第10話 ビッカの手腕 【ビッカside】

 副団長バラタッツは小首を傾げた。


「国外追放をしたアリアスを探せとはどういうことです?」


「シンより使えるというだけだ。あいつの方が金が貯まるからな。口うるさくてクビにしたが利用価値はあったようだ。奴を戻してシンを切る」


「はぁ……。しかし、死んでいるかもしれませんよ?」


「それならもっと優秀な設計士を連れてこい。シンを探して来たのは貴様だろうが」


「彼は同盟国ザムザのエリートですよ?」


「そのエリートが役に立たんのだ」


「では、アリアスは使える人間だったのですか?」


「まぁな。少なくともシンよりマシだ」


「しかし、アリアスが生きていたとして帰って来てくれるでしょうか?」


 俺はバラタッツに手紙を渡した。


「そいつには帰って来たくなるような好条件が書き連ねてある。それを読めばイチコロだろうよククク」


 秘書のミミレムが俺を呼ぶ。


「所長。お客様です」


 所長室に入って来たのは美しい女だった。


 金髪でスタイル抜群。


 背は高く凛々しい顔つき。


 魔法騎士団長 エマ・コンヴァーユ。


 涎が出そうなほど美人だが、いかんせん真面目な女だからな。


 落とすのは難しそうだ。


「これはこれは、ようこそお越しくださいました。いつもながらお美しい」


 エマはズカズカと歩いて俺の前に立ったかと思うと、所長机を勢いよく叩いた。


ドン!



「アリアスが国外追放とはどういうことだ!?」



 なんだあの日かぁ?

 えらく怒りっぽいじゃねぇか。


 アリアスの件はそれなりに理由を用意しているからな。

 

「それが困ったことに奴は研究費用を横領していたみたいなのです」


「彼がそんなことをするはずがないだろう!!」


 チッ!

 あんな野郎のために熱くなりやがって。


「ははは……。随分と彼を庇いますね」


「当たり前だ! 彼は王都のことを常に考えてくれる良き理解者だったのだぞ!!」


「ただの歴史好きのキモオタですよ」


「横領の証拠はあるのか!?」


 そんなのあるわけねぇだろ。


 しかし、事前に証拠を捏造しておいたからな。

 

 ククク。俺の文才は王都一なんだよ。


「こちらに彼の横領の手口を列挙しました」


 奴の横領を10以上も捏造した。


 ククク、大悪党の誕生だ。


 エマは資料に目を通した。


 ワナワナと震える。


「ほ、本当にこんなにも横領していたのか?」


「え……。ええ。も、勿論です」


「…………」


「へへへ。奴はあなたが考えているような善人ではありません。悪党ですよ」


「この資料は綿密に調べさせてもらうぞ」


 調べられたら嘘がバレちまう。


 そうはいくかよ。


「その資料は返していただきますよ」


「なぜだ!?」


「神聖なロントモアーズ研究所に汚職所員を出したなんて世間にバレたら大変です! 王室の名誉にも関わる! だから内密に国外追放処分としたのです! 本当ならば禁固刑ですよ」


「しかしだな。その資料が間違っていたら……」


「おおっと! わかりました!! あなたがそれほどまでに言うのなら考えましょう!!」


「考える? 何をだ?」


「彼の復帰ですよ。アリアスのやった悪行は許せません! しかし、彼も人間です。悪いことくらい少しはするでしょう。そんな彼の悪行を許して、もう一度、この研究所に戻ってきてもらおうと思うのです」


「あ、悪行って……」


「ええ、もう言わなくともわかっています! 私は心の広い人間です! そしてなにより、部下の失態を許すことができる凄まじくよくできた上司なのです!! だから、彼を許して受け入れます!!」


「いや、あのそうじゃなくて……。彼が横領をした証拠をだな」


「そんなことを追求してどうするのです!? 悪行を確定させるのは彼のプライドを傷つける行為といっていい!! そんなことより彼を受け入れることが重要なんです!! 彼は国外追放になって反省しているでしょう。もう彼の悪行は許されたのです!!」


「…………とにかく、その資料をこちらに渡してくれ」


「いいえ!! そんなことはできません!! これは王室の名誉に関わることなのです!!」


「…………渡せ」


「名誉です」


「…………」


「王都の歴史に泥を塗りたいのですか?」


「…………」


「彼の悪行は水に流しましょう」


「…………」


「彼を許すこと。それが、すなわち王都の歴史を守ることへと繋がるのです。そしてなにより、この素晴らしい采配を下したのは、このロントモアーズ魔法研究所所長ビッカ・ウザインなのです!!」


 エマの懐疑的な視線が晴れることはなかった。


 しかし、そんなことはどうでもいい。


 どうせこの女も、副団長同様、戦うことしか頭にない脳筋バカなのだから、俺の天才的な思考に追いつけるはずがないんだ。


「では、アリアスを探さなければなるまいな。捜索隊を用意させよう」


 そうはいくかよ。


 エマがアリアスと接触するのはまずいんだ。


 奴から余計なことを言われたら厄介だからな。


 まずは解雇のわだかまりを解きたい。


 だから、俺の手紙が先に渡らないといけないんだ。


「それは副団長のバラタッツに任せています。エマ団長のお手を煩わすわけにはいきませんよ。ヘヘヘ」


 エマは釈然としないまま研究所を出て行った。


 時間がかかるのは避けた方が良さそうだな。 


 単独で動かれては困る。


「バラタッツ。早急にアリアスを探せ。エマに見つかるより早くその手紙を渡すんだ!」


「わかりました。急ぎましょう」


 死んでいれば都合はいいがな。


 生きていれば、また利用してやる。ククク。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る