第9話 三勇者、同盟を組む

「一党ではなく……同盟、ですか?」

「そうです。我々に上下の関係は無く、あくまでも対等。さながらソロパーティー三組の同盟関係、とでも言いましょうか。」


 大規模な討伐依頼やダンジョン攻略に際し、一党同士が協力し対等な同盟関係を結ぶ事例がある。これはその縮小版のようなものだと"鬼謀"が補足する。

 お互いに対等な同盟ということであれば、同じ一党に勇者が複数人在籍していることにはならず、また誰が頭目だとかそういう煩わしい上下関係は無いに等しいと言える。

 しかし懸念が無い訳でもない。少女勇者が恐る恐る手を挙げた。


「あ、あの……同盟、なんですよね? その、お互いに利益メリットがなければ同盟を組む理由が無いと思いますが……」

「おや、そこに気が付くとは随分と博識ですね。もしや同盟周りの説明の必要が無い?」

「き、恐縮です。本で読んだ程度の知識ですが──」

「あー、わからん。俺にもわかるよう説明してくれ」


 すっかり蚊帳の外の"暴勇"が申し訳無さそうに手を挙げる。


「ふむ……でしたら──」


 そう言うと"鬼謀"は紙を取り出し手早く三人の顔を描くと、その間を対等を表す二本線で結んだ。


「"暴勇"の、貴方にはそのものズバリ武力をお貸しいただきたい。貴方の戦闘力に目を向ければ、他の追随を許さぬものがありますのでね」

「ほぉ、悪い気はしねぇな」


 純粋に実力を認められてるからか、"暴勇"は面映ゆそうにする。さらに、紙に図面を描いての説明もあってか理解をも促した。


「また同盟の旗印も兼ねてもらいます。」

「つまりは俺が頭目(リーダー)ってことだな? いいぜ、乗った」


 頭目と聞き、彼は二つ返事で了承した。


「形式上は、ですがね。あくまでも我々は対等の存在であることをお忘れ無く。では次に、貴女には兵力と死霊……失敬、『勇者魔法』をお借りしたい。主に"暴勇"が仕留めた敵を片っ端から蘇生してこちらの兵力に加えるんです。勿論、できる範囲で構いませんので」

「や、やってみます……!」


 必要とされたことが切っ掛けとなったのだろう、少女勇者は俄然意欲を示した。


「ああ、それと"暴勇"が死なないよう見張っててください。彼、前に出過ぎると危険ですので……いざという時は件の回復魔法も容赦なくかけてやってください」

「ちょっ、いきなり責任重大じゃないですか!?」

「そうですよ。謂わば我々の命綱です。頼みましたよ?」


 急な大役を言い渡され少女は少し胃が痛くなった。


「最後に私ですが……戦術を提供させてもらいます」

「おう頭脳労働たぁいいご身分だな、ブチ殺すぞ」

「私、生憎とこれしか取り柄がありませんので」


 クツクツと笑いながら悪びれもせず宣う"鬼謀"。


「折角の一騎当千の武力や天下無双の兵力があっても適切な使い方をしなければ宝の持ち腐れというもの。狭い通路で長剣を振り回す者はおりますまい?」

「……まぁ、そうだな」


 "暴勇"が苦い顔をする。さては昔やらかしたことがあるようだ。


「だがよ、テメェの作戦が気に入らない場合はどうする?」

「と、言いますと?」


 はて、と"鬼謀"が首を傾げると、"暴勇"は顔をしかめながら少女勇者へと向き直る。


「なぁおい嬢ちゃん、今から爆弾担いで敵陣突っ込んで来いって言われたらどうする?」

「え、嫌ですけど」

「そういうことだ」

「え、どういうこと!?」

「この腐れ外道はな、こういう作戦を平気でやりやがるんだ」


 少女勇者は"鬼謀"を見て震え上がった。真に恐ろしいのは"暴勇"などではなくこの澄ました顔の男の方なのではなかろうか?


「ふぅむ……致し方ありませんな。では、大規模かつ重要な作戦は同盟全員の同意が得られた場合のみ実行と致しましょう。無論、現場の状況は刻一刻と変化するもの。時と場合によっては全員の同意が得られない場合もありますので、その際は現場の裁量に任せる方針でよろしいかな?」

「チッ、テメェはいちいち回りくどいな……要するに『やりたい事があるなら事前に相談しろ』ってことだろ?」

「そういうことでしたら異議はありませんね」


 3人の勇者は顔を見合せ頷いた。


「決まりましたな。では同盟の活動拠点には、引き続きこの家をお使いください。ああ、それと共有スペースの掃除は分担制とします。その他細かいルールは壁に貼ってありますのでそちらをご覧ください。それから報酬の取り分と管理は──」


 その後、小一時間ほど"鬼謀"の独壇場であった。

 粗方の説明を終える頃には昼前になっていた。


「……終わったか? んじゃ、同盟結成を祝して飯でも食いに……」

「お待ちを、我らが同盟にはまず最優先でやらねばならぬことがあります」

「やらねばならぬこと、ですか?」


 一体何だというのか。二人の勇者は顔を見合せ訝しんだ。


「それはですね……この物件の維持です。家賃を工面しなくては」

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