第7話 模擬戦ですからね

「……落ち着いたか?」

「グズ……はい……ご迷惑をおかけしました……」


 溜め込んだもの一通り吐き出し、泣き止んだ獣人勇者が頭を下げる。


「まぁ、なんだ……最初から全部出来る奴は居ねぇんだわ。勇者になったからっていきなり出来るようになる訳でもねぇ。だったらよ、今から学んで行きゃいいんじゃねぇか?」


 "暴勇"はそう諭すも、獣人勇者は首を横に振った。


「ですが私は……"暴勇"様に一騎討ちで負けてしまった……もう、勇者でも何でもありません……」

「……ところが、そうでもないみたいですよ?」


 獣人勇者は顔を上げると"鬼謀"を見据えた。


「何を馬鹿なことを……その場に居なかった貴方はわからないでしょうけど、あれは完全に私の負けでした」

「ですがそれは模擬戦でしょう?」

「あ……?」


 "暴勇"が首を傾げる。獣人勇者も同じ反応をしていた。


「貴方たちが戦ったあの場所は訓練場。ならばそこで行われるのはあくまで模擬戦、則ち訓練の一環です。戦場ではありません」


 誰もが唖然とする中、"鬼謀"は語り続ける。


「しかしあれは一騎討ちで……」

「模擬戦ですからね、一騎討ちが当たり前です」

「お互い本気でやって……」

「訓練ですからね、本気で挑まなくてどうします?」


 言われてみれば確かに"鬼謀"の言う通りである。

 あの時の状況を思い返すと、実戦さながら派手に打ち合いはしたものの、実際の状況は驚くくらい『これは模擬戦です』と言い訳がつく。

 その後も"鬼謀"は獣人勇者の言い訳を次々と論破していく。


「うぅ……しかし私は負けてしまった訳で……」

「先程も言いましたがこれは模擬戦なのですから、負けた内には入らないでしょう。つまり貴女はまだ、勇者なのですよ」

ギィ・ヴァ・ユーナッ屁理屈を言うな!!!」


 村の方言だろうか、よく聞き取れない言葉を叫び"鬼謀"に掴み掛かろうとして"暴勇"に拳骨をもらう獣人勇者。


「うぅ……わ、私は、勇者失格だっ……それでもまだ、勇者でいて良いのですか……?」


 再び大粒の涙を流す。獣人勇者の問いに対し、"暴勇"と"鬼謀"顔を見合わせると笑って答えた。


「当たり前だよなぁ?」

「ええ、もちろんですとも。現にここに居るのは皆、一度は勇者失格な者ばかりです」


 "白骸"も頷き、獣人勇者の手を優しく握った。


「これから一緒に学んで行けばいいんですよ、ね?」


 感極まった獣人勇者が泣き止むまで3人は待った。

 この日【追放勇者同盟】に新たな盟友が加わった。

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