第9話 アリアスの価値 【シン&ビッカside】

 私、ことシン・ギャランがアリアスの代わりに赴任して数週間が経った。


 所長はアリアスのことをどれくらい知っているのだろうか?


「あなたは彼の成果をご存知なのですか?」


「んあ? なんの話だよ」


「アリアス・ユーリィです。彼は王都への貢献度が凄まじい! 研究結果に対する王室からの高評価、全て彼の功績じゃないですか!」


「単なる目立ちたがり屋だからだろ?」


 な、なんだと!?


 所長の横には秘書のミミレムが座っていた。


 その露出した腿を組み替える。


「アリアスなんてゴミクズでしょ?」


「だよな。んな野郎、無能のゴミクズだぜ」


「男は所長みたいに器量がなくちゃね♡」


「だよな。でへへ。ま、アリアスみたいな無能の評価なんてどうでもいいぜ」


「あなたたちは本気でそう思っているのか?」


「当たり前だろ。奴は、俺ほどではないが、ほどほどに口が立ち、文才があるからな。奴の成果など書類上のことだろう。上手いことやっただけにすぎん」


「そうそう。やっぱり凄いのは所長です♡ アリアスなんて歴史オタクのゴミクズ無能男」


「ぎゃはは! それウケるな! ゴミクズ無能男!!」


 そ、そんなはずがない。


 彼は、8色の巨大な花火魔法の設計ができるんだぞ。


「奴は無能な上に口うるさくてな。最近では俺の運営にまで横槍を入れる始末だ。追い出されて当然だろう」


 そ、そんなことで……?


 運営に問題があるのはこの人では!?


「それより、花火の進行はどうなんだ? この前みたいなしょぼい花火だと王室に笑われてしまうぞ。毎年、花火は盛大で綺麗なのを打ってんだからな」


「じ、時間が必要です」


「時間だぁ!? 甘えたこと抜かしてんじゃねぇぞ」


「時間が足りないのです。8色の花火魔法は計算が複雑なのです」


「貴様。それでもエリートか!? 貴様には高額な報酬を払っているのだぞ?」


「私以外でもとても無理でしょう。疑うのなら他を当たってください。きっと私以上にできないはずです」


「ぐぬぅ……。言うじゃねぇか!」


「時間をいただきます。勿論、その間、経理の仕事はできません」


 所長は机を叩いた。


ドン!!


「ふざけんな!! この無能がぁあああ!!」


「私は無能ではありません!」


「花火もできん、経理も手伝えんでは無能中の無能ではないかぁあああ!!」


「いいえ!! 私が無能なのではなく。前任者が有能過ぎたのです」


「な、なにぃいいいいい!? アリアスがだとぉお!?」


「そうです。彼はあなたの提出する膨大な請求書を片手間で処理をして、8色の巨大花火を設計する。こんなこと、とても一般の設計士には真似できないでしょう。勿論、私にも無理です」


「ふざけんな!! 奴は魔法暦書を毎日読んでるただの歴史オタクだ! 街のみんなは変態扱いしてんだよ!! 奴は歴史オタクで変態の無能なんだ!!」


「所長の言うとおりよ! アリアスなんて歴史マニアのキモオタよ!」


「……その魔法暦書のことも調べました。彼はたった3ヶ月で1冊の魔法暦書を解読してしまう。通常なら1年以上もかかる代物なのです」


「だ、だったらどうだってんだ!? あんな古い書物、解読してどうだってんだよ!! なんの役にも立たんだろうが!!」


「いいえ。王都ロントモアーズは彼の解読した魔法暦書の情報で目覚ましい発展を遂げた。あなたが使っている亜空間に物を入れる収納魔法。それだって彼の解読でわかったことですよ」


「ぐぬぅううう……!」


「とにかく来月の誕生祭までには花火を設計しなければならないんです。時間がありませんので、失礼します!」


 本当に時間がない。


 このままだと大事な王都の誕生祭に穴を開けてしまうぞ。

 



◇◇◇◇


【ビッカ視点】


 クソ!


 シンの野郎が無能だったとは計算が狂ったぜ。


 同盟国ザムザではエリートだと聞いていたのだがな。


 肩透かしだ。


 俺は金庫を開けた。


「チッ! まだ1億コズンしかない」


 これじゃあ少なすぎる。


 遊んで暮らすには2億はいるからな。


「おい。副団長を呼んでこい」


 ミミレムは副団長のバラタッツを連れて来た。


「良い仕事はないか?」


「は!?」


「儲かる仕事だよ!」


「アリアスを追いやって研究費用が入るようになったのではないのですか?」


「少し予定が狂ってる。人を雇わねばならん」

 

 問題はシンだけでもないんだ。


 どうも研究所内の成果が悪い。


 このままでは研究費用を減らされてしまうからな。


 今のうちに儲かる仕事を探しておくのが得策だ。


「城内の灯りの明度が落ちていましてな。照明魔法の強化、魔力量の削減をしていただけましたら相当な額が王室から出るでしょう」


「城を照らしている灯籠はどれくらいあるのだ?」


「1000本以上はあるでしょうな」


「ほう……。じゃあ、その灯籠1本につき3割増しで改善費用を請求することにしようか」


 その3割を俺の金庫に入れるんだククク。


「さ、3割増し!? 流石にバレてしまいますぞ」


「なーーに安心しろ。王室からの研究所の信頼は絶大だ。多少多めの請求は目を瞑ってくれるだろうよ」


「し、しかし……」


「もっと金が必要なんだよ! 貴様だって副団長の仕事に飽き飽きしてんだろうが!」


「う、ううむ」


「あと1億コズンあれば、こんな研究所からは離れてやるんだ。俺は一生遊んで暮らしてやる。お前だって副団長を辞めて大金が手に入るんだぞ? 悪い話じゃないだろう」


「し、しかし危ない橋は渡りたくない。あ、あなたと組んで研究費用の横領をしていることがバレたら私は死刑だ」


 今は経理がユルユルなんだ。


 それを利用しない手はない。


 アリアスがいた時は奴のチェックが厳しすぎてできなかったが今ならできる!


 今のウチに大金を手に入れて、


「バレる前に高飛びしちまえばいいんだよククク」


「ううむ……。で、ではその仕事を進めよう」


 それでいい。


 脳筋バカは俺に従ってりゃあいいんだよ。


「あーーそれとな。アリアスを探せ」


 奴はまだまだ利用価値がありそうだ。


 やっぱり戻してこき使ってやろう。


 もしも、横領が発覚したらアリアスに責任を擦りつけることもできるしな。


 それまではたっぷり横領してやるぜ。


 ククク。

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