第8話 兵士長のプライド 【ざまぁ後編】

 僕は不敵な笑みを浮かべた。






「両手さ」





 

 両手ぇ? とみんなは首を傾げる。



「魔法は、自然の中に存在する魔力(自然魔力)と、自分の魔力(体内魔力)を反応させて発生させるモノなんだ。ビクターの魔力量を減らしたのは両手を使って自然魔力を取り込んだからに過ぎない」


 

 兵士たちが騒つく中、ボーバンは黙っていられなかった。


「それにしても威力が大き過ぎるじゃないか!? 魔力量が半分なら威力は半分じゃないのか!?」


「そこが魔法の設計さ。体内魔力を減らすことがイコール威力の低減にはならない。体内魔力は魔法発動の起爆剤にすぎないからな」


「う、ううむ……」


「自然の魔力量は膨大だ。人間の魔力量はたかが知れてるからな。両手を使って自然魔力を使った方が何倍も楽なんだ。それに威力も増大するしな」


 僕ならばファイヤーボールの詠唱文でも容易に上位クラスの威力が出せるのだが、まぁ、今は黙っていようか。


「つまり、両手を使って自然魔力を取り込んだから、魔力量が半分でも数倍の威力があるファイヤーボールが撃てた。というわけだな。固定値が200なら体内魔力の限界値が300のビクターでも撃てるわけか……」


「古い風習に拘って、片手でやっていたら、若い兵士の可能性を潰してしまうよ」


「うう……」


 ビクターは僕の手を取った。


「アリアスさん、ありがとうございます!!」


 礼を言うのはこちらの方でもあるのさ。


 彼は命を賭けて僕を信じてくれたのだからな。


 お礼は実益を兼ねる。


 それが僕の性分なんだ。




「みんな聞いてくれ! 彼は勇敢な兵士だ。命を賭けて僕の指示にしたがった。この中に僕の指示どおりファイヤーボールを撃てた人間がいるだろうか?」




 場は騒ついた。


「い、いるわけがねぇ……。魔力量が200なんて、不発を起こして死んじまうよ!」

「ま、まったくだ! しかも両手を使うなんてよ!」

「ビクター! お前は凄いよ!! 認めてやる!!」

「ビクター! 今まで虐めて悪かったな! お前はアーシャーのように勇敢な男だ!!」


 いつの間にか拍手が湧き起こっていた。


 そんな中、ボーバンは膝を地面に落とす。


「うう……ア、アリアス……」


 やれやれ。

 何をするかと思えば、土下座の準備か。


「あーー。待て待て」


「ま、負けを認めてやる」


 部下がいる前で土下座なんてしてみろよ。


 彼にとってこんなに屈辱的なことはないだろう。


 ボーバンは、ブルブルと震えながら両手を地面についた。


「だから待てって」


「し、しかしだな。土下座をして詫びると宣言した。俺は魔法兵士だ。言ったことは守る」


「僕は実益に伴わない行動は嫌いなんだ。君の土下座がなんの役に立つ?」


「そういう問題ではない。わ、私のプライドの問題だ。嘘をついたのではアーシャーに顔向けできん」


「あのなぁ……。君と約束しただろう? 設計士を認めるって」


「そ、そんなのは。当然認めるに決まっている」


「それとな。設計士の仕事を協力するって約束もあったはずだ」


「それは……。勿論。協力する」


「だったら立ってくれ」


「な、なぜだ!?」


「仕事仲間を土下座なんてさせるものか」


「な、何!?」


「僕のプライドの話さ」


 ボーバンは目に涙を溜めていた。


 ゆっくりと立ち上がると、頭を下げた。





「すまん。俺が間違っていた」





 場は静まり返る。


 ボソボソと声が聞こえてきた。


「あの兵士長が頭を下げたぞ?」

「マ、マジかよ」

「どうなってんだ??」


 すぅーーーー、っと息を吸い込む。



パン!



 と、手を叩いた。


「はい! んじゃあおしまいな! 僕は辛気臭い空気は苦手なんだ。これからは仕事仲間なんだぞ。楽しくやろう」


 そう言って握手を求める。


「う、うむ……」


 ボーバンは照れ臭そうに僕の手を握った。


 ふふ、なかなか素直な奴だ。


「よろしく頼むな」


「あ、ああ……。こ、こちらこそ」


 みんなは声を上げて大喜び。


「うはぁ!! 兵士長が握手してんぞ!」

「真っ赤な顔になっちゃってぇ!!」

「なんか知らねぇがいいぞいいぞおお!!」


 ボーバンは煙たがるように眉を寄せた。


「てめぇらいい加減にしないか、まったく……」


 カルナは満面の笑み。


「へぇ〜〜。冴えない奴かと思ったけど。アリアスって中々やるじゃない」


 ふむ。

 丁度いい。


「これを機に魔法兵団の兵力を底上げする。ついてはその成果報酬をいただきたい」


「な、何よ、それぇ??」


「僕はボランティアじゃないんだぞ。魔法の設計士だ」


「だからって、この感動に水を差す訳?」


「実益に反する行動は嫌いなんだ」


「うう……。一体いくら欲しいのよ? 少しくらいなら王室に掛け合ってあげるけどさぁ……」


「そうだな……。1000万コズンくらいが妥当かな」


「い、1000万コズンンン!? ちょっとそんな大金が出る訳ないでしょう!!」


「出せるさ。魔力量を減らしてファイヤーボールが撃てれば、見習い兵士から本採用される兵士が増える。それだけでも国の戦力は増強だ。しかも威力増しのオマケつきなんだぞ。1000万コズンでも安いくらいさ」


「いい商売してるわねぇ〜〜」


「さて、臨時収入はしっかりと入るんだ。ツケで食事ができる所を知らないか? できるだけ美味い飯が食いたい。みんなで祝賀会を開こう。ボーバンたちも参加してくれると嬉しいよ」


 ララは戸惑った。


「わ、私たちがアリアスさんの歓迎会をしなければいけませんよ!」


「じゃあ、それも兼ねてくれ」


「そ、それに祝賀会って何を祝うんですか?」


 そんなの決まっているじゃないか。




「ジルベスタル魔法研究所が大活躍することを祝ってさ」




 さぁ、忙しくなるぞ。





◇◇◇◇


【シン視点】


 私はアリアスの実績を調べていた。


 奴は膨大な経理の仕事を片手間でこなし、8色の巨大な花火魔法を設計する人物なのだ。


「奴は無能じゃないのか?」


 所長の話だと、研究所に多大なる被害を出している男だと聞いた。


 一体どんな被害なんだ?


 無能だから解雇になったのではないのか?


 それは王室からの報告書だった。


「な、なんだこれは!?」


 攻撃魔法の魔力削減、及び威力増大。


 各種生活魔法における魔力削減、及び威力増大。


 補助魔法の魔力削減、及び……。


 ひゃ、100項目以上あるぞ……。


 ぜ、全部。


 設計者はアリアスだ!


 王室から高評価だった魔法の設計……。


 そ、その全てが奴の成果じゃないか!


 ビッカ所長はこのことを知っているのか!?



────────


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