霞 ③

 コミカルなんて、褒めていないだろう。楽しみにしていた手紙を開いて最初に目に付いた言葉がコミカルだぞ。このやり場の無い怒りをどうしてくれるんだ。



 裏腹というその気持ちは良く分かるよ。自分で言うのも恥ずかしい話だが、令嬢としての私の振舞いに隙は無いと思う。しかしそういう時ほど、思ってもいない相手への賛辞が絶え間なく飛び出てくる。

 少年はそういう経験はないかい?



 私にとって、少年からの手紙はもう特別なものになりつつあるよ。顔は見せることは叶わないけれどね。願わくば永くこうして手紙を交わし続けたいものだよ。

 嘘は良く無いぞ少年。君の手紙からは熟練の女慣れした気配を感じるよ。なんて、冗談だ。許してくれ。



 スタンプはどうかな。君の希望通り白い椿で作ってみたよ。椿は成長が遅い分寿命が長い人間のような花でね。真冬でも立派に咲き誇ることができる強い花なんだ。

 私とは似ても似つかない、美しい花だ。少しでも少年が喜んでくれたら嬉しいよ。



 それは良いことを聞いた。妹君に感謝を伝えておいてくれ。君の兄が1人の人間の心を満たしている、君の兄はとても素晴らしい人だと、ね。



 話は変わるが少年。少年は年齢的に受験生ではないのか? そろそろ本格的に受験シーズンが到来する。ちゃんと勉強は進んでいるか? 志望校は決まっているのか? 自分のことを疎かにして手紙ばかり書いていてはいけないぞ。


 また、返事を待っているよ。



                   霞

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