弾かれていた。


 100人でファイヤーボールを連射するように指示していたが、これでは火力が足らないようだ。


 よぉし、


「200人体制で撃ってくれ!」


 と指示するやいなや。


「おおっと!! ラジソンチームは3枚目を突破したぁあああ!!」


 何!? 3枚目だと!?


「ラジソンチームは不思議な詠唱姿勢をとっております。片手を天に掲げて……。あんな姿は見たことがありません!」


 独特だな……。


 ラジソンめ。新しい設計を発明したのか。


「みなさん注目です!! ラジソンチームのファイヤーボールは短剣の形をしていますよ!? それを突き刺して壁を破壊しているようです!!」


 ほぉ……。

 ファイヤーボールを突き刺しているのか。

 そうなると、壁は亀裂を起こして破壊力が増すな。


 場内は騒ついた。


「すげぇ。あんなファイヤーボール見たことねぇぞ!」

「天に掲げた方の手で短剣を投げるみたいにファイヤーボールを撃ってるぞ!!」

「火の魔法で形を作れるもんなのか!?」


 炎の固定はどうやっているんだろう?


 僕は空中に式を書いた。


 僕の場合、紙が無くても空中に書いた式を頭の中で表示することができるんだ。


「魔方程式と流動魔力元素式の応用だろうか……? つまり、ここがこうなって、こうなるからX=2πになって……」


 ララは眉を上げた。


「何やっているんですかアリアス所長?」


「ああ。ちょっと敵の分析をね……」


 競技場に嫌な声が響く。


 それはラジソンが襟に付けた魔育を口に近づけた声だった。


「諸君。私の設計したファイヤーボールに興味があるようだな」


「おおっと! ラジソンさんが私たちの疑問に答えてくれるのかーー!?」


「うむ。答えてやろう。あの魔法はファイヤーダガーと言う」


「ファイヤーダガー? 聞いたことのない魔法ですが、それはファイヤーボールなのでしょうか?」


「そうだ。あくまでも基本性質はファイヤーボールの応用にすぎん。ファイヤーボールの形を固定し短剣状にしたものだ」


「それは凄いです!」


「私の発明した設計だ。私が勝ってジルベスタルに赴任すれば、国民は最新の魔法技術を手に入れることができるのだ。アリアスなど、所詮は時代遅れの魔法設計にすぎん」


「おおお! なんとも壮大な言葉でありましょうか。テスト1回目の花火魔法といい、形を固定するのは斬新であります。でもいいのでしょうか? こんなに大きな声で話してしまっては、手の内がアリアスさんバレるのではないでしょうか?」


「フハハッ!! バレたところで真似などできるか!! 最新の設計式は秘密なのだからなぁあ!! フハハハーー!!」


「おお!! なるほど!!」



サクンッ!!



 と、地面に突き刺さったのは僕の小さなファイヤーボールだった。


「所長! ファイヤーボールが短剣の形になって地面に刺さりましたよ!!」


 ふむ。


「なんとかできたな」


「ええ!? もう真似できたんですか!? それとも設計式を知ってたんですか!?」


「いや。直接見ただけさ。あとは肌感覚で式を作った」

 

「は、肌感覚で設計式なんかできませんよ……。す、凄すぎる……」


「大したことはないさ」


 そんなことより、このファイヤーダガーがどこまで効果を上げるかだな。


「悔しいですね……。いくら所長ができたからといって、その魔法設計を今から兵士たちに伝えるわけにはいきませんよ。詠唱姿勢の練習だって必要ですし。とても使えそうにないですよね」


「使えなくても大丈夫だろ」


「え? なぜです!?」


「炎の硬質化だからな。硬度でいえばガラス程度のものさ。粘土くらいまでなら突き刺さるだろうが、それ以上となるとな」


「じゃ、じゃあ、球状のファイヤーボールの方が破壊力があるということでしょうか?」


 アンナの実況が響く。



「おおっと!! アリアスチームの猛攻が止まらないぃいい!! ラジソンチームに追いついたぁああ!! 両者ともに4枚目! 石の壁の破壊に入ったぁああ!!」



 ふむ。

 

「予想どおりだな」

 

「なんとも意外な展開です! ラジソンチームは石の壁に手こずっている模様です!」


 ま、そうなるだろうな。

 ガラス細工の短剣が、石に突き刺さるはずはないのだから。


 ラジソンの悲痛の叫び声が場内に響く。


「バカモン!! この無能どもがぁああ!! いつまでファイヤーダガーに拘っているのだ!! 通常のファイヤーボールに戻さんかぁああああ!!」

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