第21話 悪は滅びる 【ざまぁ中編】

 ビッカは証拠が無いと豪語する。


 僕は鼻で嘆息をついた。


 やれやれ。


「証拠ねぇ。シンがいるだけで、もう確実なのだがなぁ」


「ギャハハ! バーカ!! シンの虚言が証拠になるかよ!! こいつこそ国家転覆を企む張本人なんだぞ!!」


「なッ!? わ、私はそんなことは考えていない!!」


「いいや! お前が病原菌をばら撒いて、ハードアントに国を襲わせたんだ」


「ち、違う!!」


「お前だ」


「違う!!」


「ギャハハ! 見ろよ、水掛け論!! 言葉だけならいくらでも言えるんだよ!! 国内一の文才、このビッカ・ウザインを舐めるなよ! 法廷に立っても絶対に負けはしねぇぜ!!」


 副団長のバラタッツは手を擦った。


「いやぁ、流石はビッカ所長だぁ。あなたの手腕にかかれば、ここにいる奴らなど所詮は無能な烏合の衆。束になっても敵いませんなぁ」


「ぎゃはは! そういうこった!! 証拠がないなら立証もできない!! わかったらさっさと出ていきやがれ!! 勿論、壊した扉は100倍にして請求させてもらうがな!!」


「グハハハ!! 最高です!! 完璧な対応ですな!!」


 ふむ。

 まったく理解していないようだな。


「シン。ビジョンの魔法だ」


「え? あれは環境情報を伝えるための映像魔法ですよ?」


 そう。元来、ビジョンの魔法は遠く離れた設計士が互いの環境を伝えるために使う魔法だ。


 シンが僕と花火を設計する時、ロントモアーズの環境を伝えるために使ったように。


 それを応用する。


「君の脳には焼き付いただろう? ジルベスタルの大地が」


「そうか! ビジョン!!」


 シンの目から光線が出て、それが空中に映像を映し出した。


 そこには檻の中に入ったハードアントとビッカたちの姿が鮮明に映っていた。




『バラタッツ。そこの壺をこの魔法陣の中央に置け』


『壺の中には何が入っているんです?』


『病原菌だよ』


『びょ、病原菌!?』


『僧侶ギルドが流行り病の特効薬を作っていただろう? その研究で使われていた病原菌を盗んで来たのさ』


『ビッカ所長! そんな病原菌をどうするつもりだ!?』


『ククク。なーーに。ちょっとだけ風の魔法に乗せてジルベスタルに届けるだけさ』


『やめろ!! そんなこと許されるもんか!!』


『ギャハハ!! ゴチャゴチャ抜かしていると、貴様をハードアントに食わせてしまうぞ!!』


『い、一体、何をするつもりなんだ?』


ウインド!! ギャハハハ! これでジルベスタル風、流行り病の完成だ!! この特効薬がないと全員死んじまうぞぉおお!!』





 それはまるで目の前で起きているように、音声までもが正確に記録されていた。


「うわぁあ!! やめろぉおお!! 見るなぁ!! 見るなぁああッ!!」


「ビッカ。観念しろ。お前が求めていた証拠はここにある。お前は病原菌とハードアントを使ってジルベスタルを危機に陥れたんだ」


「ぐぬぅうう……!!」


 副団長のバラタッツは僕に懇願した。


「アリアス! いや、アリアス殿!! 私は騙されただけなんだぁああ!! ビッカのクソ野郎に騙されただけにすぎんーー!! どうかご慈悲をぉおおお!!」


 やれやれ。

 とんでもない悪党だな。


 僕はバラタッツの眉間に人差し指を立てた。


「ビジョン!」


 彼の眼球が発光する。


 それは空中に映像を映し出した。


 そこには、ハードアントを檻に入れて捕獲するバラタッツの姿が映っていた。



『こいつを使ってアリアスをぶち殺してやる!! 俺に恥をかかせたことを後悔させてやるぅううう!! 楽しみにしていろアリアスゥウウウ!!」



 うむ。


「どう見ても自主的にやっているな。計画的殺人未遂じゃないか」


「ぬがぁあああああ!! こ、これはぁあああ、何かの間違いなんだぁああああ!!」


「僕に後悔させるより、自分が後悔することになったな」


「あああああ…………」


 みんながバラタッツに注目していると、ビッカはその目を盗んでおヨネさんに近づいた。


「ひゃあああ!!」


 彼女の悲鳴が研究所に響く。


「グフフ!! ババァの命が惜しかったらよぉ、近づくんじゃねぇぞ!!」


 ビッカは鋭いナイフをおヨネさんの首元へと向けていた。


「おお! 流石はビッカ所長だ!! 人質を取るとは素晴らしい機転ですぅうう!!」


「よし、バラタッツ。馬車を用意しろ!!」


「はい! 仰せのままに!!」


「バラタッツ」


「はいなんでしょう?」


ザクンッ!!


 やりやがった……。


 ビッカのナイフはバラタッツの首を切っていた。


 傷口から鮮血が飛び散る。


「ぐはっ!! な、何を!?」


「うるせぇ!! この裏切り者がぁああ!! 俺を売って自分だけ助かろうとしやがったな。そんな奴を助けるもんかよ!! 逃げるのは俺1人だけだ!!」


「そ、そんな……。わ、私も連れて行ってく……ガクン」


 出血多量で気を失ったか。


「おっと動くなよ。ババァをバラタッツみたいにしたくないだろう?」


「悪党がぁああ!! ヨネル婆さんを離さんかい!!」


「ケッ! そうはいくかよ! 馬車を用意しやがれ!!」


 さて、どうしたものか。


 突然、周囲がビリビリと帯電を始めた。


 カタカタと家具が揺れる。


 なんだ、この現象?


 と思うと同時。


 僕たちの隙間から豪風が噴いた。



ギュゥウウンッ!!



 その影は瞬時にビッカの前へと到達し、奴を吹っ飛ばした。



バキィイイイイッ!!



「ぐえぇッ!!」


 現れたのは金髪の美女。


 ロントモアーズ騎士団長、エマ・コンヴァーユである。




「私の速さを侮るなよ」

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