第6話 3人の追放勇者たち

「……だから私は、勇者なんかじゃありません……ただの"化け物"……なんです」

「……なるほど」


 少女勇者の話しを一通り聞き終えた"鬼謀"は、目を閉じ顎に手を当て思案する。

 殺した敵の骨を使役し、瀕死の仲間を死ぬ寸前まで酷使する……およそ勇者のするような行いではないだろう。


「確かに、貴女は勇者ではないのかもしれませんねぇ」

「っ……ごめんなさい、私はこれで……」


 "鬼謀"の歯に衣着せぬ物言いに、少女勇者は席を立とうとする。

 当然だ、こんな悍ましい魔術を使う者が勇者であろう筈が無いのだから。



 が、しかし──




「素晴らしい!」




「……え?」


 "鬼謀"から発せられた言葉は、少女勇者にとって予想外そのものであった。


「やはり貴女には才能がある」


 "鬼謀"は少女勇者の手を取り細い目を見開いて真剣な眼差しで訴える。訳がわからず目を白黒させる少女勇者。


「だ、だから私には才能なんて……」

「貴女自身は、勇者になる才能は無いかもしれません。ですが……閃きました」


 改めて少女と目線を合わせ語りかける。


「共に、彼を勇者にしませんか?」

「ぇ……えぇっ?」


 少女は彼の言っている意味がまるでわからなかった。

 彼が指し示した先には、大剣を背負った赤髪の大男が寝息を立てていた。




「さてさて、そうと決まれば長居は無用。夜も遅いですし、続きは翌日にでもしましょうか」


 そそくさと帰り支度を始める"鬼謀"に少女勇者は呆気に取られてしまった。


「ま、待ってください! 私、まだやるとは言ってな……」

「ああ、マスター。彼と彼女の分も一緒に支払いで。今日は私の奢りです」


 またもや呆気に取られる少女勇者。


「ちょ、ちょっと待ってくださいってば! 一体何なんですか、貴方は……!?」

「ん? ああ、これは失礼。自己紹介が遅れました。私、"鬼謀"の勇者などと呼ばれております」

「"鬼謀"の……勇者ぁ!?」



 本日何度目かわからない驚愕の悲鳴をあげる少女勇者なのであった。




 その後、少女勇者は酔っ払いの大男こと"暴勇"の勇者──紹介された時、少女は再び度肝を抜かれた──を"鬼謀"の勇者の拠点に運ぶのを手伝わされた。

 ついでに、この先行く当ても宿も無かった少女勇者は"鬼謀"の薦めもあり、渋々だが彼のもとで厄介になることになった。

 ここは元々"鬼謀"の一党パーティーでシェアして暮らしていた物件であったため、幸い個室には困らなかった。



 ──翌朝。


 少女勇者が着替えを済ませリビングに出るとエプロンを着けた"鬼謀"がにこやかに出迎える。


「おはようございます。よく眠れましたか?」

「はい、お陰様で」


 少女は苦笑しながら答えた。悔しいが、この家のベッドは実家の寝床とは比べ物にならないくらい格別であった。


「それは結構。ああ、朝食は軽めでよろしいですね?」


 食卓には既に人数分の朝食が用意されており、今から断れる空気でも無いので田舎娘は静かに頷き席へと座る。

 美味しそうな香りに腹部が催促の悲鳴をあげる。身体は素直なのが憎い、少女勇者がそんなことを考えていると扉が開き、"暴勇"がのそりと姿を表す。

 ……明らかに二日酔いだろう、酷い有り様だ。


「うぁ゛……頭痛ぇ……」

「おはようございます、"暴勇"の。ささ、顔洗って朝食にしましょう。二日酔いに効くスープもありますよ。ああ、お手洗いはそちらの角ですよ」

「お゛ぅ……ちょっと待て、コイツ誰だ……?」


 さしもの"暴勇"も見知らぬ少女が視界に入れば、いやがおうにも気になるものである。


「あ、あの……お2人はこちらで暮らしてるのですか?」


 先程から甲斐甲斐しく"暴勇"の世話をする"鬼謀"に対し、少女は素直に疑問を口にした。


「ふむ……そう言えば説明がまだでしたね。では、朝食を食べながら自己紹介も兼ねてそこら辺の擦り合わせをしましょうか」

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