第20話 悪は滅びる 【ざまぁ前編】

 シンは身体中が傷だらけだった。


「大丈夫かシン! どうしてこんな所に!?」


「ア、アリアスさん。これはビッカの……」


 と言いかけて倒れる。


「お、おいシン!!」


 まずは彼の治療が先決だ。



ーージルベスタル魔法研究所ーー


 シンはベッドに横たわる。


 その傷は回復魔法で回復した。


「すいません。私が不甲斐ないばかりに」


「いや。気にするな。もう少し休んでいてもいいのだぞ」


「そうも言ってられません。ビッカの悪行は許せない! あいつはハードアントでこの国を滅ぼそうとしたんです!」


「ほぉ……」丁度、兵士長のボーバンも騎士団長のカルナもいるんだ。


「その話。詳しく聞かせてくれ」





「何ぃいいいい! 病原菌を撒き散らし、その特効薬を餌にしてアリアスを誘き寄せ、ハードアントで殺そうとしただとぉおお!? なんと卑劣なぁあああ!! 許せん!! そのビッカとかいう野郎、絶対に許せんん!!」


 ボーバンが叫ぶ横でシンは小首を傾げた。


「流行り病が治った理由がわかりません。あの雨がきっかけだったのですが、あの現象はなんだったのでしょうか?」


「それはうちが説明するわ」


「キレミさん!? どうしてここに?」


「アリアスはんに雇ってもろたんや」


「じゃあもしかして、流行り病の治療の手伝いをされたのですか?」


「まぁ、そういうこっちゃな。研究所を辞めるついでに特効薬をもろたんや。それをアリアスはんのお土産にしたんやけどな。アリアスはんは見事に量を増やしよった! 瞬く間にやりよったんやで! しかも、それを雨にして王都全体に行き渡らしよったんや!」


「じゃあ、アリアスさんが流行り病を解決したのか……。ははは、やはり凄い人だ」


 大したことではない。


 薬を開発してくれたロントモアーズの僧侶ギルドが優秀だっただけにすぎん。


 それにしても、ハードアントの異常発生が不明だな。


 環境の変化といえば病原菌だけだ。


 もしかすると、菌が原因で突然変異が起こったのかもしれんな。



 カルナは報告に来た部下と話していた。


「大量発生の原因がわかったわ! 調査団がハードアントの遺体を調べたんだけどね。体皮に緑の斑点があって明らかに通常種と違うんだって! どうやら、あの病気が原因みたいよ!」


 ビンゴ!

 やはり病原菌が原因か。


 ビッカは病原菌を伝染させてハードアントでジルベスタルを滅ぼそうとした。


 大罪人だな。


「騎士団も協力するわ。ビッカにしかるべき罰を与えないとね」


「魔法兵団も全面協力させてもらうぞい!!」


「それとね。おヨネさんも来た方がいいわよ」


「ほぇ? 私ゃアリアスちゃんが行くならどこへでも着いて行くがね。私が行っても邪魔じゃないのかえ?」


「これから新聞記者がここに殺到するのよ。おヨネさんだけじゃ対処しきれないでしょ?」


「記者が私になんの用事だい?」


「ガハハ! 婆ちゃんは国を救った英雄なんだ。取材が来るのは当然だろう」


「なんだか騒がしいねぇ」


「よし。みんなでロントモアーズ研究所に行こう」



 僕はみんなを魔車に乗せて、王都ロントモアーズへと向かった。


ギュルルゥウウウウウウウウウウウウン!!


 まさか、こんな形で故郷に帰るとはな。


 思いもよらなかったよ。



ーーロントモアーズ魔法研究所ーー


「こ、困りますぅ! いきなり研究所に入られては!?」


 秘書のミミレムがボーバンの体を押さえる。


「ここには奴がいるはずだ」


「や、奴って??」


「僕たちはビッカに用事があって来たんだ」


「あーー!! アリアスゥウウウ!! どうしてあんたがここにいるのよぉお!?」


 やれやれ。話すと長くなる。


「おい女! アリアスに失礼な口を聞くんじゃあない! 俺が許さんぞ」


「ひぃいいい! 暴力反対ぃいいい!!」


 ボーバンは所長室の扉を破壊して開けた。



ドカァアアアン!!



「ビッカはいるかぁあああああ!?」


 奴は副団長のバラタッツと共に金庫の金を数えているところだった。


 大方、逃げる準備でもしていたのだろう。


「だ、だだだ誰だぁあああああ!? 貴様はぁあああ!?」


「ジルベスタル魔法兵団の第四兵士長のボーバン・ノーキンだ!!」


「同国、第二騎士団長、カルナ・オルセット!!」


「にゃ、にゃにぃいい!? ジルベスタルの兵隊どもがどうしてこんな所に来てんだよぉおおおお!? てか、蟻に食われたんじゃなかったのかぁあああ!?」


「ほぉ……。俺たちの国がハードアントに襲われたことをよく知っているな?」


「は!? あ、いや。た、たまたま通りがかっただけだ!!」


「平然と嘘なんかつきおって! とんでもねぇ悪党だな。こっちは証拠が揃ってんだよ!!」


「しょ、証拠だとぉお!? なんの話だぁああああああ!?」


「貴様が病原菌を撒き散らし、その上、ハードアントに襲わせた。国家転覆罪だ」


「は、ははは! 俺が国家転覆だとぉ!? ははは、何をバカな! 近くを通りがかっただけだと言っただろうがぁああ!!」


「アリアス、こいつボコボコに殴っても良いか?」


「いや、それは待とう。こいつには謝罪が必要だからな」


「ア、アリアスゥウウウウウウ!?」


「久しぶりだな。ビッカ所長」


「こ、この野郎ぉおおお。よくも抜け抜けと俺の前に顔を出せたなぁああああ!!」


 うむ。

 できれば2度と見たくはなかったのだがな。


「アリアスさんだけじゃないぞ。私もいる!」


「んぐぅううッ!! シン! 貴様、生きていたのかぁああああ!?」


「アリアスさんが助けてくれたんだ!!」


「ぐふぅううう。この死に損ないの無能がぁああああ!!」


うちもおるでぇ。にゃはは」


「キ、キレミィイイイイ!? くぅ………。そ、そうか! さては、お前がアリアスに特効薬を渡したんだな?」


「そういうことでんな。ニシシ。ほいでなぁ、アリアスはんがその薬を雨にして国全体に散布してくれたんや。おかげでみんなは流行り病から回復できたんやで」


「くぅう……。やはりあの雨はアリアスかぁああああ!!」


「ガハハ! 観念せい悪党がぁ! 貴様の作戦は全て、ここにいるアリアスが阻止したのだぁあああ!!」


「じゃ、じゃあ……。蟻の大群はどうやって防いだんだ? 100万匹以上はいたはずだぜ?」


「それはねぇ……。アリアスちゃんが私に魔法をかけてくれてねぇ。英霊召喚って魔法なんだけどねぇ。随分と強くなってねぇ。モンスターを壊滅させちゃったのよ」


「な、なんだと!? このババァがぁああ!?」


「この悪党がぁあ! 口をつつしめ! ヨネル婆さんは国の英雄なんだ!! 彼女を愚弄するならばこのボーバン・ノーキンの剛腕が貴様の首根っこをへし折るぞ!!」


「ぐぬぅうう……」


 さて、詰みだな。


「ビッカ所長。僕たちはお前がやった悪行を全て対処した。そして証拠を掴んでいる。お前を逮捕して、その罪を償わす!」


「お、俺を捕まえるだとぉおおお!? は、ははは!! やってみろぉおおお!! 証拠がどこにあるんだよぉおおおおお!?」


「証拠なら私の証言がある。私はハードアントとともにジルベスタルに連れて来られたんだ。一部始終を知っている!」


「ギャハハハ!! バッカじゃねぇの! こいつはロントモアーズの人間じゃないか! 他国の人間の証言がジルベスタルで証拠になんかなるもんかよぉおおお!!」


「いや、しかし、私は全てを見ているんだ! お前が病原菌をウインドの魔法でばら撒いたところもな!!」


「ギャハハ!! だからそれはお前が勝手に言ってるだけに過ぎんだろうがぁああ!! 虚言癖の無能野郎がぁあああああ!!」


 これには副団長のバラタッツも同調した。


「は、ははは……。全くですな。言葉だけならなんとでも言える。シンの虚言に振り回されるなど滑稽の極み!! ビッカ所長の言うとおりです! 証拠を出せ証拠を!!」


 2人の笑いは研究所に響く。

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