第6話 私、どうすれば良かった?

「なるほど、私が依頼の報告をしている間にそんな面白いことが……」

「笑い話にもならねぇ……」


 同盟の拠点に戻って来た勇者たちは事の顛末を共有する。一部始終を聞いてクツクツと笑う"鬼謀"と、げんなりした顔の"暴勇"。その隣には先程までの勇ましさはどこへやら、すっかり大人しくなった獣人勇者が座っていた。


「えっと……改めまして、"白骸"の勇者です。よろしくね?」


 歳の近い"白骸"が獣人勇者に握手を求める。

 だが、獣人勇者は臭いを嗅ぐと警戒心を剥き出しにして唸りを上げた。


「……貴様、死霊術師だな? 死の臭いが染み着いてるぞ。それに貧弱過ぎる。よく今まで生きて来れたな?」


 そこまで言わなくても……と、"白骸"は苦笑いする。

 見かねた"暴勇"が獣人勇者の頭に拳骨を叩き込んだ。


「人を見掛けで判断するんじゃねぇ! 確かにコイツらは腕っ節じゃ俺どころかお前にも勝てんだろう。だがな、"白骸"も"鬼謀"も、お前より……いや、俺よりも強いぞ」

「痛っ……い、言ってる意味がわかりません!」


 獣人勇者は頭を摩りながら反論した。立場をわからされたのか"暴勇"に対しては敬語になっている。


「……わからねぇか。だろうな……だから仲間に逃げられるんだ」

「!?」


 獣人勇者が目を見開く。まるで心の中を見透かされたかのような反応であった。


「『何で知ってる?』って顔だな? 正直に言うとな、今のは只の勘だ。俺は"鬼謀"どころか"白骸"の嬢ちゃんほど頭は良くないからな、難しく考えるのは苦手だ」


 "暴勇"が自嘲気味にぶっちゃける。


「ただ、お前さんが何度も繰り返してた言葉が妙に気になってな。『私の群れに弱者は不要。ついて来れる強者のみ求む』……だっけか? ……それ、前の一党でも同じこと言ってたんじゃねぇか? そんで最終的に誰もついて来れなくなって一党は解散……どうだ、当たらずしも遠からずってところだろ?」


 "暴勇"の意外な一面を垣間見た一同は目を見開いた。

 本人は難しく考えるのは苦手と言う割には、大した洞察力と勘の鋭さを持ち合わせているようだ。これには"鬼謀"も感心してしまう。


「貴方、戦闘以外でも頭回るじゃないですか。何でそこまで考えられるのに追放されたんです?」

「ほっとけ……ありゃ結局、馬が合わなかったんだ……俺は悪くねぇからな?」


 過去の過ちを引き合いに出され"暴勇"は苦い顔をした。


「……だって……だって、そんなこと誰も教えてくれながった……! 村では幼子でも出来ること、ここではみんな出来ない……! 知らながった……! 群れの長、仲間守る……! けど人間、みんな弱い……! 弱い奴、すぐ死ぬ……!」


 心の内を看破され、獣人勇者は大粒の涙を溢した。


「わだ……私、村で一番強がっだ! 私、勇者なっだ! 勇者、村出る! 新しい部族、作る! 私、もう『銀牙』戻れない! 村帰れない! 掟だがら! 試練だがら…! グスッ……けんど私、村作り方、さっぱどわがんね! 群れ長のやり方゛、わがんね! 誰も教えでぐれね゛ぇ! ねぇ……何が悪がっだ? わ、私……どうずればよがっだ……?」


 片言で訛りながらも飾らない言葉を紡ぐ。泣きじゃくりながら己の弱さを吐き出す姿は、勇者ではなく只の年相応の少女のそれであった。


「ふぅむ……辺境の獣人部族特有の文化、というやつですか……いやはや、なんとも手厳しいですな」

「えぇと、つまりこういうことか? 『勇者の天啓を受けた者は新たな部族の長となる為に独り立ちしなくてはならず、元居た部族に戻ることは決して出来ない』……ということで合ってるか?」


 "暴勇"の問いに獣人勇者はコクリと頷く。

 それに対し"白骸"が疑問をぶつけた。


「待ってください、勇者として村を出る前に長として仲間を率いるノウハウを教えてもらえなかったんですか? こんなやり方、おかしいですよ……」


「ふむ……恐らくですが、なまじ戦闘の才能があったのと、周りの友人が自然とそれに追従してきてたので、頭目リーダーの才もあると勘違いしたまま独り立ちしてしまった……という感じですかね?」


 "鬼謀"の推測は的を射ていたようで、獣人勇者は再度心中を見透かされたかのような顔をした後、静かに頷いた。

 ただ強いことと頭目の才があることは全くの別問題である。それを理解せぬまま村を出てしまった彼女の苦労と心中は想像に難くない。

 そして、再び一党を立て直そうとする目論みも、通りすがりの"暴勇"によって得物ごと砕かれてしまった……という訳だ。


「グズッ……勇者、村の誇り……新しい部族、作るまで、負げるの、ダメ! 勇者、負げる……村の恥だ! ずっと、ずっと、村の恥だ! だ、だがらせめで、強い子、産む……! きっど強い、勇者なる……! 強い子、産む……!」

「わーっ!? だから脱ぐなって! ステイ! ステイ!!」


 突然の獣人勇者の蛮行を"白骸"と"暴勇"の2人がかりで止めにかかる。


 はてさてどうしたものか……と、"鬼謀"は顎に手を当て思案を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る