翌日、百実に屋上に呼び出された。

「私達、別れよっか」

「は?」

 今さら何言い出すのこの子は? と目を見張った。

 百実はそれを別の意図と勘違いしたのか「気づいてないと思った?」と涙ながらに訳を話した。

「小百合、ずっと私に殺意を向けてたでしょう? 私がいくら楽しませようとしても、いっつも睨んできて……ずっと苦しかったんだから!」

 その瞬間、小百合は100回目の殺意を抱いた。

「被害者ぶってんじゃないわよ、クソビッチが!」

 今まで溜め込んでいた殺意が、一気に体を突き動かす。

 自分でも驚くほどの速さで百実の首をつかみ、アスファルトの地面へ組み敷いた。

「あんたの無神経さのせいで、私がどれだけ苦しめられたと思う?! 笑われて、馬鹿にされて、裏切られて……全部冗談で済むわけないでしょうがッ!」

「あ、が……ッ」

 百実は呼吸ができず、パクパクと口を動かす。殺されそうになってもなお、自分がなぜ小百合に恨まれなければならないのか、理解していない様子だった。

 やがて百実は動かなくなった。

 小百合も首の変化に気づき、恐る恐る手を離す。百実は起き上がらなかった。

「やった……ついにやった!」

 小百合は百実から解放され、喜んだ。心からのガッツポーズをし、歓喜に声を上げる。

 しかしなぜか、瞳から大粒の涙が浮かんだ。

「どうして……? どうしてあれだけ憎んでいたはずの百実を失って、私は"悲しい"だなんて思うの? この手で殺したはずなのに」

 たちまち、百実との楽しかった思い出がよみがえる。

 小百合は悲しみと喪失感で発狂しながら、屋上から飛び降りた。

 100回目の殺意を抱いた瞬間は、ノートに記録されなかった。


(終わり)

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100回目の殺意 緋色 刹那 @kodiacbear

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