第6話 アフロヘアの兵士長

ーー魔法兵士訓練場ーー


 そこは大きな広場だった。


 20メートル先に何本も的が立っている。


 総勢50名以上の魔法兵士が訓練をしていた。


 的にめがけてファイヤーボールを放つ。


ボン!!


 詠唱姿勢を片手でやるのか。


 随分と特殊だなぁ。


 先頭に立つ体の大きな男は兵士長だろうな。


 褐色の筋肉質。大きなアフロヘアーが特徴的だ。

 

 男は高圧的に声を張り上げた。


「魔力量は400に固定ィイイイ!! アーシャーのようにぃいいい! 撃てぇええええ!!」


 号令とともにファイヤーボールが飛び交う。


ボボボン!!

 

 カルナは自慢げだった。


「ね。真面目に訓練してるでしょ?」


 取り組み姿勢は関係ないんだ。


 問題は魔法の設計さ。


 それに、よくわからない言葉もあるしな。


「アーシャーってなんだ?」


「王都ジルベスタルの魔法兵士よ。300年前の英雄ね」


 英雄の名前を出すのか……。


 随分と歴史に拘っているんだな。


「ガハハ! これはこれは、第二騎士団長カルナ殿! あなたのような美しい方がどうしてこんな所に?」


「ちょっと見学よ。新しい設計士が来たの」


「設計士ぃい?」


 彼とはこれから長い付き合いになるだろうからな。


 挨拶をしておこうか。


「僕はアリアス・ユーリィ。よろしく」


「ボーバン・ノーキンだ。魔法兵団の第四兵士長をしておる」


 彼はララを睨みつけた。


「花火屋がうちになんの用だ? また、誇り高き魔法兵団の歴史にケチをつけにきたんではないだろうな?」


 やれやれ。

 ここでも花火屋と言われるのか。


 随分とお粗末な職業だな。


 それにしてもこの訓練。


 随分と熱がこもっている。


 何か理由がありそうだな。


 探ってみるか。


「熱心な訓練だな」


「ふん。我が、兵団に一片の隙なしだ」


「それにしては無駄が多いが?」


「何ぃいいい!? 貴様、もう一遍言って見ろ」


「無駄が多いと言ったんだ」


「ちょ、ちょっとアリアス! あんたいい加減にしなさいよね。見学って言ったじゃない。喧嘩を売ってどうすんのよ!」


 目的は設計士の認知にすぎん。


 見学なんて悠長なことがしてられるか。


「何度でも言ってやるさ。魔法の訓練は無駄だらけだ」


 ボーバンは僕の胸ぐらを掴んだ。


「き、貴様ぁああ。300年続いた魔法兵団の訓練をバカにするとはいい度胸だなぁああ」


「歴史より実績だ。王都は君たちの兵力で守れているのか?」


「う……」


 ボーバンは図星を突かれたように顔をゆがめた。


 どうやら熱心に訓練をしているにはそれなりに事情がありそうだな。


 カルナは腕を組んだ。


「実は最近、 高防御ハード系のモンスターが増えてんのよぇ」


高防御ハード系?」


「すっごい防御力が高くてね。物理じゃ攻撃が効かないのよ。それで魔法攻撃の需要が高まってんの」


「なるほど……」


 新種か。


 僕が以前いたロントモアーズでもそういった敵と戦っていたと思うが、あの国には僕が4年間もいたからな。


 魔法兵団から討伐の相談などほとんど受けたことがなかった。


 この国は 高防御ハード系のモンスターに苦戦している。


 これは設計士の仕事を生かすチャンスだぞ。


「それ故に日夜、鍛えておるのだ! 花火屋と戯れている時間などないのだ!! わかったらとっとと帰れ!!」


「鍛えるって何をだ?」


「魔力量に決まっておるだろうが? バカが、そんなことも知らんのか?」


「魔力量を鍛えるねぇ……」


「戦地に出る者は基本1000以上の魔力量を備え、今ではファイヤーボールが1時間で3回以上も放つことができるのだぞ! これぞ訓練の賜物!!」


 やれやれ。

 魔力量は内在してる力だからな。


 いくら鍛えても限界があるんだ。


 本当に何も知らないようだな。


「なぁララ。君は関与していないのかい?」


「……い、以前に設計をしたことがあるのですが……」


 なんだか、いい話ではなさそうだな。


「兵団の方々は魔力量を500固定でファイヤーボールを撃っていました。それを400まで下げたのです」


 随分と成果が出ているじゃないか。


「でも、威力が変わらなくて……」


「ふん! 我が魔法兵団には300年の歴史があるのだぞ! 魔力量を下げて撃つなど軟弱者がする愚行だ。それでも効率的だからと、俺は嫌々従ったにすぎん」


 めちゃくちゃな理論だな。


「花火屋がごちゃごちゃと国防に口を挟むな! お前たちの安全は俺たちが保障してやるんだ! わかったらとっとと帰って祭りの花火でも考えてろ!」


 そうはいかないんだよな。

 

「ファイヤーボールの威力を上げれば済む話だろ?」


「そ、そうはいかないんですよ。兵団には300年の歴史があって、とても難しいんです」


 やれやれ。


「国を危険に晒す歴史なんてどうでもいいと思うがな」


 ボーバンは再び僕の胸ぐらを掴んだ。


「貴様ぁああああああ!! いい加減にしろよぉおおお!!」


「謝りなさいアリアス! 今の言葉は騎士団長の私だって聞き捨てならないわ!!」


「大事なのは成果だ」


「だったら見せてみろぉおお!! 今すぐファイヤーボールの威力を上げてみろぉおおお!!」


「ああ、言われなくてもそうするさ」


 ボーバンは剣を抜いた。


「貴様、そこまで大口を叩くならわかってるだろうなぁ? もしも、俺が納得しない結果だったら貴様の両手を叩き斬るぞ!?」


 手の平は、自然の魔力量を使うために必須の部位だ。


 もしも、両手が無くなったら設計士でいられなくなるだろう。


 ふ……。

 僕の職業生命を賭けろと言うのか。


「いいだろう。君が納得する成果を出してやろう。その代わり──」


 リスクに似合ったものを提供してもらうぞ。


「──僕が成果を出した時、君には謝罪をしてもらう。それと、設計士の仕事を助けてもらうからな」


「ぎゃはは! 大きく出たなアリアス!! 俺が負けたら土下座でもなんでしてやるよ!!」


 ボーバンは1人の魔法兵を呼んだ。


 体をブルブルと振るわせて自信なさげに挨拶をする。

 

「ぼ、僕は魔法兵団見習いのビクターと言います」


 見習い?

 まだ、本採用じゃないのか。


「がはは! ビクター。貴様にチャンスをやる! 今からファイヤーボールをあの的に当ててみろ」


「そ、そんなぁ。僕にはまだ無理ですよ」


「何を言う。家族の仇を討ちたくないのか? 的に当てれば兵団に採用してやるぞ」


「や、やります!!」


 ビクターは魔力量を300まで上げていた。


 どうやらここが彼の限界値のようである。



「アーシャーのように! ファイヤーボール!!」



ボン!!



 しかし、その魔法は的の手前で消滅した。


 そうなるだろうな。


 400でギリギリ当たる設計なんだ。


 300の魔力量で届く訳がない。


「あああああ! うう……僕には才能がないんだ……」


「がはは!! 見習いでもファイヤーボール1つ撃てんとは未熟な奴よ!! どうだ、アリアス。こいつのファイヤーボールを的に当てることができたら、貴様を認めてやろうじゃないか」


 なるほど、落ちこぼれを強化させる訳か。


 悪くない。


 実益に叶っている。


「無茶です!! こんなのアリアスさんにとって不利すぎます!! ビクターさんの魔力量は300が限界。内在する魔力量を設計で増やすことはできないんですよ!!」


 うん。

 知ってる。


「がはは!! どうしたアリアスゥウウ。できないかぁああ? これができぬば、貴様を認めることはできんなぁああああ!」


 僕は眼鏡を人差し指で上げた。



「勿論。やるに決まっているさ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る