ギャルに声をかけられた

シオン

ギャルに声をかけられた

 街を歩いていたら前方の女の子が目についた。シャツに栗色のガーディアン、黒いスカートからして学生だろうか。髪こそ染めてはいなかったが、俗に言うギャルというやつだろう。


 僕はあまりギャル等のカースト上位者が好きではない。学校ではたまに標的にされて笑われるし、座りたい時に自分の椅子に勝手に座られているし、何より高圧的な態度が苦手だ。見ていて可愛いとは思うけど、それと付き合えるかは話は別だ。


 僕は目をつけられないよう端を歩いていたら何故かそのギャルと目が合って、近寄ってきた。


「ねぇ」


 ギャルに声をかけられ、緊張する僕。


「悪いんだけど、お金貸してくれない?」


 ギャルは金を無心してきた。僕はたかられているのだろうか?


「ど、どれくらい?」


 本当は払いたくないけど、ここで大声上げられて社会的に殺されても嫌だ。でも、○万円とか要求されたら嫌だなぁ。


「240円」


 僕はこけそうになった。240円?それくらい無くても良いだろうに。


「あっ、不思議そうな顔してるね。私だってこの額のために赤の他人から借りようとしてるわけじゃないんだからね!」


「じゃあどんな理由で借りようとしてるんですか?」


「電車に乗って帰ろうとしたら財布がないことに気付いたの。多分どこかで落としたんだろうなぁ。だからせめて電車代だけでも欲しいの」


「あ、そういうこと」


 僕は状況を理解して100円硬貨2枚と10円硬貨4枚を財布から取り出し、ギャルに差し出す。ギャルは「悪いね」と気さくに笑った。


「後で返したいから連絡先教えて?」


「いいですよそれくらい」


「ダメよ、お金の貸し借りはきちんとしなきゃ」


 律儀な娘だと思った。240円くらい普通に踏み倒されても文句は言わないのに。


「じゃあまた後でね!」


 ギャルと別れを告げて、僕も帰路につこうとした。すると足元にピンク色の財布を見つけた。悪いと思って中の保険証を確認したら、先ほど交換した連絡先と名前が同じだった。



「あぁ!それ私の財布!」


 放課後、僕はギャルと連絡して駅で待ち合わせした。昨日拾った財布を返すためだ。


「たまたま見つけたんですよ。本当に、たまたま……」


 善行を働くことが照れ臭いのか、僕は言い訳をするように言った。しかし、彼女はそんなこと気にしてないと言わんばかりに喜んでいた。


「ありがとう!この中にバイト代も入ってたから一日中不安だったの!」


 バイト代か。ギャルと聞くと悪いバイトを連想してしまうが、この娘はそんなことしなさそうだった。なんか、普通に良い娘だ。


「じゃあ僕はこれで」


 僕は背を向けて帰ろうとすると、背後から手を掴まれた。ドキっとして振り向くと、彼女は笑っていた。


「まだ昨日の電車代を返してないよ?」


 あぁそうだった。元々それが目的だったんだ。


「でも、財布も拾ってもらったから電車代返すだけじゃ釣り合い取れないよね?だから今から遊びにいこう?」


「遊びに、ですか?」


 釣り合いが取れないことと遊びに行くことに何の関係があるんだ?


「大丈夫。私が全部奢って上げる。それに、君に少し興味がでた」


「えっ」


 困惑してると、彼女は僕の手を引いて駅を後にした。僕は断ることもできず、ただ流されてしまう。


 まさかこれがきっかけで彼女と関わることになるとは、この時は思っていなかった。



おわり

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